5歳を過ぎたら「夜尿症」かも?専門医が教えるおねしょの原因と受診のサイン【夜尿症セミナーレポ前編】
「おねしょ」と「夜尿症」の境界線は「5歳」
乳幼児期のおもらしは珍しいことではありませんが、医学的には明確な線引きがあります。昭和医科大学横浜市北部病院小児科学講座 池田先生によると、5歳未満の子どもの睡眠中の尿もれは「おねしょ」と呼ばれ、成長過程における自然な現象です。
一方で、5歳以降になっても「月1回以上の睡眠中の尿もれ」が3か月以上続く状態は「夜尿症」と呼ばれ、医療機関での診療や治療の対象(健康保険適用)となります。 決して珍しい病気ではなく、有病率は5歳で20%(5人に1人)、10歳でも5%(20人に1人)にのぼります。小・中学生の年代でも珍しいことではなく、高学年になっても約半数は夜尿症が続く可能性があるといいます。
なぜ夜尿症は起こるのか? 3つの要因と隠れた原因
夜尿が生じるメカニズムには、大きく分けて以下の3つの要因が複雑に絡み合っています。
1. 睡眠中の尿量が多い(多尿):夜間に尿を濃縮する「抗利尿ホルモン」の分泌が不適切であったり、就寝前の水分摂取が多かったりすることで、尿量が膀胱の容量を超えてしまいます。
2. 膀胱に尿を溜めておけない:膀胱の機能が未成熟で、睡眠中に十分な尿を溜められません。
3. 尿意があっても目が覚めない:夜尿のある子どもは、尿意を感じてもうまく目が覚めないまま排尿してしまいます。
さらに見逃せないのが「便秘」との関連です。直腸に硬い便が溜まると、すぐそばにある膀胱が圧迫されて尿もれの原因になるため、排便の問題を解決するだけで夜尿が軽快するケースもあるそうです
最も注意したいのは「自尊心の低下」と「睡眠の質の悪化」
「いつか治るだろう」と夜尿症を放置することは、子どもの心身の発達において複数のリスクを伴います。
まず大きな影響が出るのが「睡眠の質」です。夜尿症の子どもは夜尿症ではない子どもに比べて夜間の覚醒回数が多く、睡眠が細切れになり深い睡眠を維持しにくくなります。濡れた下着の着替えなどで親が夜中に起こすことも、子どもの睡眠をさらに分断してしまいます。この慢性的な睡眠不足は、日中の強烈な眠気や疲労感を引き起こし、授業中の集中力や記憶力の低下、さらには学業成績の低下(夜尿症の子どもの約半数にみられるとの報告も)に直結します。そして何より深刻なのが「心への影響」です。
おねしょをきょうだいや友人に知られることへの羞恥心や恐怖から、対人関係を避けたり、宿泊行事への参加に消極的になったりと、社会参加の機会を逃してしまいます。また、親が後片付けのストレスからつい子どもを叱ってしまい、後悔するという「親子の悪循環」に陥るケースも少なくありません。これらの積み重ねにより、「自分は人より劣っているのでは」という誤った自己認識を持ち、子どもの自尊心が大きく低下してしまう危険性があるのです。
昭和医科大学横浜市北部病院小児科学講座 池田裕一先生からのメッセージ
今回のセミナー登壇にあたり、池田先生から発達ナビの読者の皆さまへメッセージをいただきました。
「夜尿症は『よくあること』で済ませてはいけない疾患です。5歳を過ぎて夜尿が続くなら、医療機関への相談をご検討ください。『受診』と言うと行きたがらないお子さんも少なくありません。子どもが嫌がる場合は、まずは保護者の方だけで相談に行ってみるのも良いでしょう。
夜尿は睡眠の質を下げ、子どもの心身の発達に影響します。子どもの自尊心と睡眠を守り、家族のQOL(生活の質)を改善するために、正しい知識の普及が、子どもの健やかな成長を支えます」
もし「うちの子、もしかして夜尿症かも?」と悩んだら、一人で抱え込まずに専門の情報を得ることが大切です。 来る2026年5月17日(日)には、おねしょに悩む保護者の方に向けた「オンライン市民公開講座」が開催されます。病気なのか、治療が必要なのか、何歳まで続くのかといった疑問をはじめ、受診の相談方法や一度様子見と言われた場合の対処方法についてについて、専門家の話を聴くことができる貴重な機会です。
「おねしょ卒業!プロジェクト」のWebサイトからも詳細の確認や、夜尿症のセルフチェックが可能です。ゴールデンウィークのこの機会に、お子さんの状態を一度見直してみてはいかがでしょうか。
※クリックすると外部サイト「おねしょ卒業!プロジェクトオンライン市民公開講座」へ遷移します。
後編では、呉 宗憲先生(順天堂大学医学部附属浦安病院小児科)の講演をもとに、「夜尿症と発達特性(神経発達症)の深い関係」について詳しくお伝えします。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。