共働きで忙しくても、これだけは手放さないで。注目の幼児教室代表が語る、家庭で大切にすべきこと
習い事、学童、送り迎え——共働きで時間に追われるなか、子育てを誰かに、何かに頼ることは、もはや当たり前になりました。それ自体は、悪いことではありません。
幼児教室・つくし会を運営する、株式会社LOCOK代表の石井大貴さん。近年はABCテレビ『おはよう朝日です』のコーナー監修を手がけるなど、教育者として存在感を増しています。その石井さんも、頼れるものは頼っていい、と言います。ただし、ひとつだけ「これだけは、人任せにしないでほしい」と語るものがありました。
それは、家庭の「ビジョン」です。第1回の「可愛がられる力」、第2回の「やれば、できる」に続く最終回は、子どもの力の話ではなく、親自身が家庭で何を持つべきか、という話です。
構成・取材/STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ編集部
【プロフィール】
石井 大貴(いしい だいき)
株式会社LOCOK 代表取締役/金沢工業大学大学院 准教授/博士(メディアデザイン学)
慶應義塾大学法学部を卒業後、TBSテレビに15年勤務し、一流のアスリートや経営者、文化人と接するなかで「教育」の本質を学ぶ。慶應義塾大学大学院で博士号を取得すると同時に株式会社LOCOKを創業し、「あらゆる人に教育を通して無限の可能性を提供する」ことを掲げて教育プロデュース事業を展開。30年以上、独自カリキュラムを実践する「つくし会幼児進学教室」の運営や、千葉ロッテマリーンズなどプロアスリート・大手企業向けのリーダーシップ教育を手がける。著書に『“目標”を“現実”に変えるたった3つのルール』(プレジデント、2021年)など。
アウトソースしていいもの、いけないもの
石井さんは、いまの子育て環境を否定しない。共働きは当たり前で、それを悪いことだと言う人はいない。むしろ、いまの社会のかたちだ。そう前置きしたうえで、こう続ける。
「アウトソースするのは、いいと思うんです。でも、家族の考え方やビジョンまでアウトソースしないでほしいと、本気で思います」
送り迎えも、習い事も、頼っていい。けれど、「自分たちは将来どんな子育てがしたいのか」「この子に、どんなふうに育ってほしいのか」——それは、両親や保護者にしか決められない。そこだけは、誰かに委ねないでほしい、というのだ。
石井さんが現場で、いちばん戸惑う瞬間がある。
「『小学校受験をしようと迷っているんですけど、どうすればいいですか』と聞かれると、うっ、となるんです」
普通の受験塾なら、ノウハウや受験のための心構えを答えれば済む。だが石井さんは、まずこう問い返す。「お子さんが将来どうなってほしいのか、そこから一緒に整理させてください」と。
手段の前に、将来のビジョンがある。その順番が逆になっている家庭が、増えていると感じている。
背景には、情報の多さもある。インターナショナルスクールがいい、英語学習は早い方がいい、情操教育がいい——選択肢があふれているからこそ、かえって迷う。だからこそ、外から仕入れる情報の前に、「自分たちは何を大切にしたいのか」という軸が必要になる。
夫婦で、子育ての「ミーティング」をする
では、その思想は、どうやって持てばいいのか。石井さんがすすめるのは、意外なほどビジネスライクな方法だ。夫婦間のミーティングである。
「仕事で新しいプロジェクトを始めるとき、話し合わないことなんてないですよね。なのに子育てだと、なぜか話し合わない」
ただし、ここで言うミーティングは、「今週の送り迎えをどうするか」といった作戦会議ではない。目的は、もっと根っこにある。お互いの価値観や判断基準をすり合わせ、家庭としてひとつの意思を、方向性を持つことだ。
子育ての方針は、父親ひとりの考えでも、母親ひとりの考えでもない。どちらかが決めて従わせるのでも、それぞれが勝手に調べて決めるのでもない。ふたりで、「我が家はこう考える」という軸を編んでいく。そのために、お互いが何を大切にしているのかを、言葉にして重ねていく。
しかも、それは一度決めたら終わり、というものではない。価値観は、その時々で揺れるし、深まっていく。だからこそ、繰り返し、継続的にすり合わせ続けることに意味がある。
とはいえ、いきなり「我が家の教育理念を決めよう」と切り出せば、たいてい身構えて終わる。では、どうすればいいのか。
ニュースを、価値観を映す「鏡」にする
石井さんが家で実際にやっているのは、もっと肩の力の抜けた方法だ。社会のニュースを、ひとつ取り上げる。それについて、夫婦でどう思うかを話してみる。
ニュースを “素材” として扱うあたり、いかにも元テレビマンらしい。毎朝のニュースと向き合い、それを企画や番組に変えてきた人である。その手つきが、家庭にもそのまま持ち込まれているのだろう。
「事件でも経済でも、何か一つのトピックに対して、お互いどう思うか。そこから始めてみるだけでも、面白いんです」
これは、単なる雑談のネタではない。ニュースは毎日、新しく流れてくる。だから、価値観のすり合わせを “習慣” として続けられる。家庭の意思を継続的に編む、という営みを無理なく回すための、尽きることのない素材なのだ。
しかも、自分たちの身に起きた出来事ではないからこそ、構えずに本音の判断基準が出る。石井さんが挙げたのは、ある痛ましい事件のこと。石井さん自身は、その事件の状況を分析する目線で見ていた。一方、妻が問題視したのは、まったく別の角度——世間が一億総探偵のように、その事件を追い回す、その空気のほうだった。
同じニュースでも、見ているポイントがこれだけ違う。その違いをぶつけ合うことで、ふだんは意識していないお互いの価値観が、くっきりと浮かび上がる。ニュースは、夫婦の価値観を映し出す鏡でもあるのだ。
政治でも、経済でも、スポーツでもいい。すべてに興味がある人はいないが、何かひとつは引っかかるものがあるはずだ。そこを切り口にすれば、価値観の話は、堅苦しい会議にならずに続けられる。石井さんは、こうした対話に、家庭の時間の多くを割いているという。
「ハウツーみたいな話は、うちはほとんどしないんです。なぜやるのか、どう考えるのか。その議論に、9割の時間を使います」
家庭の「軸」が、子育てのぶれをなくす
こうした対話を積み重ねていくと、家庭としての軸——「我が家は、何を大切にするのか」という思想が、少しずつ形になっていく。そして、この軸こそが、日々の子育てを支える土台になる。子育ては、判断の連続だ。この習い事をさせるべきか。この受験に挑むべきか。子どもがつまずいたとき、どう声をかけるべきか。軸がなければ、そのひとつひとつに、世の中の情報やまわりの声が雪崩れ込んでくる。「インターナショナルスクールがいい」「英語は早い方がいい」——迷い、振り回され、やがて「どうすればいいですか」と、判断そのものを誰かに委ねたくなる。それが、家庭の「ビジョン」のアウトソースだ。
逆に、夫婦で編んだ軸があれば、判断はぶれない。
石井さんが、習い事を「方針と合うか」で見るように、すべての選択を「我が家はこう考えるから」と決められる。
「もし習い事をするなら、その考え方と、我が家の方針が合うかどうか。その目線でしか見ていないんです」
さらに言えば、親が日常的に価値観を言葉にし、対話している——その姿そのものが、子どもにとっては何よりの教育になる。家庭の軸を持つことは、子どもに直接何かを教える以前の、もっと手前の土台なのだ。
「当たり前」を、自信を持って手渡す
とはいえ、「我が家のビジョンなんて、たいそうなものはない」と気後れする人もいるだろう。情報があふれるなかで、自分の子育てに自信が持てない——そんな親は、決して少なくない。
そういう人にこそ、石井さんは伝えたいことがあるという。
「自信がないなら、まず、自分がお父さん・お母さんからどう育ててもらったかを、卑下せずに体現すればいいと思うんです」
あなたは、そうやって立派に育ってきた。いまこうして、個性を発揮して働いている。だったら、自分が受け取ってきたものを、そのまま子どもに手渡せばいい。石井さんには、日本の昔ながらの教育への、確かな信頼がある。
「『ただいま、おかえりなさい』靴を揃える。お行儀よく食べる。はさみの刃を人に向けて渡さない。当たり前のように教わってきたことを、自信を持って伝えてあげればいいのに、と思います」
受験のためでも、流行りのメソッドでもない。挨拶ができて、人を思いやれて、当たり前のことが当たり前にできる。それは、第1回で語られた「可愛がられる力」にも、まっすぐつながっていく。情報は、いくらでも仕入れられる。けれど、最後に「我が家はこうする」と決めるのは、ほかの誰でもない、その家の親だ。共働きでどれだけ忙しくても、その一点だけは、手放さないでほしい——。三回にわたって石井さんが語ってきたことは、つきつめれば、そのシンプルな願いに行き着くのかもしれない。
The post 共働きで忙しくても、これだけは手放さないで。注目の幼児教室代表が語る、家庭で大切にすべきこと first appeared on STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ.