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当事者の声を聴く、追体験できる夏のおすすめ5冊一一芥川賞受賞『ハンチバック』や細川貂々さんのコミックエッセイ、感覚過敏と鈍麻の中学生の物語、DCDやアクティブ・ラーニングをご紹介!

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『なわとび跳べないぶきっちょくんただの運動オンチだと思ったら 発達性協調運動障害(DCD)でした!』


本書は、「息子、極度の運動音痴だと思っていたらDCD(発達性協調運動障害)だと診断された話」をSNSで公開し、当事者を中心に大きな反響をよんだ漫画家のオチョのうつつさんが自身の経験を漫画化。息子であるウノくんの幼少期から診断を受けるまで、そして小学6年生になる現在までの、障害と向き合う日々と成長を母の視点から描かれた作品です。

監修は、青山学院大学教育人間科学部教育学科教授の古荘純一先生。小児精神医学、小児神経学、てんかん学などを専門とし、発達障害、トラウマケア、虐待、自己肯定感などの研究を続けながら、教職・保育士などへの講演も行い、DCDの認識を広める活動にも力を注いでいます。本書ではオチョのうつつさんとの対談形式で、専門家として解説を記しています。

息子のウノくんは年少の頃、キックバイクでこぐことなく倒れたり、折り紙もできず不器用さが目立ちはじめていました。「おかしいな?」と思いつつも様子を見ていたら、小学校に入ったら文字が壊滅的に下手、縄跳びもとべない……。病院で相談すると「体ではなく脳が関係している、DCD(発達性協調運動障害)かもしれません」と言われ、そこから障害と向き合う日々が始まりました。


最終章には「DCDと診断されてからの方が学校が楽しくなった」というウノくんのセリフが描かれ、その一言からも早期発見・早期支援の重要性がうかがえるようです。
保護者はもちろん、学校関係者、医療などの支援者、そして「ぶきっちょ」で悩んでいる当事者の子どもにも、ぜひ手にとってもらいたい一冊です。

感覚の困りごとをストーリーで追体験ーー『カビンくんとドンマちゃん感覚過敏と感覚鈍麻の感じ方 』


感覚過敏とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの感覚が過敏になり、日常生活に困難がある状態のことをいいます。

著者は感覚過敏研究所所長の加藤路瑛さん。当事者として、感覚過敏の課題解決に向き合い、感覚過敏がある人たちが暮らしやすい社会をつくることを目指し活動を行う、高校3年生です。

本書は、加藤さんが自身を投影した感覚過敏がある中学生の男の子を主人公にした物語です。また、感覚過敏とは対照的に、寒さや痛みを感じにくい「感覚鈍麻」の女の子の感情や日常も同時に描かれています。2人の学校生活を中心とした日常を読み進めながら、感覚過敏や感覚鈍麻がある人が、どのようなことに困り、悩みや葛藤を抱えて生きているかを追体験することができます。


本書は、同様の感覚を体験しているが自覚することが難しい当事者の方や、保護者や支援者など、「どうして困っているのか」が分からないと感じている人たちの理解を助け、さらに、専門家へ相談する勇気を持つきっかけとなるのではないでしょうか。

第169回芥川賞受賞の話題作!重度障害の当事者として描くーー『ハンチバック』


歴史ある文学賞のひとつ、第128回文學界新人賞、第169回芥川賞を立て続けに受賞した話題作「ハンチバック」。重度の障害がある主人公の女性が、グループホームの一室からあらゆる言葉を送り出すさまを、ユーモアを交えながらも鋭い言葉で描く純文学作品です。

作者の市川沙央さんは1979年生まれの43歳。筋力などが低下する筋疾患の「先天性ミオパチー」という難病を患い、中学2年生から人工呼吸器、電動車いすを利用して生活しています。
同作の主人公は、市川さんと同じ疾患の40代重度障害者。亡き両親が終の住み処として遺したグループホームの10畳ほどの部屋から有名私立大学の通信課程に通いながら、Webライターとして在宅で記事を書き、日々を過ごしています。

重度の障害がある人の生活や心情の一つひとつが丁寧にかつ克明に描写されているのも特徴。
当事者だからこそつづることができる切実なリアリティを、フィクションのなかに感じ得ずにはいられません。また物語の中では、市川さん自身の経験から、障害がある人の読書のしづらさも描き、定型発達中心の暮らしへの鋭い指摘も。障害があってもなくても、欲求を持つこと、そしてそれを満たしたいと思うことは当たり前であるということを、熱量高く描かれた作品です。

大人になり発達障害と分かったベストセラー作家のコミックエッセイーー『凸凹あるかな?わたし、発達障害と生きてきました』


本書は、『ツレがウツになりまして』でベストセラー作家となった漫画家・イラストレーターの細川貂々さんが、48歳の時に発達障害の診断を受けたことをきっかけに、自身の子ども時代から振り返って描いたコミックエッセイです。

1969年生まれで現在53歳の貂々さんは「発達障害」という概念がまだ社会に浸透していなかった頃に子ども時代を生きてきました。保護者や学校の先生から「フツウにしなさい」「なんでフツウにできないの?」と言われ続け「フツウ」になろうと頑張るもうまくいかず、大人になっても生きづらさを抱えたままでした。しかし、48歳になり発達障害の診断を受けたあと、生きるのが楽になった貂々さん。自身と同じように発達障害の特性がある人たちが堂々と生きられることを願い、本書を執筆しました。


本人にも周りの人にも分かりづらい発達障害。当事者の目線で4コマ漫画でエピソードがつづられているので読みやすく、貂々さんの苦悩や困りごとがまっすぐに伝わってくるようです。さらに、明治大学子どものこころクリニックにて院長を務める精神科医の山登敬之先生による「発達障害の基礎知識」も収録されています。

『特別支援教育とアクティブ・ラーニング 一人ひとりの違いを活かす通常学級での教え方・学び方』


2022年文部科学省の調査によれば、小中学校の通常学級に在籍する発達障害の可能性があり、特別な支援を必要とする子どもは推定値8.8%、35人学級の場合、およそ1クラスに3人いる割合となります。ほかにも、心理的な問題を抱える子どもや日本語が母語ではない子どもなど、さまざまな教育ニーズを抱えた子どもたちが在籍しており、「全ての児童にとって、分かる、できる、楽しい授業であること」が求められています。

文部科学省による定義では、アクティブ・ラーニングは「学習者の能動的な参加を取り入れた授業、学習法の総称」とされています。教員が教え、生徒がそれを聞く、という一方通行の講義形式ではなく、生徒自身が主体的に調査や発見をしながら課題の解決に取り組んでいきます。

本書では、アクティブ・ラーニングとは「主体的・対話的で深い学び」と考え、通常学級における「アクティブ・ラーニング」を進めるポイントを、理論的背景や実践をもとに紹介されています。
第1章では、多様性のある通常学級におけるアクティブ・ラーニングから始まり、アクティブ・ラーニングの基礎知識や学級経営に加え、実際に導入した学級の事例などが具体的に記されています。

個別最適な学びと協働的な学びの充実を目指す学校現場の教師はもちろん、子どもたちと関わる福祉領域の支援者、そして保護者の方々へお薦めの一冊です。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。
論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。


SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。

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