10年越しの答え合わせ!?「一斉指示が通らない」理由とは?ASDの息子が中学生になって語った本音

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プレ幼稚園での気づき


スバルは1歳半健診で言葉の遅れを指摘され、2歳から何度か受けた発達検査では「言葉が遅いだけ」と診断されました。家族で過ごす日常生活では言葉が遅い以外の困り事を感じていなかったので、私はのんきに「専門家に『言葉が遅いだけ』のお墨付きをもらった」と思っていました。スバルが2歳半の時に、遅れている言葉を促すため集団での刺激を期待してプレ幼稚園に通い始めました。

プレ幼稚園に通い始めて最初の数か月は母子同伴通園で、慣れてきたと先生が判断した子から順番に母子分離通園に切り替わって行くシステムでした。入園から少し経ち、ちらほら母子分離通園をする子が現れ始めた頃、私はあることに気がつきました。

それは「お片づけの時間だよ」「お外に行くよ」など先生がクラス全体に呼びかけた指示にスバルが全く反応しないことです。

指示が理解できないわけではなく、私が隣で「お片付けの時間だって」「お外に行くみたいだよ」と直接呼びかけると、すぐに切り替え反応することができました。一対一であれば「お弁当を用意する前にコップを持って先生から水を注いでもらって自分の席に座るんだよ」という複雑な指示も理解できたので、先生の一斉指示だけ反応できないスバルが不思議でした。
いつも「先生の話をちゃんと聞こうね」と声をかけていました。

ほかにも気になることがありました。スバルは絵本が大好きで家では毎日10冊以上読んでいて、少し長めのお話でも私の膝に座って最後まで聴いていました。それなのにプレ幼稚園で先生がみんなに読んでくれる時は全然聴いていないのです。みんな座って聴いているのに、スバルだけ集中できずに歩き回ってしまいました。結局全ての子が母子分離通園に切り替わる中、私とスバルだけが居残りで母子同伴通園を続け、ある時は先生の指示をスバルに同時通訳し、ある時は膝の上でひたすらホールドし続けるという役割を担っていました。

ASD(自閉スペクトラム症)の診断。プレ幼稚園に診断書を提出すると同時に退園を言い渡され……


その後、3歳になり言葉が溢れたもののプレ幼稚園から「発達検査を受けて診断書を提出してください」と言われました。そこで受けた検査でASD(自閉スペクトラム症)と診断され、プレ幼稚園に診断書を提出すると同時に退園を言い渡されました。
それから慌てて幼稚園探しをはじめ、信頼できる幼稚園に出会い、無事に年少から幼稚園に入園することができました。幼稚園に入園して少し経ったある日からピタッと歩き回らなくなり、座るべき時間に座り、話を聞くべき時間に話を聞くようになりました。スバルの中で点と点が繋がるような何かがあったのだと思います。

しかし「話を聞くべき時間に話を聞いている」のにもかかわらず、話の内容や指示はあまり理解できていませんでした。プレ幼稚園までは「一斉指示が通らない」のは「遊びに集中していて聞こえていない」のだと思っていましたが、ここに来て「先生の話を聞こうとしていても頭に入らない」のだと知りました。相変わらず一対一で指示されると理解することができました。

この頃にはASD(自閉スペクトラム症)の特性の1つに「一斉指示が通りにくい」というのが知識としてあったので「特性だから仕方ないのか」と思うようになりました。もちろん先生やクラスメイトにできるだけ迷惑をかけずに、スバルも快適に幼稚園生活を送れるようにどうするべきか考えることは諦めていませんでしたが、「なぜ一斉指示が通りにくいのか」を考えることはなくなりました。
「特性ってそういうものだよね」と思っていました。

小学校・中学校は自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍。中学生の今は……


小学校、中学校は自閉症・情緒障害特別支援学級へ就学しました。授業が少人数であることや、先生のサポート、本人の成長により「一斉指示が通りにくい」に関わる困り事は、幼稚園の頃と比べたら少なくなりました。

しかし中学生になってすぐ体育祭練習が始まりました。毎日泥だらけのヘトヘトで帰宅するスバルがこんなことを言い出しました。「先生の声は聞こえてるのに、話している内容が聞こえない」と。聞こえているのに聞こえない?最初は何を言っているのか分かりませんでした。でもふと、「お片付けの時間ですよ」と言われても遊び続けていたあの頃の姿が思い浮かびました。


運動会練習の様子を詳しく聞くと、体育の先生が大きな声で怒っているような口調で話している。周りにはざわつく数百人の生徒。いろいろな場所から聞こえてくる別の先生の注意の声。そんな環境の中、「メインで話している先生の声は確実に聞こえているのに、話の内容が分からない」のだと話してくれました。
10年越しの答え合わせ!?「一斉指示が通らない」理由とは?ASDの息子が中学生になって語った本音

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スバルにとっては、たくさんの人の声や物音の中で、今必要な情報を取り出すのが難しいようでした。音が耳に届いても「これは自分への指示だ」と理解して行動に変えるその途中で情報が迷子になってしまうのかもしれないと感じました。

先生の声は聞こえている。けれど行動につながる情報としての形では届いていない。
スバルの言う「聞こえているのに聞こえない」はそういうことなのだと思いました。

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10年越しの答え合わせ


プレ幼稚園の頃感じていた「どうして私の同時通訳がないと、先生の指示が通らないの?」という疑問の答えを10年経って本人の口から聞けるとは思いませんでした。あの時のスバルは聞いていなかったわけでも、やる気がなかったわけでも、反抗的だったわけでもなく、ちゃんと指示を聞こうとする気持ちはあったのだと思います。
だから私の同時通訳を聞いて「大変だ大変だ」とばかりに大慌てで片付けを始めていたのだと思います。

自分の気持ちが話せるようになった今なら、「これが苦手なのは特性だから」とひとまとめにせず、スバルの中で起こっている困り事としてたくさん話し合うことができるんだなと思いました。今の私ならあの頃のスバルにどんな言葉をかけるかな?と思うのでした。

スバルさんが「一斉指示が通りにくい」背景について、幼児期から中学生になるまでの経過を共有してくださり、ありがとうございます。「一斉指示が通りにくい」というご相談はよくありますが、その経験をお子さん自身の言葉で聞くことができたことはとても貴重です。


ASD(自閉スペクトラム症)のあるお子さんの中には、周囲にある多くの音や声の中から、自分に必要な情報だけを選び取ることが難しい場合があります。これはADHD(注意欠如多動症)にみられる注意の特性とも重なりますが、感覚過敏によって雑音が大きく聞こえること、雑音の中で音声の意味をまとめにくいこと、一斉指示を「自分に向けられた言葉」として捉えにくいことなどが関係している場合もあります。先生の近くや雑音の少ない席にしたり、板書、絵、文字、手順表など視覚情報を併用したりすることで、理解しやすくなることもあります。幼い頃には本人も説明できなかった困り事を、成長して自分の言葉で伝えられたことはとても嬉しいことですね。スバルさんの言葉は、周囲がお子さんの行動の背景を考え、より合った支援につなげるための大切なヒントになったのではないかと思います。(監修:小児科医 室伏佑香先生)

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。

知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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