発達障害の二次障害とは?症状や原因の探り方、自閉症とADHDで関連しやすい特性、6つの事例別のギモンにも回答【児童精神科医Q&A】
「二次障害の理解と対応」において大切なのは、子どもの“本当の声”に耳を傾けること
発達障害のある子どもを育てる保護者の方は、二次障害に関心のある方も多いのではないでしょうか。
二次障害とは、発達障害の特徴を理解されない環境にいることや、失敗して叱責される、不安な経験を繰り返すなどが重なり、次第に自己肯定感が下がり、うつ病、不安障害などの精神疾患の合併や、不登校やひきこもりなどの問題に至ってしまう症状が発生している状態を示します。その症状は人によりさまざまですが、二次障害が起こっている子どもとどのように関わっていったら良いのか?、将来のことが不安…など悩みはつきないと思います。
2022年12月にオンラインで開催されたセミナー「二次障害の理解と対応」も大きな反響がありました。セミナー当日は、特別講演として、代官山やまびこクリニックの院長である児童精神科医の千村浩先生が二次障害発症のきっかけや治療、各家庭でできることなどを解説。質疑応答のコーナーでは、参加された保護者の方から具体的な質問がたくさん寄せられました。セミナー後には、「対応方法を知れたことで不安が減った」「またこのようなテーマの勉強会があるとうれしい」などの声をいただきました。
今回の記事でも、二次障害について、またその対応方法などを千村先生に改めてお伺いしました。
また、当日時間の都合で答えきれなかった保護者の方から寄せられた質問に対して千村先生からのご回答をいただいています。ぜひ参考にしてください。
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・本来備わっている資質(発達障害)
・子どもを取り巻くさまざまな環境(家庭環境・そのほかの社会、気候など)
この2つの相互作用によって二次障害になり得ることがあります。
発達障害の二次障害による症状を発達障害そのものの症状と区別すること、治療やそのほかの対処についても別々に考えることは困難な場合も多くあります。
二次障害としてあらわれる症状そのものだけに焦点をあてるのではなく、その背景に子どもからのどんなメッセージがあるのかを探ることが重要です。
児童精神医のKanner(1974)は子どもの症状からのメッセージとして5つの意味を述べています。1.入場券としての症状
症状があることで医療機関を受診することになるなど。子どもがサポート機関へとつなぐ入場券の役目を持つ
2. 危険信号としての症状
問題の解決を急いでいたり、これ以上誤った対応が続けられたり、放置されることに対する警告
3. 安全弁としての症状
養育環境や生活状況がよくない場合、自分がつぶれてしまわないように自身をその危機から守る、最悪の事態を回避する
4. 問題解決手段としての症状
あえて乱暴な行動を取るなど、子どもの心理的葛藤の要因となっている問題
5. 厄介者としての症状
周囲の寛容さが乏しいために、怒りを買うように大げさに訴えられている
https://cir.nii.ac.jp/crid/1130282269111271680
参考文献:Kanner L.:Child Psychiatry,4th ed.(1972)-黒丸正四郎、牧田清志(訳):カナー児童精神医学、第2版 医学書院(1974)|CiNii(国立情報学研究所)
ADHDの特徴である「不注意」「多動性・衝動性」が悪循環につながってしまうことがあります。
◇不注意優勢タイプの例
頻繁に遅刻するなどの失敗→叱られる→自信を失う→「自分はダメなやつ」だと思いこむ→不安やパニック、うつ状態に陥る→失敗し、また叱られる(悪循環に陥る)
◇多動・衝動優勢タイプの例
感情が爆発し、周囲とトラブルになる→周りから避けられる→疎外感を抱く→「自分はみんなから嫌われている」と思いこむ→大人への反抗、非行など→周囲とトラブルになる(悪循環に陥る)
このような悪循環は実例でも多くありますが、起きている問題だけに目を向けるのではなく、どうして最初のその行動が起こってしまったのか、本人の気持ちによく耳を傾けることで悪化を防ぐことや、悪循環を止められる場合があります。
【Q&A】子どもの症状の背景を理解することはどうして大切なの?子どもに本当の気持ちを話してもらうにはどうしたらいい?
A:たとえば、「ときどき混乱して騒いでしまう」という言葉にすると同じ症状のある子どもでも、その原因は全く違うというケースはよくあることです。原因が違えば、するべき治療も対応も異なります。
学校へ行き渋る、不登校になってしまったという場合も、なぜその子どもが学校に適応できなくなってしまったのか、その理由は一人ひとり異なるので、その背景を理解することが大切になるのです。
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A:基本は、子どもの声に耳を傾けることです。大人が気をきかせて「こうなんじゃない?」と言ったりすると、それに誘導される形で「うん」と言ってしまう子どもは少なくありません。大人が「こうだろう」と決めつけてしまうことで、子どもが余計に萎縮してしまうこともあるのです。まずは子どもの本当の声に耳を傾けてみてください。
小学校1年生くらいになれば、こちらが聞けば子どもは自分の体験、思いや考えを語ってくれるものです。
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A:1つ例をあげます。小学校低学年の子どもがお友達を叩いてしまいました。その場面を見ていた先生からは叱られ、仕方なく謝ったようです。でも、理由もなく人を叩く子どもはほとんどいません。実はそのお友達からずっと嫌なことをされていて我慢できなくて叩いてしまったようなのです。そのようなときもまずは、「あなたに何があったの?」と聞いてあげると良いでしょう。大人の目で見ると、叩くということが発達障害が背景にある症状のように感じられることもありますが、理由があることがほとんどです。
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A:その1つは「こだわり」です。1つ前の質問で挙げた例でも、そもそも叩いてしまった友達からずっと嫌なことをされていたのに、「叩いた」という一場面だけしか見ずに叱る先生を信用できなくなってしまうことがあります。「でも、まぁしょうがないな」という切り替えが難しく、「もう絶対に嫌だ」というこだわりが行き渋りや不登校につながってしまうケースです。
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A:ADHDの特性で落ち着きがないということがありますが、そのことで先生に叱られることが多かったり、よく注意されるのを見ている周りの友達からも同様の指摘をされたりして学校に居づらくなるケースもあります。
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【Q&A】「子どもの二次障害」それぞれの事例に千村先生が回答
二次障害セミナー当日は参加者の方からチャットでたくさんの質問が寄せられ、千村先生にはそれらに真摯にご回答いただきました。しかし、時間の都合上すべての質問にご回答いただくことは難しい状況に…。今回チャットに寄せられた質問について新たにご回答いただきました。
A:そのお子さんがどういう特性を持っているか、どういう特徴が強いかによって対応は変わります。
落ち着いていられない、気が散ってしまうなどが原因で、もしかしたら学校に居づらい状況になってしまっているのかもしれません。関わり方でいうとやはりお子さんの話をしっかり聞くことが大切だと思います。小学校2年生ならしっかり聞けば話をしてくれる年齢です。関わり方というのはまず話を聞くことから始まるのだと思います。
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A:「対人恐怖症」と言っても、「学校の教室にいるのが怖い」というお子さんもいれば、「人混みのなかにいるのが苦手」というお子さんもいます。それによって環境の整え方は変わるものです。このお子さんは不登校ということなので、たとえば「まわりがうるさいから嫌」というケースや、「いろいろな物がある教室が落ち着かない」ということもあり得るかもしれません。具体的な本人の気持ちをしっかりと汲み取って、先生と連携することも大事です。
でも、どうしても学校が難しい場合にはオンラインで勉強する場を探す…などの環境整備が必要になることもあるかもしれません。
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A:もしお子さんが前の晩は「明日は行く」と言っているのに、当日の朝になると頭痛や腹痛を訴えるような状態だとしたら、あまり無理はしない方が良いかもしれません。毎日この葛藤を続けていると疲れすぎて、学校に全く行けなくなってしまうケースもあるからです。
私は子どもに「学校に行くときは、すごく頑張らなきゃいけない?それとも、まぁ大丈夫そう?」と聞くんです。前者なら無理して行かなくても良いのではないかと考えています。それに加えて毎日「今日はどうする?」を繰り返すと、親も子も毎日悩まないといけなくなるんです。「しばらく行かなくてもいいか」と思えたら親も子も楽になると思います。
「そんなことをして全く行けなくなったらどうしよう」と考える方もいるでしょう。
でも、学校に行くことはとても大事だけれど、行かないと絶対にだめなわけではありません。どんなときでもお子さんを信じることが大事です。
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私が診療のなかで出会うお子さんとは「学校に行かなくても、規則正しい生活をしよう」と約束をします。睡眠障害がある場合はきちんと治療をして、睡眠覚醒リズムを整えるところからです。そして、朝ごはん、昼ごはん、夜ごはんの時間を決めて、そのあいだに勉強したり、外に遊びに行ったり…という時間を設定するイメージ。そのなかにスマホやテレビ、ゲームの時間があってもいいと思います。スケジュールは本人と相談して決めるのがベストです。スマホやテレビ、ゲームも禁止するのではなく、「これくらいの時間ならいいけど、一日中はダメだよ」などと約束するのが良いのではないでしょうか。
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A:ADHDが背景にあり統合失調症という診断というのは、実際診察をしていないので分からない点も多いのですが、「頑張りすぎ」ということをより具体的に考えていった方が良いでしょう。勉強を徹夜してやっているが、エネルギーが切れると突然寝てしまうのか、部活などで期待に応えるためにがむしゃらに練習をしているが自分のなかに葛藤があるなどが考えられます。
ただ、中学2年生は思春期なので、なかなか親の言葉を素直に受け入れられない時期です。思春期の心の問題なども起こってくる時期なので、カウンセラーなどの専門家に介入してもらう必要があるかもしれません。
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A:本人が受診しないと診断や治療はできないので、とても難しい問題ですね。そこで大切なのは、やはり本人の気持ちです。病院に行きたがらないということの裏側には「今までうまくいかなかったからもうどうなってもいい」だとか「病院に行ってもどうせ話を聞いてもらえない」などの考えがあることもあります。でもさらにもっと深いところでは「今のままは嫌だ」「本当はなんとかしたいと考えていることも。思春期の子どもの『本当の気持ち』を家族が引き出すことは難しいので、第三者の介入が必要かもしれません。学校の先生やカウンセラー、もしくは信頼できる大人が導くのが良いでしょう。この場合の第三者は、専門家でなくても良いと思います。
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大切なのは失敗しても「大丈夫だった」と思えること
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千村先生のお話には一貫して「子どもの話を聞く」「子どもを信じる」ということがベースになっていました。加えて大切なのが、「今のままでいいよ」と子どもに伝え続けることだと言います。「よく”成功体験”という言葉を耳にします。成功体験も大切ですが、もっと大切なのは『失敗しても大丈夫だった』体験ではないでしょうか。成功体験を追求しても得られなかった体験より、失敗しても大丈夫だった体験から自己肯定感が得られると思います」。
今回はセミナー当日に寄せられた質問の回答をメインにお届けしました。当日参加された方はもちろん、参加できなかった方にも子どもと向き合ううえでのヒントとなれば幸いです。
発達ナビには「Q&Aコーナー」も
発達ナビにはQ&Aコーナーもあります。気になることを質問するとユーザーの方が経験をもとに答えてくれます。
また、話題の質問に専門家からアドバイスともらえることも!
子育てに関する疑問や知りたいこと、身近な人には相談しにくいこともあるかもしれません。ぜひ発達ナビのQ&Aコーナーも参考にしてみてください。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的能力障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。