【精神科医・本田秀夫】発達障害の子が「学校に行ける」のはなぜ?親と先生に必要な試行錯誤とは
発達障害のある子が学校になじめないときは?
「発達障害のある子も、学校に通って大勢のなかで過ごしたほうがいい刺激を受ける、成長できる」と言う保護者の方もいますが、果たしてそうでしょうか。
学校は基本的に、平均的なお子さん、つまり多数派の子どもたちに合わせてつくられています。
発達障害のある子が授業や集団活動になじめないときに、環境を調整しないでただ登校することを求めていては、その子に無理を強いることになります。それでは子どもの心の健康を損ねてしまいます。
では、発達障害のある子にとって学校のカリキュラムのどういう点が合わないのかというと、大きく2つあります。
「理解」と「興味」です。発達障害のある子は「理解の仕方」や「興味の持ち方」が多くの子どもたちとは違う場合があります。その2つの点において、学校のなかで少数派になってしまうことがあり、それによって環境になじめなくなる場合があるのです。
ASDの特性がある場合、興味のかたよりがあり、多くの子が好むような活動に興味を持てないことがあります。
例えば図工の授業で、みんなが似たような題材に興味を持ち、ワイワイ盛り上がって作業をしているときに、ASDの子は自分の好きなことを追求して、独自の路線にいこうとすることがあります。結果として、一人だけ違う作業をすることになったりして、そこで少し疎外感を持つ子もいます。
ADHDの特性がある子は、興味が長続きしないことがあります。
最初はほかの子と同じように興味を持っても、途中で気が散って立ち歩いたり、授業とは関係ないことをしゃべったりして、叱られてしまうようなことが起きやすいのです。
ADHDの子の場合、興味のある授業でも長時間取り組むのは苦手なのですが、興味を持てない授業の場合には、ほとんど集中できず、より強く叱られてしまうこともあります。
LD・SLDの場合には、授業を理解できなくて、なじめないことが多いです。読み書きが苦手な子は、教科書や黒板に書かれている内容を授業の時間内に理解することができず、学習が遅れていくことがあります。
内容を理解できないので、興味も持てず、授業から気持ちが離れてしまうのです。
学校生活ではもっと「実験」をしたほうがいい
学校生活になじめない子がいるときには、理解できているか、興味を持つことができているかを確認しながら、いろいろなやり方を試してみてほしいと思います。私はこの「試してみる」ということが、とても重要だと考えています。そして、多くの学校で一番欠けていることだというふうにも思っています。
学校の先生は、子どもへの対応という点で、もっと多くの「実験」をしたほうがいいと思います。これは、子どもを実験台にするという話ではありません。そうではなくて、どういうやり方をしたら子どもが授業に参加したくなるのかを、もっとさまざまな形で試行錯誤したほうがいいという話です。
ただし、すべての授業をその子の好きなもので固める必要はありません。
授業の一部に好きな題材を取り入れられるときには活用する、というやり方で十分です。
例えば調べ学習でテーマを選べるときに、その子が興味を活かせるような形を整えます。
休み時間には好きな本をじっくり読めるようにするというのも、一つの環境調整になります。
授業や集団活動のなかに、子どもが「この時間は楽しい」と思えることを増やしていくのがポイントです。一日の学校生活が全体的になじめないものであれば、子どもがそれをつらく感じるのも当然です。一日のなかに楽しい時間もあれば、それが登校する意欲につながっていきます。
また、学校の先生が「週間予定表」を印刷して配布しているケースもあります。もともとの基本的な時間割りとは別に、翌週の「週間予定表」も用意しているのです。
そこには行事などにともなう時間割りの変更が記載されています。変更点を口頭でも伝えているのですが、書面でも確認できるようにしているのです。それでも当日に変更が発生することもありますが、予定表があれば全体的な見通しを持ちやすいでしょう。
予定通りに事が運ぶというのは、ASDのお子さんにとって非常に大きな安心材料になります。週間予定表が、一つの安心材料になっているのです。
親と先生で相談して、なんらかの工夫をしたうえで、その子が登校しやすくなるような調整を検討してみましょう。工夫や調整には次のような例が挙げられます。
- LD・SLDの特性があって読み書きが苦手な場合には、パソコンやタブレットの音声読み上げ機能などを使う
- 感覚過敏により図工室の音や理科室のにおいが苦痛である場合は、別室で授業と同様の活動をしてもらう
- 学級の雰囲気が子どもに合わないようなら、子どもの安心感を優先して、保健室登校を選ぶ
- すでに不登校の場合は、子どもに週間予定表を見せて、参加しやすい日があれば登校してみる
学校に行けるお子さんは、どうして行けているのか?
そんな工夫をしたうえで、先生から「今度こういう授業があるよ」などと誘ってもらえたら理想的です。
なぜその対応がいいかというと、先生や保護者がさまざまなやり方を試しながら情報提供をしたうえで、最終的にどうしたいのかは本人に委ねているからです。
学校に、平均的なカリキュラムだけではなく、さまざまな調整が用意されていて、子どもに選択の自由が保障されていれば、すべての子どもが授業や集団活動に参加しやすくなります。そういう環境次第では、発達障害や知的障害のある子も学校に行けています。
親御さんと学校の先生方がよく連絡を取り合い、学校の環境を調整してお子さんを上手にサポートしている事例も、世の中にはたくさんあります。
また、学校の環境を調整できない場合にも、できることはあります。学校以外に楽しく通える場所があれば、子どもは学校に行けなくても、健康に育っていきます。
通学先の学校以外にも、フリースクールや教育支援センター、放課後等デイサービス、習い事の教室、地域のサークルなど、さまざまな「居場所」があります。家庭と学校以外の「サードプレイス」で社会参加の機会を確保してもいいのです。
社会参加する場所を探すときには、本人にとって居心地がよいところ、そこに参加することによって、自然と社会性が身につけられるようなところをイメージしてください。
相性のいいコミュニティというのは、一人ひとり違うものです。学校の教室がそういう場所にならないのであれば、学校にこだわらずに、地域で居場所を探しましょう。
不登校になったとき、保護者や先生に何ができるのか?
不登校の対応の基本は「まずは休養」「相談しやすい環境づくり」、そして「親子関係を良好に保つこと」です。
登校渋りがあったら、まずは休ませたほうがいいわけですが、私は不登校の対応を「休ませるか登校させるか」の二択ではないと考えています。
「休ませるか登校させるか」というのは、「学校に行けるかどうか」を主軸にした考え方です。そうではなく「家庭や学校が安心できる居場所になっているかどうか」を考えることが大切だと思うのです。
子どもが不登校になったときに保護者や先生にできることは、励まして登校させ、厳しい環境に適応させることではなく、環境のほうを調整することです。
また、休ませて見守るだけではなく、社会との接点を持ち続けることも大切です。
学校に行っていても行っていなくても、子どもにとって大事なのは、安心できる居場所で、社会に出ていく土台づくりをすること、そして「自己決定力」と「相談力」を身につけていくことです。
できることを自分で判断して実践する「自己決定力」と、困ったときに誰かに援助を求める「相談力」。この2つの力を持っていれば、子どもは自分で次の行動を決め、困ったときには、誰かに相談して援助を求めることができます。
「自己決定力」と「相談力」は、子どもの自立には欠かせない力なのです。
学校以外の場所で社会参加できれば心配はいらない
ここまで、不登校に環境的な要因があるときには環境を調整する必要があること、環境調整が難しければ学校以外の場所で学んでもいいということをお伝えしてきました。
学校に必ずしも行かなくても、子どもは十分に成長していけます。
学校に行っていなくても、親子関係が良好で、社会参加の土台づくりに取り組めていて、本人が社会参加への意欲を失っていなければ、心配はいりません。
みなさんには、お子さんの心の健康を第一にして、家庭生活、学校生活というものを考えていただきたいと思います。
※この記事は、本田秀夫『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』(バトン社)より一部抜粋・再編集しています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。
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