「新たな挑戦で子どもが得たこと」平野みかほの『子どもと、私と、らしさと』Vol.8 | HugMug
『La boutique Uncinq』を営みながら、毎日を丁寧に過ごす平野みかほさん。愛らしい娘さんふたりとの穏やかで微笑ましいエピソードを中心に、みかほさんの好きなものをご紹介していきます。第8回目は、お子さんが夏休みに参加したアートプログラムについて。普段の生活とはまた違った刺激や体験は、またひとつ子どもを成長させてくれます。これから迎える芸術の秋に、ぜひ参考にしてみて。
こんにちは。
昼間はまだポカポカと暖かいですが、朝と夜は少しひんやりしてきて、秋の訪れを感じます。
最近は、少し早起きをして、テラスで束の間のひとり時間を楽しんでいます。
静かな朝の空気に身を委ねながら、久しぶりに読書を再開したり、コーヒーを嗜んだり。
子どもと過ごす時間はもちろん大切なのですが、それとは別に「自分だけの時間」を少しでも持つと、どうやら私は心に余白が生まれるタイプのようです(笑)。
季節の変わり目の朝は、風のやわらかさや空気の匂いに癒され、一日の始まりが少し特別に思えてくる気がします。
そんな中で、ふと夏の間の子どもたちの姿を思い返しました。
とくに長女は、1ヵ月半という、昨年よりも長い夏休み。
「夏休み、どうしようかな……」と戸惑ったのは、実は親の私でした。
長いお休みをどう過ごすか、子どもにとっても私にとっても、ちょっとした悩みどころです。そこで、今年は「知らないことを知る、体験してみる」という小さなテーマを決めてみました。
10歳になる長女にとっては、少し背伸びをして新しいことに挑戦するきっかけに。私にとっても、一緒に驚いたり、学びながら過ごす時間になればいいなと思ったのです。
体験をひとつ積み重ねるたびに、心の中に小さな引き出しが増えていく。その引き出しが、これからの娘を支えてくれるといいな。
そんな思いを込めた夏休みの始まりでした。
その一環として参加したのが、東京都と公益財団法人、東京都歴史文化財団が実施する子ども向け芸術文化体験、ネクスト・クリエイション・プログラム「ファンタジスタ」です。これは、子どもたちがアートを通して自由に表現する力を育むプロジェクト。自然の原理や物事の仕組みを学びながら、正解のない課題に取り組み、ワークショップをベースにしたアート作品制作と展示発表が用意されています。
夏から秋にかけてプログラムがいくつか用意されており、小さい頃から、お絵描き、つくることが好きだった長女は、ヴィジュアルアーツ部門の全日程に申し込み、ひとりで参加しました。
まずはじめに、海の生き物や環境について体験的に学ぶ2日間のプログラム「UPCYCLE / 海の生き物の表現」というワークショップが葛西臨海公園で行われました。
1日目は葛西臨海水族園で、海の生き物を観察しながら、ガイドさんに生態系についての話を聞き、観察やスケッチを行うところから始まります。長女はアクリル作品の原画を制作しました。最初は少し緊張していた様子の長女でしたが、自分と同じクラゲやシャチ、サメ類が好きな子たちとすぐに打ち解け、楽しそうに作品づくりに没頭していました。
「ここはこう描きたい」「難しいな〜」と色彩の少ないサメの表情を引き出すのが難しかったようで、自分のできることとやってみたいことを行き来しながら取り組んでいました。その姿からは観察の深さを学んでいる様子が伝わり、見ている私も思わず感心してしまいます。
小さな気づきを積み重ね、試行錯誤しながら完成に向けて夢中に取り組む姿がとても印象的でした。
2日目は描いた絵をデータ化し、コロナ以降不要になったアクリルパーテーションを再利用して、レーザーカッターで加工されたアクリルプレートに仕上げます。その後、自ら色づけを行い、作品を完成させます。
また、このワークショップを通して、海洋プラスチックゴミの深刻さについても学び、海や生物を「自分ごと」として考えるきっかけになったようです。
(参加者全員に配られた、“あおいほしのあおいうみ”)
このワークショップでは、「ドローイングを作品へとつなぐ、先入観を取り除いて感覚を開く」ことをテーマに、廃棄される布やバッグを活用し、自分のアイディアやひらめきを活かして作品づくりを体験します。
美術大学の授業プログラムを一部取り入れ、実際にバッグを分解し構造を学びながら、形や使い方に自分のアイディアを加える実践的な内容です。
1日目は、スケッチやアイディア出しを中心に、廃棄される布の素材の特性や形を学びながら、バッグを作品としてどう活かせるかを考えるところから始まります。実際にバッグを分解してみることで、ただ眺めているだけでは分からなかった「つくり手の工夫」に触れ、発想もぐんと広がり、頭の中に浮かんだアイディアをどう自分らしく取り入れるか考える、貴重な時間になりました。
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2日目は、1日目のスケッチやアイディアをもとに、実際にバッグをキャンバスとして作品に仕上げます。紙の上で描いた絵が少しずつ立体的なバッグ(作品)へと変わっていく過程は、素材の魅力や多様な表現方法を学ぶいい機会となりました。
大きなキャンバスを目の前に少し戸惑いながらも、自分の手で色を重ねたり形を変えたりするたびに、嬉しそうな表情を見せていました。
ファンタジスタのワークショップは10月末まで続き、11月には渋谷ヒカリエでの展示発表が用意されています。
自分たちの作品を見てもらうことを通して、環境問題について考えたり、物のあり方を見直したりすることの大切さを多くの人に伝えることが、学びのゴールとなるよう工夫されています。
家庭では教えられない発想や体験ばかりがたくさん詰まったこの取り組み。専門家の先生方や多摩美術大学に通う学生さんたちと直接触れ合いながら学べたことは、長女にとって大きな刺激になったと思います。
こうして、いつもより忙しく過ごした今年の夏休みでしたが、長女はファンタジスタをはじめ、見たことない映画を見たり、読んだことのない本を読んだり、やったことのない技法で作品をつくったり、たくさんの”はじめて”に触れ、前向きに挑戦してくれました。
(小学校主催のサタデースクールにて。夏をテーマにした生花)
(シェフの友人がゲストとして招かれ、開かれていたアートスクール「美味しいってなんだろう」に参加。長女が自分で考えてつくったオリジナルレシピのデザートを披露しました)
(夏休みの自由工作は、水彩画を切り取って貼り絵にしてみました)
「知らないことって、思っているよりおもしろいことが多いのかも」と笑顔で話す姿に、知らないことを知る楽しさを改めて感じ、私自身も学びを深めていきたいと感じたひと夏でした。
これからも、新しいことに挑戦する気持ちも、日々の暮らしのささやかな喜びも、どちらも大切にしながら、子どもたちと一緒に少しずつ学びや発見の引き出しを増やしていけたらいいなと思います。
PROFILE
Instagram:@la_boutique_uncinq