自閉症娘の感じてる世界って?オンライン疑似体験で感じた知識とは違う「リアル」。もっと早く受ければよかったと後悔も
娘との会話から
娘が中学生のときのことです。
私「バス通り沿いのお菓子屋さん、違うお店になってたね」
娘「どこ?」
私「○○バス停の近くのお店。ほら、△△交差点の…」
娘「…分からない」
私「えっ、しょっちゅうバスで通ってるのに⁉」
バスの中で娘が携帯電話に夢中になっていて外を見ていないせいかな?とも思いましたが、そこは娘が携帯電話を持つ前からよく使っていた道です。
娘は小学生のときにSSTとビジョントレーニングを受けていた時期がありました。私は当時、特別支援教育士の先生から「娘さんの視界はペットボトルの穴から覗いたような感じなんですよ」と言われたことを思い出しました。
娘がバスから見える景色を覚えていないのは、そのせいなのかな?
自閉スペクトラム症のある娘が見える世界、感じる世界ってどんなものなんだろう?
私はずっとそんな疑問を抱いていました。
8年後にチャンス到来
2022年の夏、私は「新宿区手をつなぐ親の会疑似体験キャラバン隊『Winds』」によるオンライン(リモート)による知的・発達障害の疑似体験に参加をしました。
必要なものはA4の紙2枚とペン一本だけ。
過去に疑似体験で『参加者が軍手をつけた状態で折り紙を折ったり、シールを貼ったりする』という光景を見た記憶があった私は、果たしてリモートではどんな体験ができるのかとワクワクしながらプログラムの開始を待ちました。
Upload By 荒木まち子
その内容は
プログラムのなかにはいくつかの体験が用意されているのですが、度肝を抜かれたのは冒頭に流れた“自閉スペクトラム症のある子どもが見ている世界を再現した動画”でした。(イギリスの自閉症協会(The National Autistic Society)が作製したものでYouTubeでも公開されています。)
主催者から、視聴して気分が悪くなってしまう場合があるかもしれないとの注意がありましたが、確かに見ていてつらくなる感じがありました。
過去にもテレビなどで『自閉スペクトラム症のある人はこんなふうに聞こえています』『こんなふうに見えています』というような映像を見たことがありましたが、そのときよりもリアルな感じがして、私は何度か動画から目を外してしまいました。もちろん障害のある人全員が同じように見えたり、感じたりするわけではないと思いますが、こんな状態がずっと続き、逃げることができないのならば、自閉スペクトラム症のある子どもがとても疲れたり、パニックになってしまう気持ちが分かるような気がしました。
ほかにもさまざまな疑似体験のプログラムが
プログラムの中には事前に用意した紙やペンを使ったシングルフォーカスの疑似体験や、ダウン症の疑似体験などもありました。やはりこれらも書籍などで得る知識では分からないリアルさがありました。
“リモート”なのに“リアル”というと変かもしれませんが、本当にそうなのです。
さすがに嗅覚の体験はできませんが、聴覚や視覚の体験はイヤホンやパソコン画面を使うことでむしろ感覚が強調されて分かりやすいのではないかという気もしました。
コロナ禍でも疑似体験ができるように主催者がリモートでの体験方法を思考錯誤し、日々アップデートしている様子も伝わってきました。
遊び心で元気に
疑似体験では一人の講師が講演をするわけではありません。主催者のキャラバン隊Windsの隊員(?)がそれぞれの疑似体験コーナーを受け持ち、話をします。障害についての一般的な説明だけではなく、経験をもとにしたリアルな話もありました。と同時に、メンバーに障害児の親が含まれているからこその熱い思いもひしひしと伝わってきました。
“当事者の気持ちを汲み取ることや本人の意思を置いてきぼりにしないようにすることってとても大切!”と実感しつつ、私は真剣な中にも遊び心を忘れないキャラバン隊から元気(パワー)をもらったような気がしました。
もっと早く体験していたなら…
療育を受けたり、情報を集めたりして子どもへの対処法を多少は分かっていたつもりでいた私。でも、もっと早くにこの疑似体験を受けることができていたら、子どもへの対応はきっと違っていたでしょう。
子どもがパニックになる気持ちが分かれば親のイライラは減るし、効果的な声掛けや学習の進め方が分かっていれば親子がお互いにつらい思いをしないですんだはずです。
過去に戻ることはできません。
それでも、遅ればせながらも疑似体験を通じて自閉スペクトラム症のある娘が見える世界、感じる世界をより感覚的に理解し、イメージしやすくなったことは確かです。障害への理解が進んでお互い身構えることが減れば、みんなで笑顔になれる日が来そう。そんな前向きな気持ちになった疑似体験でした。
執筆/荒木まち子
(監修:藤井先生より)
疑似体験を通じて、娘さんが感じる世界をより理解しやすくなったのですね。
本には、感覚過敏、感覚鈍麻などの文字は書かれていますが、疑似とはいえ体験することで、少し理解がしやすくなりますね。そうすると、なんでできないのだろう?という疑問よりも、こういう理由で分からないのか、苦手なのかも、と発達障害や知的障害のあるお子さんが感じる世界を少し想像しやすくなりますね。疑似体験、親御さんだけでなく、お子さんに接する機会がある園や学校の先生も体験されると、理解が進みそうですね。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。
今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。