【日本ADHD学会第17回総会】学習・睡眠・チックなどの併存症、「自分らしさ」を支える支援の最前線【取材レポ】
日本ADHD学会第17回総会が2月28日(土)~3月1日(日)に開催されました
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日本ADHD学会は、ADHD(注意欠如多動症)に関する医師、研究者、支援者など多職種の専門家が集まり、学術活動を行う学会です。第17回となる今回の総会は、中川栄二会長(国立精神・神経医療研究センター病院)のもと、「自分らしく生きる『Nothing about us without us』」というテーマで開催されました。
ここには、特性や障害のある当事者の経験を、政策やサービス設計の中心に据えるべきであるという強いメッセージが込められています。本総会では、最新の遺伝子研究や脳科学の知見から、運転、司法、睡眠、併存症といった生活に密着した課題まで、多岐にわたるシンポジウムや講演が行われ、当事者が自分らしく生きるための支援のあり方が議論されました。発達ナビ編集部では、3月1日(日)に今回の学会を取材。この記事ではいくつかのシンポジウムや教育講演のレポートをお伝えいたします。
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シンポジウム【ADHDの併存症(生物学的メカニズム)】
ADHDは単独で現れるだけでなく、学習の苦手さ、睡眠のトラブル、チック症などがセットで現れることが非常に多いものです。最新の脳科学の視点から、なぜこうした症状が重なりやすいのか、どう向き合えばいいのかというお話がありました。
読み書きや計算が苦手な「限局性学習症(SLD)」は、ADHDのお子さんの3〜4割に見られるほど身近な併存症です。最新の脳磁図(MEG)という装置を使った研究では、日本人の漢字の認識において、脳の特定の部位の働きが弱くなっている可能性が見えてきたそうです。学習の遅れが自信を失わせ、二次的な問題につながることも多いため、加賀先生は「見落とさないこと」の大切さを訴えました。
ADHDのお子さんの睡眠の悩みは単なるわがままや夜更かしではなく、脳の特性や別の睡眠の病気が隠れている場合が多いと指摘します。高江洲先生は、診療の場で「ADHDだから寝られないのは仕方ない」とせず、正しく原因を突き止めて、投薬以外の治療法も含めた適切な介入をすることが、毎日の生活の質(QOL)を上げるために欠かせないというお話をされていました。チック症とADHDは重なりやすく、両方あると学校生活などでの困りごとはさらに大きくなる傾向にあります。井上先生によると、チックが出そうになった時に別の動作をしてやり過ごすハビットリバーサルという心理療法がチック症に有効とのことでした。井上先生たちは、この治療をオンラインやグループでも受けられる仕組みを開発しており、より多くの方がどこにいても支援を受けられるように準備を進めているという心強いお話でした。
シンポジウム【ADHDと福祉・司法】
このシンポジウムでは、ADHDの特性が、反社会的な行動や過酷な成育環境(逆境体験)、さらには重大な事件の背景とどう関わっているのかが語られました。特性による困難さ以上に、周囲の理解不足や孤立が複雑に絡み合っている現状が浮き彫りになりました。
海老島先生による、ADHDと反抗・素行との関連について調査によると、受診した18歳未満のお子さんの半数以上に、暴力や攻撃性が見られたそうです。ですがこれは本人の特性だけによるものではないと指摘します。この背景には、家庭環境や孤立、不適切な養育といった条件が重なることが大きく影響しているためです。まずは投薬を含めた医療での治療を行い、その上で福祉や司法と手を取り合って、一人ひとりに合った「教育と治療」を届けることが理想的だと述べられていました。
ADHDの症状は、生まれ持った特性だけでなく、幼少期のつらい体験(逆境体験)に強く影響を受けると岩垂先生は指摘します。虐待や放置といった経験をすると、脳の発達に影響し、感情のコントロールがより難しくなる場合があります。
心の傷(トラウマ)に配慮したケアを行い、家庭や学校で「自分は大切にされている」という肯定的な体験を増やしていくことが、将来発生しうるリスクを防ぐ鍵になるとのことでした。
重大な事件を起こした方々の中には、ADHDや知的障害などを併せ持つ場合もあります。平林先生によれば、彼らの多くは30年ほど前の、まだ発達障害への理解が乏しかった時代に子ども時代を過ごしており、適切な支援を受けられないまま、厳しいしつけやいじめ、孤立を経験してきたと言います。病院の多職種チームでは、まずそのような方々の心の傷を癒やし、信頼関係を築くことから始めます。社会に戻る際も、関係機関が連携して「一人きりにさせない」支援体制を整えることが、再発防止のために何より重要だという力強いお話でした。
特性を理解し、「自分らしく生きる」を支えるために
今回の学会取材を通して感じたのは、ADHDという特性を単独で捉えるのではなく、その背景にある環境や併存する症状、そして何より「本人の尊厳」を大切にする専門家たちの熱意でした。
「Nothing about us without us」というテーマが示す通り、治療や支援は、本人が自分らしく生きるためにあるものです。脳科学的なメカニズムの解明が進む一方で、家庭や学校、地域が連携して、子どもたちが「自分は大切にされている」と実感できる環境を作ることの重要性が繰り返し語られていたのが印象的でした。
発達ナビでは、今後もこうした最新の知見をお伝えしながら、保護者の方とお子さんの歩みを応援していきたいと考えています。
- テーマ:日本ADHD学会第17回総会『Nothing About Us Without Us 自分らしく生きる』
- 会 期:現地開催/2026 年(令和 8 年)2月28日(土)~ 3月1日(日)
- オンデマンド配信/3 月12日(木)~3月 31日(火)
- 開催場所:嘉ノ雅 茗渓館(東京都文京区)
- 会長:中川栄二先生(国立精神・神経医療研究センター病院 副院長)
- 副会長:髙橋長秀先生(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 知的・発達障害研究部)
https://www.js-adhd.org/js-adhd-17meeting/
日本ADHD学会 第17回総会
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。