被災地支援15年で見えた学校現場のリアル。被災地における発達障害児の支援とは?【第73回日本小児保健協会学術集会レポート】
環境変化への適応が難しい子どもたちと、疲弊する家族
東日本大震災の発生直後から現在に至るまで、宮城県気仙沼市の学校現場に入り、子どもたちや保護者、そして教職員に寄り添い続けてきた古川先生。発達障害の特性がある子どもたちが災害時に直面する困難や、家族を支えるペアレント・トレーニングの有用性、そして外部支援者として大切にすべき「伴走」の姿勢について、深い学びと気づきに満ちた講演内容をレポートします。
災害による急激な環境の変化は誰にとっても大きなストレスとなりますが、発達障害(神経発達症)の特性があり、環境変化への適応が苦手な子どもたちにとっては、その負担は計り知れません。
震災によって学校の校舎は使えなくなり、学校に通えなくなった高校生たちは、他校を間借りして学校生活を送ることになった際に感じたことをこう話したそうです。
「同級生とばらばらになって他校での生活が始まったけど、とてもつらい日々だった」
「朝のバスの時間も早くて大変だったし、何といっても『アウェー感』を感じた」
小学校や中学校の運動場には仮設住宅が立ち並びました。慣れない場所、見通しの立たない生活、失われた遊び場。こうした環境のコントロールが難しい状況下になると、震災直後にはなくとも、徐々に不安な気持ちから反抗的な態度や不適切な行動として表れることがあったそうです。
同時に、保護者もまた深く疲弊していました。
避難生活の中で、子どもの行動に対して「もっと大変な人がいるのに、うちの子は何でこうなんだろう」と自責の念に駆られたり、周囲の目を気にしてSOSを出せなかったりする方が多くいたと言います。
中長期的支援として効果的だった「ペアレント・トレーニング」
こうした状況の中で、古川先生が継続的に行ったのが「ペアレント・トレーニング」です。このトレーニングでは、行動を「ABC分析(行動の前後の状況を分析する手法)」で整理し、子どもに何が起きているのかを保護者と一緒に紐解いていきました。
当時の避難生活では3世代同居になる方が多く「子どもの話を家でしにくい」「自分より大変な人がいる」という遠慮の気持ちから相談しづらい状況にありました。そのため、まずは「あなたの声が聞きたい」という姿勢で丁寧にヒアリングすることを心がけていたそうです。過酷な状況下において、親が自身の感情を吐き出し、肯定される場があることは、子どもを支えるための大きな力となります。
支援に行って知った、外部支援者が守るべき「3つのルール」
また、古川先生は、支援者が被災地に入る際に最も気をつけなければならないのが「学校現場(支援先)を疲弊させないこと」であると語ります。それは2011年12月に初めて支援に訪れた際のこと。
支援先の教育委員会の先生にこう言われたそうです。
「支援の人が来てくれるのはありがたいけど、その人たちの調整をすることがどれだけ大変か、分かりますか?」
生きることに精いっぱいである状況においては、「支援を受け入れるための調整」自体が、被災地の先生方にとって過酷な負担になります。例えば、「必要物資は何か」を聞かれても、何が今必要なのか現状確認することが大変です。ようやく繋がった電話で「口頭だと分かりにくいのでFAXで送ってくれますか」と言われてもFAXが使えません。どのような支援が必要か資料を求めると「資料を作るのって結構大変なんですよ」というのがリアルな声でした。
そこで、支援先教育委員会の先生から提示された、以下の支援における3つのルールを徹底して守り抜いたそうです。
- 1.「自己完結」:支援者の宿泊場所や交通手段、食事は支援者自らで確保すること。
- 3.「支援者間で完結すること」:現地の教員に負担をかけないよう、例えば外部支援者が交代する際などの引継ぎ業務は支援者間で行うことを徹底すること。
古川先生は「資料は一切なしで構わない」と徹底して裏方に回りました。この現場の声を第一に優先する姿勢が、長期的な信頼関係の構築に繋がったのです。
現場の力を引き出す「伴走」という支援の形
古川先生は、外部支援者の役割を「伴走」と表現します。
地域外から来た支援者ができることは、現地の人々が被災した経験を口に出せる「安全な場」を提供すること。支援者が「教えてもらう側(聞き手)」になることで、現地の人が主体性を取り戻すきっかけにもなります。
また、子どもを育てる教職員自身が心身ともに健康でなければ、適切な支援は成り立ちません。「支援者を支えるケア」や、「無理をさせない文化」を醸成していくことも、伴走者の重要な役割です。
必死に生きていこうと心に決めた子どもたちを、どうにかして支えていきたい
東日本大震災から15年になる現在でも、3か月に1回程度気仙沼市を訪問しているという古川先生。ペアレント・トレーニングで関わった保護者の方からたびたびお礼の手紙をもらったり、震災を乗り越えた高校生が「必死に生きていこうと心に決めました」と書き綴る作文を読ませてもらったりするたびに、こう思うそうです。
『必死に生きることを決めた子どもたちを、どうにかして支えることができたら』
『それならあともう1年、支援頑張ろう』
災害時の発達支援や家族支援は、現地のニーズを徹底的に尊重し、保護者の声に耳を傾け、子どもが安心できる環境を周囲の大人たちと一緒に少しずつ整えていくこと。その地道な「伴走」こそが、最も確かな支援になるということ。15年もの間支援を続ける古川先生による、温かで強い思いの伝わるお話でした。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。