【就労の壁】手書きで履歴書が書けない!境界知能とLDがある私の就活。職場で求めた合理的配慮とミスを防ぐ工夫【読者体験談】
履歴書を書くだけで、泥のように疲れる私
- 読み書きLD・SLD(限局性学習症)や視覚認知の困難がある当事者の、具体的な「見えにくさ」と疲労感
- 就労現場での「手書き」「メモ」の壁と、実際に効果があったアナログな工夫
- 企業への「合理的配慮」の申し出におけるリアルな反応と難しさ
- 当事者が声を上げ続けることが、社会全体にとって意味があるという医師の教え
- 現在の年齢:30代女性
- 診断名:ASD(自閉スペクトラム症)、LD・SLD(限局性学習症)、ADHD(注意欠如多動症)傾向
- 検査等で指摘された特性:視覚認知機能の障害(弱さ)、境界知能
- エピソード当時の年齢:成人後(就職活動~企業就労時)
私は学生時代、特に通信制高校に通っていた頃は、学習面でそこまで大きな苦労を感じることはありませんでした。しかし、就職活動を始め、社会に出ようとした途端、目に見えない巨大な壁にぶつかりました。
その象徴が「履歴書」です。
文字が揺れて見えるわけでも、どこを書いているか分からなくなるわけでもありません。ただ、「どのぐらいの文字の大きさで書けば、枠内に収まるのかが分からない」のです。
何度も書き直し、神経をすり減らし、たった一枚の履歴書を書き上げるだけで、文字通りぐったりとしてしまいます。周囲と同じように書こうとするだけで、なぜこんなに疲弊するのか?子どもの頃は書道を習っていたし、読書も好きだったので、その理由が全く分からず、ただただ自分の容量の悪さを責めるしかありませんでした。
Upload By ユーザー体験談
検査で見えた「視覚認知の弱さ」
20代になり、専門機関を受診したことで、長年の違和感の正体が読み書きのLD・SLD(限局性学習症)であり、その背景に「視覚認知機能の弱さ」があると判明しました。
「私が悪いのではなく、目からの情報の処理の仕方に特性があったんだ」と分かり、目から鱗でした。そして原因が分かったことは大きな救いとなりました。
通信制高校の時は、先生方が「みんな書き終わった?」「ここは消しても大丈夫?」と待ってくれたので不都合はなかったのですが、通信制短大のスクーリングでは困難さを感じていました。そこで自分から配慮を依頼、事前に先生にお願いして投映するスライドを印刷してもらったり、板書だけの授業では特別にノートパソコンを貸与してもらうことで、授業を受けました。パソコンで文字を打ち込むことは手書きと全く違い疲労感が少ないのです。今思えば、学校という場所は事情を説明すれば柔軟に対応してくれるので、とてもありがたい場所でした。
しかし、社会は学校ほど優しくはありませんでした。
「前例がない」の壁。職場での孤立と葛藤
就職のためハローワークで仕事を探し始めたときのことです。
担当者の方から「履歴書は住所までは最低でも手書きで」と何度も指導されました。でも、多くの方が想像するよりも、書くことはとても大変なことなのです。
医師から「書く必要がある書類はパソコンを使って作成していいですよ」と言われていたため、私は勇気を出して交渉しました。その結果、なんとか「名前のみ自筆で」となりましたが、交渉するだけで消耗したものです。就職のスタートラインに立つ前からこんなに大変では先が思いやられると思っていました。
そして、いざ就職した事務職の現場。そこには「セキュリティ」と「前例踏襲」という、さらに高く分厚い壁が立ちはだかっていました。
会議のスピードは速く、手書きのメモが追いつきません。
「録音させてほしい」「パソコンを持ち込ませてほしい」と提案しても、返ってくるのは「規則上、絶対ダメ」「NG」の一点張り。診断書を提出して説明を試みましたが、上司からは冷たくこう言われました。
「で?だから??」
Upload By ユーザー体験談
言葉に詰まりました。どう説明すれば伝わるのか分からず、ただ立ち尽くすしかありませんでした。
母の知恵と「下敷き」一枚の革命
上司の「で?だから??」になにも返せなかった私。
デジタルの活用が許されない中、私は事務作業のデータチェックでもミスを連発していました。ちゃんとやっているつもりなのに、なぜか見落としてしまうのです。
「何とかしなければ」
追い詰められた私。
そんな私を心配してくれた母があるとき「下敷きを使って、今見ている行以外を隠してみれば?」という方法を提案してくれたのでした。そんなことで変わるの?と思いつつもお試し感覚でやってみたところ、驚くことにミスが激減しました。ハイテクな機器がなくても、工夫ひとつでこんなに変わるのだとびっくり!しかし同時に、疑問も湧いてきました。以前、同じ部署にいた聴覚障害の方は、電子ツールを使うことが「自然な配慮」として受け入れられていました。でも「LD・SLD(限局性学習症)」となると、なぜか「努力でカバーすべきもの」と見なされ、ツールを使うことが許されない。「もし、ここにノートパソコンがあれば、もっと力を発揮できたのに」その悔しさは、常に心のどこかにありました。
「あなたの配慮は、誰かのためになる」医師の言葉
職場での理解が進まず、心が折れそうになっていた時、私を支えてくれたのは、最初に私の特性を見抜いてくれた医師の言葉でした。
先生は、落ち込む私にいつもこう仰いました。
「企業の合理的配慮は、まだまだこれからです。でも、諦めないで伝え続けてください」「あなたへの合理的配慮で、あなた以外のほかの人も、仕事がしやすい環境が生まれるはずです」
私は「わがまま」を言っているのではない。「自分だけが得をするため」でもない。私が声を上げ、道を作ることで、あとに続く誰かが働きやすくなるかもしれない――。
そう考えると、冷たい言葉も、断られる辛さも、少しだけ受け止め方が変わりました。
コロナ禍を経て、世の中ではオンラインや電子機器の活用が「当たり前」になりつつあります。私が苦労したあの頃より、少しずつですが、風向きは変わってきているのかもしれません。
もし今、理由のわからないミスや、読み書きの異常な疲れに悩んでいる方がいたら、どうか諦めないでほしいです。
「伝え続ける勇気」が、いつか誰かの「働きやすさ」に繋がる、そう信じて私もまた自分のペースで歩んでいこうと思います。
【発達ナビアンケート】「読み書きが苦手かも……?」悩みは決して珍しくありません
ここからは発達ナビのアンケート結果をご紹介します。発達ナビのアンケートには、「うちの子、読み書きが苦手かもしれない」という不安の声が多く寄せられています。
Upload By ユーザー体験談
回答には、
- 板書を書き写すのに時間がかかる
- 漢字や文章を書くとすぐ疲れてしまう
- 何度練習しても同じミスを繰り返す
といった困りごとが多く見られました。
読み書きの苦手さは外からは分かりにくく、「努力不足」「不注意」と誤解されてしまうこともあります。しかし、背景に発達特性が関係している場合もあり、早めに困りごとを整理することが大切です
LD・SLD(限局性学習症)は、「読む」「書く」「計算する」といった特定の学習領域に困難が生じる発達特性です。
重要なのは、これは知的能力の問題ではなく、情報処理の特性による困難であるという点です。
本人は理解しているのに、
- 書く作業だけが極端に負担になる
- 行を追うのが難しい
- 書類作業でミスが増える
参考コラムでも、読み書きの困難は本人の努力だけで解決するものではなく、周囲の理解と支援が重要であると伝えられています。
アンケートの自由記述では、
- 学校にどう相談すればいいか分からない
- 周囲に理解されず本人が自信を失っている
- 支援を求めることにためらいがある
合理的配慮というと大げさに感じるかもしれませんが、実際には「小さな環境調整」から始めることができます。
例えば、
- 板書を書き写す代わりにプリントを配布する
- ノートPCやタブレット入力を認める
- 行を追いやすくする補助具を使う
- 作業時間を調整する
配慮とは特別扱いではなく、「本人が力を発揮するための環境づくり」。
ためらわず、相談してみることが大切です。
イラスト/ネコ山
エピソード参考/YOSHIMI
まずは、ご自身の特性を正しく理解し、困難に立ち向かおうとする真摯な姿勢に深く敬意を表します。「読み書き困難」の背景には、文字のレイアウトや空間の把握に関わる視覚認知機能の弱さが大きく影響しており、これは決して努力不足ではありません。
現在、社会では「職場における合理的配慮」の提供が義務化されていますが、LD・SLD(限局性学習症)のような外見から分かりにくい特性への理解は未だ不十分です。そのため「静かに困っている」人がたくさんいるでしょう。今回求めたデジタル活用や視覚的工夫などの「個別の配慮がほかの人にとっても必要な支援である」という視点は、組織全体のミスを減らし、誰もが働きやすい環境を作るユニバーサルデザインの起点となります。
「伝え続ける勇気」が、社会の在り方を変える確かな一歩となることを信じています。(監修:星槎大学大学院教育実践研究科 教授阿部 利彦先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。