【自閉症・未就学児】「長袖じゃないと嫌!」着替えで1時間パニック。今までの常識が通用しない「こだわり」の裏にあった意外な感覚【読者体験談】
毎朝の「着替えバトル」に疲弊する日々
- 「季節に合った衣服を着てほしい」親心と、感覚過敏がある子どものすれ違い
- 登園時の遅刻や着替えバトルを解消した、児童発達支援の先生からの柔軟な提案
- 「暑さ」よりも「不快な服」への拒否感が勝ってしまう、特性の強さ
- こだわりを受け止め、親子ともに楽になるための関わり方のヒント
お子さんのプロフィール
- 年齢:11歳
- 診断名:知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)
- 診断時期:知的障害(知的発達症)3歳、ASD(自閉スペクトラム症)2歳、ADHD(注意欠如多動症)10歳
- エピソード当時の年齢:3~5歳
息子がまだ小学校に入学する前、特に年少から年中の頃のことです。どんなに暑い日でも、息子は「長袖長ズボンがいい」と主張し、毎朝の着替えのたびに激しいバトルを繰り広げていました。
当時の息子はまだ単語しか話せず、自分の気持ちをうまく言葉にできませんでした。長袖長ズボンを持ってくるたびに「暑いから半袖半ズボンだよ」と言い聞かせようとしても、毎回怒り出し、手がつけられなくなります。試しに半袖半ズボンの格好をさせてみた際に、息子は必死に肘や膝を隠そうとしていたので、おそらく肘や膝が出る感覚そのものが嫌だったようです。
言葉での説得が通じないため、私はどう声かけをしていいか分からず、ただひたすら同じことを繰り返すばかりでした。着替えが思うように進まず、朝ごはんの時間も遅れ、児童発達支援事業所への登園時間もどんどん後ろ倒しになっていきます。下の子もまだミルクや離乳食が必要な時期。
息子の着替えに数十分も取られることで、朝のスケジュールは崩壊していきました。当時の私は感覚過敏やこだわりに関する知識がなかったので、「なぜこれほど嫌がるのか」と不思議で仕方がないのと同時に、どうにもできない切なさも抱えていました。
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張り詰めた糸がほどけた、先生の一言
そんなある日、児童発達支援事業所の先生に登園時間が遅い理由を尋ねられ、思い切って現状を相談しました。すると先生は、「それほど朝が大変なら、長袖長ズボンで登園して、こちらで半袖半ズボンに着替えることにしましょう」と提案してくださったのです。
その言葉を聞いた瞬間、張り詰めていた糸がほどけ、心から「助かった」とほっとしました。この日を境に、毎朝の風景は劇的に変化します。息子は長袖長ズボンならスムーズに着替えてくれるため、出発までの数十分のロスがなくなり、わが家の朝にようやく平和が訪れたのです。
母子通園の事業所だったので、園に着いてから私や先生が「着替えようね」と声をかけると、時には嫌がる素振りを見せながらも着替えることができました。
特にプールや泥んこ遊びなど、「目的のため」であれば、園でも自宅でもすんなり着替えることができたのは救いでした。
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「お店に行きたいのに着替えられない」炎天下での大騒ぎ
平日の問題は解決しましたが、休日は難関でした。家の中では本人の望む通り長袖長ズボンで過ごしていたものの、外出となるとそうはいきません。ある夏の、外が猛烈な暑さに見舞われた日のことです。息子の大好きなお店へ買い物に行くことになり、私は「長袖長ズボンでは出かけられないよ」と伝え、以前息子と話した際に出た“折衷案”である、七分袖・七分丈ズボンへの着替えを促しました。ところが、息子は火がついたように大騒ぎ。買い物に行きたい気持ちは強いので、家に戻って着替えをさせようとする私の手を振り払い、車に乗ろうとします。
近所中に響き渡るくらいの大声で泣き続けるため、事情を知らない人が見たら「虐待されているんじゃないか」と誤解されかねないほどです。
室内は冷房で涼しいけれど、外は体温に近いほどの酷暑。「好きなお店に行きたいのに、どうして着替えられないの?」と、私にはまったく理解ができず、1時間もの間、家の前でそのやり取りを繰り返し、ただただ疲労困憊していました。
最終的に息子はパニックがおさまり、こちらの言葉が耳に入るようになったのか、諦めて着替えることができました。こだわりや感覚が嫌な気持ちというのは、「暑いから涼しい格好をしたい」という生理的な欲求を上回るくらい強いものなんだな、と驚かされました。
弟のパジャマが変えた息子のこだわり、そして現在
そんな息子にも、転機が訪れました。年長の夏の終わり頃、下の子が(かつて息子が着なかった)半袖パジャマを着ているのを見て、突然「半袖のパジャマを着る」と言い出したのです。小さめのお下がりしかありませんでしたが、本人が「それでもいい」と言うので着せてみると、意外にも平気そうでした。
現在11歳になった息子は、半袖を着られるようになりました。
ただ、膝が出る感覚が嫌だという「感覚過敏」は残っており、今でも夏は「半袖+長ズボン」か「半袖+七分丈」が定番です。学校でも事情を説明し、体操着は長ズボンで過ごしています。
親の「常識」を手放して、その子の「感覚」に寄り添う
当時の私は自分の常識で「暑いから半袖半ズボン!」と頭ごなしに強制してしまっていました。でも今は、息子が言葉で気持ちを伝えられるようになったこともあり、私も「不快な気持ちやこだわり」を受け止められるようになりました。「半袖半ズボンは嫌なんだね。でも長袖だと熱中症が心配だから、半袖だけでもどう?」今ならそんな風に、息子の感覚に寄り添った声かけができるのではと思います。
今でこそ、相談したり自分で調べたりするのが当たり前になりましたが、当時はそれにも慣れていませんでした。児童発達支援事業所やST(言語聴覚療法)も月1回利用していたので、分からないことはすぐに聞いてみればよかったのですが、周りに聞くことに慣れておらず、今思うと「もったいなかったな」と感じます。
そして息子には、気持ちを受け止めつつ、無理のない範囲での提案をしてあげたかったなと思います。
発達障害がある子の子育ては、今までの自分の常識が通用しないことが多々あります。私も「普通はこうするはず」という思い込みから、息子が心の底から嫌がる気持ちを想像できていませんでした。理解するのは難しくても、まずは「その子自身の気持ちや感覚」を否定せずに受け止めることが大事なのだと、今では思っています。
イラスト/よしだ
エピソード参考/りん
お子さんの服のこだわりに関するエピソードを聞かせて下さりありがとうございます。
衣服に関するこだわりは実に多種多様で、発達特性のあるお子さんにはよく見られる困りごとの一つです。背景には触覚過敏などの感覚の偏りがある場合が多く、肘や膝が出る感覚、布地の質感、締めつけなどが強い不快感につながることがあります。一方で、必ずしも感覚だけが理由とは限らず、変化への抵抗感や「いつもと違う」ことへの不安から特定の服装にこだわるケースも少なくありません。
そのような場合には、カレンダーなどを用いた視覚的な予告が役立つことがあります。例えば「7月からは半袖」といった基準をあらかじめ示すことで、見通しが立ち、納得して移行できることもあります。
また、記事にあるように、大人の常識に当てはめるのではなく、本人が感じている感覚を尊重する姿勢も非常に大切です。どうしても半袖が難しければ、まずは薄手の七分袖にするなど折衷案を探ることは現実的で有効な対応です。安心できる選択肢を残しながら少しずつ経験を広げていくと、今回のように「興味を持って着てみたら大丈夫だった」とバリエーションが増えることもあります。このプロセスは偏食への関わりとも共通しており、無理に変えさせるのではなく、安心を土台に選択肢を広げていく視点が重要です。
児童発達支援の先生が提案された「まずは長袖で登園し、園で着替える」という柔軟な対応も印象的でした。困りごとは家庭だけで抱え込まず、周囲の支援を借りながら環境を調整することで、親子双方の負担は大きく軽減します。
子どもの特性を理解しようとする姿勢と、無理のない方法を探し続ける関わりが、お子さんの安心と成長につながっていくことを教えてもらいました。(監修:小児科医新美妙美先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。