【小児科医 井上建先生】子どもの飛び跳ね、足踏みが止まらない理由は?応用行動分析で分かる関わり方/「こどものクセ外来」―小児科医による行動療法―
何度言っても飛び跳ねる……!ヒヤヒヤする「身体のクセ」の裏側とは?
「ドンドンしないで!」と響く音にヒヤヒヤして、つい叱ってしまう。飛び跳ねたり足踏みしたりする子どもの姿に、「何度言ってもやめない」と悩む保護者の方も多いのではないでしょうか。実は、そうした体を動かすクセにも、子どもなりの大切な「理由」が隠されています。
シリーズ「こどものクセ外来」について、獨協医科大学埼玉医療センターの井上建先生に、ジャンプなどの行動の裏にある理由と、望ましい行動を増やす関わり方についてご執筆いただきました。
ある日の外来でのやり取り「夫がお土産を買って帰ってくると5歳の娘が喜んでジャンプするんです」
Upload By 井上 建
行動やクセには理由(機能)がある
私たちは、つい「気になる行動をやめさせたい」と考えがちです。しかし、まず「なぜその行動をしているのだろう?」と考えると上手くいくことがあります。実は、望ましい行動にも望ましくない行動にも、それぞれ理由があるからです。
前回のコラムで取り上げた「つめ噛み」もそうでした。
退屈なときや不安なときに生じやすい場合は、その子にとっては緊張を和らげたり、気持ちを落ち着けたりする役割を持っていることがありました。
では、今回のジャンプはどうでしょうか。お父さんがお土産を買って帰ってきたときにジャンプするのは、確かに嬉しい気持ちが表れているのかもしれません。またジャンプそのものが気持ち良いのかもしれませんし、喜ぶ姿を見てお父さんがニコニコしてくれることが嬉しいのかもしれません。
同じジャンプでも、お母さんが電話中に飛び跳ねるなら「注目してほしい」のかもしれません。高い棚のお菓子を指さしながら、大きな声を出して飛び跳ねるなら欲しいという「要求の表れ」でしょう。宿題中に足の踏み鳴らしやジャンプが増えるなら、嫌なことから離れたいという「回避の気持ち」が関係していることもあります。
このように、同じ行動やクセでも、その理由は子どもや状況によって異なります。
応用行動分析という考え方では、この行動の理由や役割のことを「行動の機能」と呼びます[注1]。
https://www.akashi.co.jp/book/b114401.html
[注1]Cooper, J. O., Heron, T. E., & Heward, W. L. 著, 中野良顯 訳. 応用行動分析学. 明石書店
気になる行動を減らすには?
では、気になる行動を減らすにはどうしたらよいのでしょうか。
多くの場合、私たちは「それはだめだよ」と理由を説明したり、注意したりします。日常生活でよく見られる関わりで、こうした関わりによって気になる行動が減ることが期待できます(A)。このような関わりは、物を投げる、ほかの子を叩くなど危険な行動などでは特に大切となりますが、今回のように注意や説明だけでは行動が変わらないこともよくあります。
実際には、注意されることでかえってその行動が増えてしまったり、一時的に減っても別の気になる行動として現れたりすることもあります(B)。
そこで応用行動分析では、「気になる行動を減らすこと」だけを目標にするのではなく、「増やしたい行動は何か」を考えます。そして、その望ましい行動が増えるように働きかけます。
すると結果として、気になる行動が少しずつ減っていくことが期待できるのです(C)。
Upload By 井上 建
※図はAIの支援を受けて執筆者が作成しました
では、家庭ではどのように対応したらよいのでしょうか。
まず大切なのは、「やめなさい」と伝える、良くない理由を説明するだけでなく、その行動の代わりにしてほしい望ましい行動(=適切な代替行動)を教えることです[注1]。
例えば、お父さんがお土産を買って帰ってきたときのジャンプであれば、「ありがとうと言う」「ハグをする」「笑顔で気持ちを伝える」といった方法があります。そして、そのような行動ができたときには、「ありがとうって言えたね」「お父さん嬉しそうだね」と認めてあげます。望ましい行動を褒めることで、その行動は少しずつ増えていきます。先ほど提示した図のCですね。
また、宿題中にイライラして足を踏み鳴らしたりジャンプをして、大きな音を出している場合はどうでしょうか。
このとき、「今日はもう止めていいよ」とすると、大きな音をだした結果としてつらかった宿題を止めることができたと学習し、その行動が続きやすくなることがあります(=誤学習)。大きな音を出してつらそうにしているから「休んでもよい」とするのではなく、「今日は疲れたかな」と確認をしてあげて、お子さんが「うん」「休む」と意思表示ができたときに、「ちゃんと伝えられたね」と認めてあげると、適切な代替行動ができるようになってきます。
一方で、ジャンプそのものが楽しい、気持ち良いという子どももいます。その場合は、トランポリンやクッション遊び、背中をトントンするなど、別の方法で同じような感覚を得られるよう工夫することも役立ちます。
大切なのは、気になる行動をなくそうとするだけでなく、「代わりに何を増やしたいか」を考えることです。
https://www.akashi.co.jp/book/b114401.html
[注1]Cooper, J. O., Heron, T. E., & Heward, W. L. 著, 中野良顯 訳. 応用行動分析学. 明石書店.
嬉しいときにジャンプをすること自体は、多くの子どもにみられる自然な行動であり、必ずしも医療機関を受診する必要はありません。
一方で、イライラしたときに飛んだり跳ねたりするだけでなく、大声を出す、物を投げる、自分や他人を傷つけるなどの行動が頻繁にみられる場合には、一度相談してみてもよいでしょう。特に、家庭生活や園・学校での生活に支障が出ている場合は、専門的な支援が役立つことがあります。
医療機関では、行動そのものだけでなく、その背景にある要因を評価します。発達特性、不安の強さ、感情のコントロールの難しさなどを整理することで、対応のヒントが見つかることがあります。
また、保護者の方への対応方法の助言や心理的支援が行われるほか、必要に応じて薬物療法が検討されることもあります。気になる行動を叱るだけではなく、その理由を理解しながら支援していくことが大切です。
まとめ
ジャンプや足踏み、ドンドンと音を立てる行動をみると、つい止めてほしいと思ってしまいます。しかし、その行動には子どもなりの理由や役割が隠れていることがあります。
大切なのは、行動そのものだけを見るのではなく、「なぜその行動をしているのだろう?」と考えてみることです。そして、気になる行動を減らすことよりも、適切な代替行動を増やしていくことが、行動を変える近道になることがあります。
ぜひ、お子さんの行動の意味に目を向けてみてください。そして、もしかすると、ついついお土産を買ってきてしまうお父さんの行動にも、理由があるのかもしれません。子どもの嬉しそうな様子は、大人にとっても強力なごほうびです。