不登校と発達特性の関係とは?AI活用やオンライン支援が広げる「多様な学び」の選択肢【勉強会レポート】
発達支援テクノロジー推進協議会主催「不登校から考える次世代AIと共創する人間・社会のあり方」勉強会
本イベントでは、行政、国政、民間企業、そして研究者が一堂に会し、不登校と発達特性の深い関係性や、オンライン・AIといった最新テクノロジーを用いた支援の可能性について熱い議論が交わされました。
発達支援の未来や、不登校傾向のお子さんと向き合う保護者の方へのヒントが詰まった勉強会の様子をレポートします。
- 橋本 咲子 氏:発達支援テクノロジー推進協議会 主幹事 / PAPAMO株式会社 代表取締役
- 五十嵐 立青 氏:つくば市長
- 鈴木 英敬 氏:衆議院議員 / 自民党教育調査会 不登校対策プロジェクトチーム(PT) 事務局長(元三重県知事)
- 為末 大 氏:東京大学先端科学技術研究センター教授/ 元陸上メダリスト
- 佐々木 章太 氏:株式会社すららネット 執行役員/子どもの発達支援室室長
不登校と「発達特性」の関係。なぜ行き渋りが起こるのか?
勉強会の冒頭、主催者である発達支援テクノロジー推進協議会主幹事でありPAPAMO株式会社 代表取締役の橋本 咲子氏は、不登校と発達特性の関係について語りました。
文部科学省の調査でも、不登校の背景要因の1つに「発達障害の診断や疑い」が挙げられています。集団への苦手意識、読み書きの難しさといった発達特性から生じる学校生活の困難が、不登校のきっかけになっているケースが見られるようです。実際に、発達特性のある子どもの約6割が学校への行き渋りを経験しており、その経験率は全体平均に比べて約9.5倍に上るというデータが示されました※。
※出典:PAPAMO株式会社「令和7年不登校に関する調査」
Upload By 発達ナビ【編集部Eye】
クラスのなかに約8.8%(1クラスに約3人)は存在すると言われる、学習や行動に著しい困難を抱える子どもたち。学校生活で特に見逃されやすいのが以下の3つの困難です。
- 1.言葉・コミュニケーションの困難
集団での会話についていけない、困りごとを言葉で説明できず手詰まりになる。
- 2.読み書き学習の困難(発達性読み書き障害など、有病率約7%)
読むのに時間がかかる、板書が間に合わない、漢字を書く負担が大きい。
- 3.運動協調の困難(発達性協調運動症など、有病率約5%)
鉛筆での書字や定規などの道具が苦手、体育や工作が苦痛、姿勢を保てず座り続けるのが大変。
これらの困難が重なることで失敗体験が積み重なり、二次的な不登校や行き渋りへと繋がっていくこともあります。だからこそ、「不登校になってから」ではなく、「困り始めた最初の小さな段階」で早期に専門の支援に繋ぐことが極めて重要であると語られました。
「オンラインで子どもが変わるはずがない」という思い込みを覆した、つくば市での100人実証実験
不登校の手前で早期支援を届けたい。しかし、現在の発達支援(療育)の現場は、専門職の不足などにより数か月から1年以上の待機が発生する「療育難民」が大きな社会課題となっています。
この空白を埋める切り札として期待されているのが、オンラインを活用した個別支援です。
協議会主幹事であるPAPAMO株式会社が、つくば市と共に行った小学低学年の子どもたち100人を対象としたオンライン療育の実証実験(理学・作業療法士によるオンライン・マンツーマン支援、月2回・半年間)では、定量的な成果が実証されました。
国際的な作業療法の評価指標において、半年間で「+4点」という改善が見られたのです。さらに、参加した子どもの35%が不登校や行き渋りの状態でしたが、登校状況に変化が見られたお子さんもいました。
この実証実験を共に行ったつくば市の五十嵐 立青市長は、当初「オンラインでどこまで支援ができるのか」と半信半疑だったと言います。しかし、中間報告で示された具体的な事例に強い衝撃を受けたと語ります。
【手首の使い方と風船バレーの事例】
「文字が枠に収まらず、きれいに書けない」という課題を抱える子どもがいました。オンライン越しにサポートした専門家は、単に文字を書く練習を指導するのではなく、『手首のしなやかな使い方が苦手である』ということを見抜いたのです。 そこで、オンラインで繋ぎながら『風船バレー』などの身体を動かす遊びを通じて手首をコントロールするトレーニングを行いました。
その結果、わずか3か月で手首の動きが改善し、文字も枠内にきれいに収めて書けるようになりました。こういった自信をきっかけに、1年間不登校という選択をしていた子どもが再び学校に足を運ぶようになった事例もあるといいます。
五十嵐市長は、「リアルでなくても高い専門性を持つチームがオンライン越しに的確にアセスメントし、本質的なアプローチができれば、距離の制約を完全に超えて劇的な効果が出せる」と、オンライン支援の可能性を語りました。
現在、オンライン療育は児童発達支援や放課後等デイサービスなどの国の福祉給付の対象外となっており、全額自己負担となるため保護者の経済的負担が大きいという課題があります。つくば市と協議会は共同で、国に対してオンライン支援の早期公費対象化や安全なガイドライン策定を働きかけています。
「オンライン学習も内申書に反映」不登校の子どものキャリアを守る、国と行政の劇的な進化
「学校に行けないことで、将来の進学やキャリアが閉ざされてしまうのではないか」 これは、不登校のお子さんと向き合う多くの保護者の方が抱える、最も切実な不安ではないでしょうか。
自民党の不登校対策プロジェクトチームで事務局長を務める衆議院議員の鈴木 英敬氏は、国が今、不登校の子どもたちの未来を守るために本腰を入れて制度改革を進めている現状を報告しました。
特に大きな進展として挙げられたのが、「不登校期間中のオンライン学習や代替施設での頑張りを、学校の成績評価や高校入試の内申書に反映させる」という、文部科学省の学校教育法施行規則の改正・運用の徹底です。
不登校の子どもが自宅でデジタル教材を活用して学習したり、教育支援センターやフリースクールで課題に取り組んだりした場合、それを学校側が公式な成果として認め、進学などのキャリアにおいて不利益を被らないような仕組みが整えられました。
Upload By 発達ナビ【編集部Eye】
国の取り組みでは、不登校のフェーズに合わせたきめ細かなサポートの拡充が進められています。
- 不登校になる前(早期発見)
GIGAスクール構想で配布された「1人1台端末」を活用し、毎朝子どもたちが自らタブレットで体調や気分のアイコンを入力する「心と体の健康観察」を全国で推進。ある自治体では、これにより相談件数が年間50件から680件に、いじめの早期認知・対応件数が20件から110件に劇的に増加。早期発見・早期対応の効果を上げています。
- 別室登校のサポート(校内教育支援センター)
教室に入りづらい子どもたちの受け皿となる校内別室「校内教育支援センター」の設置を強化。現在、文科省は配置校を4,000校から7,000校へと大幅に増やす予算要求を出しています。
- 柔軟な学び(学びの多様化学校)
子どもの状態に合わせて授業時間やカリキュラムを非常に柔軟にカスタマイズできる「学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)」について、国は全国すべての都道府県への配置を目指し、強力に新設・推進を進めています。
鈴木氏は、「不登校対策は、住んでいる自治体の財政力によって届く支援に格差があってはならない。国がしっかりと予算(※不登校・いじめ対策予算は去年初めて100億円を突破し、来年度は122億円を要求中)を確保し、一人ひとりの状況に合わせた多様な選択肢を保障していく」と、国としての強い決意を示しました。
【未来】AI時代に求められる「身体性」と、「仕組みが子どもに合わせる」教育へのシフト
急速に生成AIが普及し、専門的な知識や情報をより容易に得られるようになった現代。子どもたちにはどのような教育や環境が必要なのでしょうか。
元陸上競技アスリートで現在は東京大学先端科学技術研究センター教授として体育の研究にも携わる為末 大氏は、AI時代だからこそ「身体性」と「直感」の価値が高まると語ります。
「生成AIは膨大な知識を持っていますが、人間にあって生成AIにない決定的なものは、『場所の有限性』『時間の有限性』『疲労の有限性』の3つです。人間は身体を持っているからこそ、五感を通じて世界を感じ、身体の反応から感覚を得て判断します。特に発達に特性のある子どもたちにとっても、頭で考えて自分をコントロールするだけではなく、メンタルトレーニングや姿勢、身体の動かし方など身体からの介入を通じて自分の心や行動を安定させる方法を身につけることが非常に有効です」
Upload By 発達ナビ【編集部Eye】
また、ディスレクシア(読字不全)のお子さんにとって、従来の「紙の教科書」は大きな壁でしたが、タブレットなどのデジタル教科書における「音声読み上げ」に置き換えるだけで、学力面で周囲とまったく遜色のない成果を出せることが実証されています。
テクノロジーはまさに、特性による機会格差をなくすツールになると語ります。
株式会社すららネットの佐々木 章太氏は、これからの教育・支援のあり方は、これまでの常識とは180度変わると述べました。
「これまでは、定められた学校の枠組み(システム)に、子どもが自分を合わせなければならない時代でした。しかしこれからは、テクノロジーや教育システムなどの仕組みが子どもの個性や特性に合わせてアプローチする時代へとシフトします。 すでに自宅で学べるデジタル学習『すらら』などの選択肢は増えています。そこで今必要なのは、つくる時代から『届ける時代』への移行です。せっかくある選択肢が、必要な当事者に届いていないことに課題を感じています。 例えば、自治体のWebサイトなどに生成AIチャットボットを導入し、親御さんが子どもの悩みを打ち明けるだけで、その子に最適なフリースクールや個別支援、学びの多様化学校を提案して繋いでくれるような『届ける仕組み』があるといいのではないかと思っています」
学校や家庭だけで抱え込まず、社会全体で子どもたちを育てる
今回の勉強会を通じて強く感じられたのは、「不登校は子どもだけの問題でも、学校や家庭だけの問題でもない」ということです。
不登校の背景には発達特性による生きづらさがあり、それは決して子どものわがままや親の育て方のせいではありません。そして、専門職の不足による療育難民の課題や、学校環境とのミスマッチは、テクノロジーという強力なパートナーと、国や自治体の柔軟な制度改革によって解決し始めています。
「学校に戻すことだけがゴールではない」とつくば市の五十嵐市長が語ったように、大切なのは子どもたちが「自分は愛されている、この社会で大丈夫だ」という自己肯定感と自信を失わずに育つことです。
学校、民間、オンラインテクノロジーが手を取り合い、すべての子どもが「困ったその瞬間」に最適な支援や学びにアクセスできる温かい社会の実現へ向けて、確かな一歩が踏み出されています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。