毎日の食卓を、また楽しみに。子どもの「食べない」と心穏やかにつきあう4つの方法
「子どもがごはんを食べてくれない」――この悩みに、心が日々すり減っている親御さんは少なくないのではないでしょうか。
栄養を考えてつくった料理を残されるたびにイラッとし、つい強い言葉を口にして、あとから自己嫌悪。気づくと、家族の食卓そのものが憂うつな場になっている、というのはよくある話です。
ここで一度、立ち止まってみたいのです。
そもそも、嫌いなものは大人だって食べたくありません。椎茸が苦手な人は何歳になっても椎茸はイヤだし、パクチーがダメな人は一生パクチーをよけて生きていきます。
子どもだって同じです。嫌いなものは嫌い。
これは欠陥ではなく、ただの好み。すりつぶしても、細かく刻んでも、星形に切ってもハート形にくり抜いても、嫌いなものはやっぱり嫌いなのです。
つまり、親をいちばん消耗させているのは「子どもが食べないこと」そのものではなく、「あれだけ工夫したのに、それでも食べてもらえなかった」という”報われなさ”のほう。子どもが悪いわけでも、料理の腕の問題でもなく、ただ「嫌いなものは嫌い」というだけ。だとしたら、毎食を「食べさせる/食べさせない」の勝負にしていること自体が、親をすり減らす最大の原因かもしれません。
それなら、ゴールを置き換えてみたらどうでしょうか。
「どうすればこの子が食べてくれるか」ではなく、「食べてくれないこの子と、どう心穏やかに食卓を共にするか」を考える。
そこでこの記事では、「子どもの偏食をどう直すか」ではなく、「親自身が食卓で消耗しないためにどうふるまうか」を考えます。
食べさせ方の工夫ではなく、食べてくれないわが子と心穏やかにつき合うための、心理学に裏打ちされた向き合い方です。
「食べない=私の料理が否定された」を、まず切り離す
食卓でイラッとする瞬間、親の頭のなかでは「せっかくつくったのに」「私の料理が下手なのかな」「このままだと栄養が足りない」と、いくつもの解釈が一気に走っています。
じつはこの解釈の連鎖こそが、感情の強さを決めている張本人です。
同じ出来事でも、それを「どうとらえ直すか」によって、わきあがる感情の強さは大きく変わります。
たとえば子どもが料理を残したとき、「私の料理が下手」ととらえれば落ち込みますが、「今日はお腹がすいてなかっただけ」ととらえれば、そこまでダメージは受けません。出来事は同じでも、解釈を変えるだけで、心の削られ方はずいぶん違ってきます。
このように、出来事を別の角度から見直す習慣を、心理学では「認知的再評価(Cognitive Reappraisal)」と呼びます。
そして、この”とらえ直し”をふだんから使う人ほど、ネガティブな感情に飲み込まれにくく、対人関係も良好で、心の健康度も高い傾向があることが、大規模調査で示されています(スタンフォード大学心理学部教授ジェームズ・グロス氏と、当時カリフォルニア大学バークレー校に在籍したオリバー・ジョン氏が2003年に『Journal of Personality and Social Psychology』誌で発表した論文より*1)。
これを食卓に当てはめてみましょう。
“とらえ直し”の小さな練習頭に浮かびがちな解釈こうとらえ直す「食べない = 料理の否定」「今日のこの子のコンディション」「食べない = しつけの失敗」「食べる量や好みは個人差が大きい」
料理のクオリティと、子どもの「食べる/食べない」は、必ずしも一致しない。
そう切り離す視点を持つだけで、目の前の食卓の重さは、ぐっと軽くなります。
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食べないのは”今日のメニュー”。好きなものに切り替えるのも、ぜんぜんアリ
ここでもうひとつ、「食べない」という言葉の意味を確認してみてください。
子どもが拒んでいるのは、たいていの場合「今日、親が用意したこの料理」であって、「すべての食べ物」ではありません。
納豆、ふりかけごはん、バナナ、卵焼き、好きなパンなど、お決まりの”これなら食べる”が、家庭ごとに必ずあるはずです。
それなら、その日の料理にこだわらず、子どもが食べてくれるものに切り替えてしまうのも、十分に有効な選択肢です。
「でも栄養が偏るのが心配」という声も聞こえてきそうですが、ここはあまり難しく考えなくて大丈夫です。
そもそも、「その食材からしか摂れない栄養素」というものは、ほぼ存在しません。パクチーにしか含まれない栄養素も、椎茸固有の栄養成分も、ピーマンが世界で唯一の供給源である栄養もありません。タンパク質も、ビタミンも、ミネラルも、ほかの食材からいくらでも摂れます。
つまり、「これを食べさせないと栄養が偏る!」と感じている食材の多くは、別のものに置き換え可能。「なんとしてでもこれを食べさせなきゃ」と力む必要は、ほとんどないのです。
「せっかくつくったのに」という気持ちはもちろんわかります。でも、毎日の食卓を、親子そろってある程度笑顔で終えられるほうが、長い目で見ればずっと大切な財産になります。
ポイントは、これを「妥協」や「負け」ではなく、「家族の食卓を守るための前向きな選択」として受け取ること。
料理を残されるたびに傷ついて消耗するくらいなら、最初から子どもが食べてくれるものを軸に据える日があってもいいのです。
新しいメニューに挑戦するのは、親に気持ちの余裕があるときで十分。それくらいの構えのほうが、結果として親子の食卓は長続きします。
“今日のメニュー”を潔く手放す工夫
- ✓大人の料理から取り分けが難しい日は、子どもの定番だけにする
- ✓週に1〜2回は「子どものリクエストデー」をつくる
- ✓冷凍うどん、ふりかけごはん、卵焼きなど”これなら食べる”のストックを常備しておく
- ✓「今日はこれね」と短く伝えて、罪悪感は持ち越さない
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イラッとした瞬間に、ひと呼吸の”間”をつくる
それでも、目の前で皿を押し返されると感情は揺れます。
そりゃ揺れます。あなたにも、機嫌が悪い日があります。寝不足の日、仕事でモヤモヤを抱えて帰ってきた日、体調がすぐれない日。
そんな日にラストの仕上げみたいに皿を押し返されたら、つい強い言葉も出ます。人間ですから、それは当たり前のこと。それ自体は、なにも悪くありません。
ただ、その強い言葉を子どもに直接ぶつけずに済ませる“ちょっとしたわざ”があります。難しい修行はいりません。家庭で今日からできる、1秒〜10秒の”間”のつくり方をいくつか紹介します。
感情リセットのミニ習慣
- ✓一度、深く息を吐き切ってから話す
- ✓「いま、私はイラッとしている」と心のなかで実況する
- ✓水を一杯飲むことで時間をつくる
じつはこうした「自分の感情に気づいて、反射的に反応する手前で立ち止まる」姿勢を、心理学では「マインドフル・ペアレンティング(Mindful Parenting)」と呼びます。これを日常に取り入れる親ほど、親子関係の質が高くなる傾向があると報告されています(カリフォルニア大学サンフランシスコ校(当時)のラリッサ・ダンカン氏らが2009年に『Clinical Child and Family Psychology Review』誌で発表した論文より*2)。
立派な名前はついていますが、やることは「ひと呼吸置く」だけ。完璧な対応をしなくてかまいません。
「感情を噴き出す前に、一拍置く」。それだけで、後悔する言葉を子どもにぶつけずに済みます。
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ひとりで抱え込まないことが、いちばん効く工夫
ひと呼吸の”間”で、その場のイライラはやり過ごせます。でも、毎日それを続けていれば、長い目で見れば負荷は確実にたまっていきます。当然です。
そもそも、あなたが食卓でこんなに揺れるのは、子どもが大事だからです。一生懸命つくるし、栄養を心配するし、笑顔で食べてほしいと願う。真剣だから、消耗する。これは弱さの話ではなく、愛情の話です。
ただ、真剣であればあるほど、ひとりで抱え込むと心は削れていきます。
慢性的な育児ストレスが続くと、親が「親としての消耗感」「子どもへの情緒的距離」「親としての効力感の低下」をともなう、いわゆる “育児バーンアウト(Parental Burnout)” に陥りやすいことが指摘されています(ベルギー・ルーヴァン・カトリック大学心理学部教授モイラ・ミコライチャク氏らが2019年に『Clinical Psychological Science』誌で発表した論文より*3)。
でも、抱え込まなくていいんです。あなたはひとりで食卓を背負っているわけではありません。
パートナーなり、祖父母なり、保育園や幼稚園の先生なり、頼れる人や仕組みは、まわりにあるはずです。
「今日はもう無理」と感じた日は、上手に他人に頼っていい。むしろ頼るのが正解です。あなたが心穏やかでいられることは、あなた自身のためだけでなく、子どものためにも大事なことだから。
抱え込まないための小さな実践
- ✓パートナーと食卓担当を交代する日をつくる
- ✓「今日も食べさせきれなかった」と友人やSNSに軽く話す
- ✓「食べさせる役」を自分以外にも分散する(祖父母、保育士、学校給食など)
- ✓「今日のごはんはここで終わり」を自分で決める権利を、自分に渡す
食卓は毎日来ます。今日のひと皿に一喜一憂しすぎず、親自身が穏やかな状態でいられること。それが、いちばん長く効く向き合い方です。
***
子どもの「食べない」を「なんとか直さなきゃ」と気負うのをやめて、「これからしばらく、家族でつきあっていくこと」として受け取り直すと、抱え込む量はずいぶん減ります。
今日のひと口にこだわるより、明日もまた笑って食卓に座れる自分でいること。
そのほうがきっと、長い目で見て家族にとっての大きな財産になります。
FAQ(よくある質問)
Q1. 子どもが偏食でも、栄養面は本当に大丈夫なのでしょうか?
A. 1食単位で見ればバランスは偏ることもありますが、1週間〜10日のスパンで見ると、子ども自身が自然と帳尻を合わせていることも多いものです。体重や元気がふだん通りなら過度な心配は不要。極端な体重減少や活気のなさが続く場合は、小児科や管理栄養士に相談しましょう。
Q2. 「ひと口だけでも食べて」と促すのも、よくないことなのでしょうか?
A. 促すこと自体がダメというわけではありません。ただ、毎食しつこく言われると、親も子も食卓そのものが嫌になりやすくなります。「今日は声かけしない日」を週に何度か設けるくらいが、家族全体にとってちょうどよいバランスです。
Q3. 自分のイライラが、子どもに伝わってしまっているのが申し訳ないです。
A. 親も人間ですから、イラッとするのは自然なことです。「あ、私いまイライラしてる」と心のなかで実況するだけでも、反射的に怒鳴る前に一拍置けます。完璧に穏やかでいる必要はなく、”気づいて立て直す”姿を見せること自体が、子どもにとっての学びにもなります。
*1: Journal of Personality and Social Psychology|Individual differences in two emotion regulation processes: Implications for affect, relationships, and well-being(Gross & John, 2003)
*2: Clinical Child and Family Psychology Review|A Model of Mindful Parenting: Implications for Parent-Child Relationships and Prevention Research(Duncan, Coatsworth & Greenberg, 2009)
*3: Clinical Psychological Science|Parental Burnout: What Is It, and Why Does It Matter?(Mikolajczak, Gross & Roskam, 2019)
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