「数字こだわり」自閉症息子、大好きだったそろばん教室で急にやる気が低下したワケ
数字好き息子、そろばんに興味をもって…
自閉スペクトラム症のあるけんとは、自分の興味のあることにはとことんのめりこむ子どもです。中でも数字は特別大好き。社会面、運動面などに苦手さを抱えていますが、数字に関することは、親もビックリするほどの理解力をもっています。
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年中の夏ころ、買い物へ行くと、そろばん教室が新規オープンキャンペーンを行っていました。大きなそろばんが置いてあり、興味を示したけんと。数字が好きだし、そろばんを習うのもいいかもな、と以前から親心で思ってはいましたが、構音障害があり、表出言語が苦手でほぼ単語。座って授業が受けられるのかも心配だったので母としてはあきらめていました。
でも本人が「やりたい」とのことだったので話を伺ってみることに。
そこは超少人数制の教室。もしかしたらできるかも…と思い、自閉スペクトラム症があることを伝え、教室の了解を得て、試しに入会することにしました。
5歳という年齢もあったのか、最初はそろばんを使わず、数字を書いたり、楽しく数字と遊ぶという内容でした。数ヶ月ほとがたつと、けんとが「もっと難しいのがやりたいんだ!」と先生にアピールをするように。先生が試しに…と、そろばんを教えてくださると、スラスラできるようになり、年長で、ほぼ満点で4級を取得。本人もうれしそうでした。
急にやる気が低下!負のスパイラルに…
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ところが、3級のお勉強が始まると、間違えることが急に増え、本人のやる気が落ちてきました。
間違えることが増えた理由を考えてみると…
1.級が進むにつれ、桁数が増えた。
視覚的に目で追うのが難しくなり、どこの計算をしているのか分からなくなっている様子だった
2.そろばんに慣れ、ものすごいスピードで珠を弾くようになったけれど、手先がとても不器用なので、弾き間違えることが増えた
3.書字が苦手。桁が増えるにつれ枠の中に数字を書けずはみ出し、さらに字もグチャっと書いてしまうことにより、読めずに×になってしまうこともあった
4.すごいスピードで問題を解くので時間が余るが、こだわりから見直しをしない。ゆっくりやることもしない
…などです。けんとの特性と、そろばんが合っていないかも…と思うように。正解率が下がった結果、集中力が続かなくなり、モチベーションも下がり、負のループにはまってしまった気がしました。
すると、授業中の立ち歩きが多くなったり、「疲れたから休む」と全然やらなくなったりと、先生が困っている様子になってきたので、私がサポートで同席させていただくことにしました。
好きを大切にしたいと決意、現在はアプリで…
母が同席し、授業で今からやることの見通しをたて、視覚支援を取り入れました。立ち歩きが減り、座って授業を受けられるようになりましたが、相変わらず正解率は上がらず、モチベーションは低いまま。
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けんとが昇級試験に受かりたいというのでやっていましたが、あまりのやる気のない態度にイラついてしまい、私もキツク当たってしまうことが続きました。このままでは、けんとが「そろばんを嫌いになってしまう」と思い、小学校1年生の夏、本人と相談をしてやめることにしました。
調べてみると、暗算のそろばんアプリ(有料)があることを知りました。けんとに教えたところ「やりたい!」とキラキラ目を輝かせ、毎日のように「やりたい!」と言ってくるようになったので、試しにやってみることに。アプリなので教室に通う必要もなく、私が見ていなくても自分のペースでできるので、私のイライラがゼロ。現在も楽しそうにやっています。
もしも、また本人が「そろばん3級取りたい」と言ってきたら、そのときはそろばんを始めようと思っています。
小学1年生、現在はプログラミングに…
年長の終りころ、タイピングに興味をもったけんと。
試しにやってみると、はまって遊ぶようになりました。不器用なので、なかなか上手く指を動かせませんでしたが、楽しかったようで自ら練習を重ねる日々。5ヶ月くらいがたったころ、指を上手に動かせるようになってきました。
すると、小学1年生の夏ころ、今度はとあるプログラミングアプリを自分で発見し、「このプログラミングがやりたい!」と言うようになりました。最初は「まだ早いのかな?」と思っていましたが、あまりにも本人のやる気がすごかったので、そのプログラミングアプリを使うプログラミング教室へ習うことにしました。
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こちらはオンラインで先生に教えてもらっています。プログラミングでステージごとのミッションをクリアするという内容のアプリなので、ゲーム性があり、けんとにとってはとても楽しい様子。やる気があるので上達も早く…私はすでについていけていません。
練習を重ねたタイピングもプログラミングに活かせているようです。
やる気があふれると、誰にも止められないほどの情熱を爆発させる子なので、その想いを大切にしながら、興味関心を示したものをこれからもサポートしていきたいと思っています。
執筆/ゆきみ
(監修:鈴木先生より)
何でも興味があるものから「まず始めること」が大切です。一方で、最後までやり続けるのは難しく、ピアノやスイミングを途中でやめたりした経験がある人も多いと思います。
数字に興味のあるお子さんは2~3歳でもマンションのエレベーターのボタンで覚えてしまうこともあります。プログラミングは私のクリニックへ来ている患者さんにも人気で、習い事で通っておられるお子さんも多いです。そういうお子さんは将来、情報工学系を希望する傾向があります。最終的に自分の興味があった仕事ができればいいのではないでしょうか。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。