【発達障害と中学受験】WISCでワーキングメモリの低さが判明。「教えない塾」とそろばんで伸びたグレーゾーン息子の学習法【読者体験談】
中学受験を見据えていたけれど、発達がゆっくりめで……。年中からの「学習教室通いラッシュ」――プリント学習が合わないわが子に合う塾は?
- 反復学習(プリント)が苦手なお子さんの低学年からの塾選びと環境づくりのポイント
- 視覚的な理解を助ける「そろばん」や、思考力を育む「教えない塾」など、特性を活かす具体的な学習事例
- WISC-Ⅳ検査で判明した知覚推理と処理速度の理解と、強みを伸ばし苦手を補う工夫
- 中学受験勉強を単なる競争ではなく、子どもの「居場所(サードプレイス)」と「学ぶ楽しさ」を育む機会に
お子さんのプロフィール
- 年齢:小6
- 診断名:診断はないけれど、ADHD(注意欠如多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)の傾向がある
- エピソード当時の年齢:年中~
わが家が住んでいる地域は中学受験をするご家庭が多く、幼児期から学習を始めることが一般的でした。私も夫も高校受験で苦労した経験があり、子どもには「中高一貫でのびのび過ごしてほしい」という思いは早くからありました。
ただ、3〜4歳の頃の息子は、同じクラスの子と比べると言葉もゆっくり、数えるのもゆっくり。“のんびりタイプ”だとは感じていましたが、これから学習が本格化する地域で、どう備えるべきか漠然とした不安を感じていました。年中になると、周囲の子どもたちが一斉に反復プリント学習の教室へ通い始めました。しかし、私たちは息子にはプリント中心の学習は向かないと確信していました。息子は、自分の興味があることに対しては熱中しますが、そうでないものには関心がなく、すぐ飽きてしまう。繰り返し類題のプリントを解き続けることは難しいと感じていました。
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そこで、わが家はまだ学習教室にはいれず、小学校1年生から入れる中学受験を見据えた塾を探すことにしました。塾探しの条件は次の3つでした。
- 授業時間が短い(子どもが飽きてしまうため)
- 宿題が少なめ(子どもが嫌がらないため)
- 親の関与が少なく、塾に任せられる(受験勉強を親がサポートする自信がなかったため)
周囲の家庭も同様に塾を探しており、みなさんお子さんにあった塾探しに奮闘していました。いろいろな塾があり、私が子どもの頃とは全く違う……と感じたのを覚えています。
入塾に備えそろばん教室へ。そろばんの体感的な学び方が、息子にマッチした!
調べていくうち、低学年はパズルや図形を中心に学ぶ小規模の中学受験塾を見つけました。入塾テストはありませんが、体験授業の様子を見て塾側が入塾可否を判断する方式とのこと。「今のままだと椅子に座り続けられるか……。足し算もできないし、体験授業で落とされるかもしれない」そう考えた私は、年長の夏、数字を10以上数えられるようになったタイミングで、そろばん教室に誘ってみました。
目的は、まず数字に親しみ苦手意識を軽減することでした。
家にあったそろばんを持ち出し、子どもに見せて「こうやってはじくと『イチ』。もう1個足すと……」と軽く説明すると『1と1を合わせると2になる』ということが視覚的に分かりやすかったのか、「なるほど!」と大興奮する息子。なんだか面白そうと思ってくれたようで、「そろばんの体験行きたい!」と前のめりになってくれました。
そろばんの体感的な学び方は予想以上に息子に合っていたようです。1時間の授業でも「もっとやりたい」と2時間続けて取り組む日があり、カードやシールなどのご褒美や餅つきイベントなど、アットホームな環境の中で数字への抵抗が薄れていきました。ただ、処理スピードは遅く、のちのち級が進むにつれ、思ったような結果が出ず落ち込むこともあったのですが、そろばん自体は小3で辞めるまで好きだったようです。小6の今も時々出しては「昔、そろばん頑張ったよねー」と言いながらぱちぱちはじいています。
中学受験塾の体験授業へ――スピードは遅めでも"自力でやる"
そして中学受験本番が終わる2月に中学受験塾の体験授業の申し込みが始まりました。私は早速体験授業の問い合わせをしました。授業はパズル型の算数問題。教室に5人くらいのお子さんたちがいたのですが、ほかのお子さんたちが高速で解いていく中、息子は周りよりスピードが遅く……。でも最後までやり切って終了時は満足そうな表情でした。
スピードが遅かったけれど大丈夫だろうかとドキドキしましたが、塾側の判断は「入塾OK」。この塾の授業は“教えない”スタイルで、よーいドンでみんなそれぞれが問題を解き、先生は丸つけをしながら回るスタイル。間違っても答えは教えずヒントを少し出すだけ。
自分のやり方にこだわる息子には、このスタイルがぴったりだったようで、先生も「まずはそのやり方でやってみよう」と受け止めて、時間がかかっても解き切ろうとする姿勢を評価してくれました。
息子は行き渋ることもなく、週1回、ニコニコしながら塾に通ってくれました。
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小1冬のWISC-Ⅳで分かった"凸凹の大きいプロフィール"
小学校へも問題なく通っていましたが、夏の個人面談で担任の先生から「できないことがあると泣いてしまうことがあります。通級指導教室で丁寧に見てもらうといいと思うので、いかがですか」と通級指導教室をすすめられました。
発達がゆっくりめだとは思っていましたが、このように支援が必要だと言われたのは初めてでした。最初感じたのはショックでしたがすぐ「いいと思った支援はぜひしてほしい!」と思い、「お願いしたいです!!」と即答していました。
その後入室のためWISC-Ⅳを受けました。
- 言語理解:高い
- 知覚推理:高い
- ワーキングメモリ:低い
- 処理速度:低い
高低差は約40ポイント。
心理士さんからは「理解していても処理が追いつかず、なんでできないんだ、自分はダメだと自己肯定感が下がりやすいかもしれません」と説明がありました。
この説明で、日常の“つまずきポイント”がすべて結びつきました。言いたいことがまとまらず泣いてしまったり、少しの間違いで「できない!」と泣いたり。漢字だけ極端に覚えられなかったのも納得でした(九九はそろばん教室でゲーム感覚で教えてもらい、イヤがらず覚えられたのは本当に助かりました……。ただ先生曰く、覚えるまでかなり時間がかかったそうです)。
この結果を知ってからは、なんで漢字テストの点数がこんなに低いのか……と心配することもなくなり、息子に合った覚え方はないのかと探すようになりました。息子は「その学年で習う漢字を歌で覚える学習」が合っていたようで、歌いながら漢字を書くと、そこそこ覚えられることが分かり、しばらくは歌いながら漢字を覚えるようになりました。
小6の現在――焦らず、自分のペースで受験へ
低学年時代は週1回、パズルや実験のような授業で楽しく学び、受験勉強は高学年からスタート。
宿題の提出忘れで怒られることも多かったものの、なんだかんだ小6の今まで通い続けています。漢字は小5で突然伸び、「部品の組み合わせで覚える」感覚がついたようです。学校に合わないクラスメイトがいてしんどいときもありますが、塾には気の合う友だちができ、「学校以外の居場所」を得られたことは大きかったです。
今は受験本番を目前にしていますが、本人は焦る様子もなく、「英単語を覚える自信がないから、中学受験で頑張る」と自分なりの理由で頑張っています。親としては、当日、受験会場にたどり着いて試験を受けられたら、それで十分です。
低学年から塾に入れるなんて早すぎる、と思う方もいるかもしれません。でも、わが家にとって塾は受験のためだけでなく“学びを好きでいられる環境”となってくれました。「教えない塾」で自分のペースで育ってきた息子。
焦らず、比べず、これからも見守っていこうと思います。
イラスト/ネコ山
エピソード参考/なん・とかなれ
(監修:森先生より)
受験準備の体験談をありがとうございます!発達の凸凹があるお子さんは、理解力があってもうまく学力に結びつかずに苦労されることがとっても多いのです。お子さんの得意不得意の傾向をよく見て、興味をうまく引き出すようなサポートされていて、大変素晴らしいですね。
発達の偏りのあるお子さんは、興味がない課題ではドーパミン放出が少なく、前頭前野の実行機能が十分働かず集中力が低下します。一方、強く興味を持ったものには報酬系が活性化し、ドーパミンが大量放出されるため「過集中」が起こります。興味を持てるかどうかで集中力が天と地ほど違うので、まずは学習環境や教材に興味を持てるかどうかが鍵となります。
勉強では、目で見た情報(視覚情報)の処理が重要となってきますが、視覚情報の流れには「腹側視覚経路」と「背側視覚経路」というものがあります。腹側視覚経路は、物の名前や意味、人の顔を認識したり、物事を順序立てて細かく覚える際に使われる経路です。ここが弱いと九九や漢字の書き順でつまずくことがあります。
それに対して、背側視覚経路は、物の位置を認識したり、物に正確に手を伸ばすときに使われる経路です。「どちらが得意」とはっきり分かれるものではありませんが、お子さん一人ひとり、どちらかというと得意な経路があると考えられます。そろばんやパズルなどの、見るだけでなく手を動かして物の数や形、空間をイメージをすることが得意なのであれば、背側視覚経路をうまく使った勉強方法が合っているのかもしれません。
自分に合った勉強方法が分かると、まずは「勉強=楽しい!」というイメージとなり、興味を持って集中力を発揮できるため、楽しい→集中する→得意になる→自信につながる→楽しいという循環がうまれます。これからも、「学びを好きでいられる環境」を大切にして、自分のペースで頑張るお子さんを見守っていけるといいのではないかと思います。応援しております!
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。