ビル・ゲイツの母に学ぶ「見守る」勇気。天才を育てた、口を出さない子育ての極意
「もう、なんで言うことを聞かないの」。子ども部屋のドア越しに声をかけても、返ってくるのは生返事ばかり。よかれと思って出した手や口が、するりとかわされる。気づけば、毎日のように小さなぶつかり合いをくり返している――そんな自分に、ふと疲れを感じることはありませんか。
つい口を出してしまうのは、わが子を大切に思っているから。心配だから、転ばないように先回りしたくなる。その気持ちは、親としてとても自然で、温かいものです。けれど同時に、「見守ったほうがいいのかな」と頭ではわかっていても、いざその場になると黙っていられない。
この「わかっているのにできない」もどかしさは、多くの親が抱えている共通の悩みです。
きょうは、ある有名な母親のエピソードをご紹介します。世界的な実業家ビル・ゲイツを育てた、母メアリーの話です。意外かもしれませんが、彼女は決して「最初から見守り上手」な母ではありませんでした。だからこそ、いま過干渉に悩む私たちの背中を、そっと押してくれる気がするのです。
「天才の母」は、最初から見守り上手だったわけではない
ビル・ゲイツの母メアリーと聞くと、おおらかに子どもを信じて任せる、理想の母親像を思い浮かべるかもしれません。けれど実際は、その逆でした。
ゲイツ自身が回顧録『ソースコード』で率直に明かしているように、幼い彼は親にとって手のかかる子どもでした。
学校では授業に身が入らず、家では自室にこもって本に没頭し、母が話しかけても無愛想に言い返す。とくに母メアリーとは、毎日のように衝突していました。
メアリーは、スポーツや習い事、人付き合いなど「同年代の男の子らしい活動」を息子にさせたいと願い、あれこれと働きかけます。一方の息子は、自分の興味だけを追いかける自由がほしかった。互いの願いがすれ違い、家庭の空気はいつもピリピリしていたといいます。
ここで大切なのは、メアリーが「悪い母親」だったわけでは決してない、ということです。彼女は息子の将来を本気で案じ、できる限りのことをしようとしていました。心配だから関わる。
よかれと思って導こうとする。その姿は、いまの私たちと驚くほど重なります。
転機は、ある専門家のひとことだった
家庭でのぶつかり合いが激しくなり、学校での様子も思わしくないなか、両親はついに息子を専門家のもとへ連れて行きます。ゲイツが小学生の頃のことでした。授業に集中できず、先生からは留年をすすめられたこともあったといいます。
親としては気が気でなかったはずです。当時の彼は、カウンセラーにこう打ち明けたそうです。「ぼくは親と戦争をしている」と。
それほどまでに、母と子の関係は張りつめていました。
そのカウンセラーが両親に伝えたのは、意外な助言でした。この子には、自分の道を自分で選んで進む自由を与えてあげてほしい――。もっと関わって導くのではなく、むしろ手をゆるめて任せること。それが、終わらない衝突から抜け出すための道だったのです。心配だからこそ関わってきた親にとって、これはきっと、勇気のいる方針転換だったでしょう。
それでも両親は、その言葉を少しずつ受け止めていきます。彼が好きだった読書や、何日もかけて山を歩く長距離ハイキングを、口を出さずに見守るようになりました。
答えを先回りして与えるのをやめ、本人が選んだ道を進むのを待つ。
すると、あれほど反発していた息子は、自分の興味をのびのびと深めていったのです。後年のゲイツが、両親は自分の関心を「そのまま前に進めてくれた」とふり返っているのは、この転機があったからでした。
メアリーは、もともと見守り上手だったのではありません。ぶつかって、悩んで、専門家の手を借りて、それでも最後に「手放す勇気」を選んだ。その選択こそが、息子の才能の芽を守ったのです。
かみ合わなかった、母と息子の願い母メアリーの願いスポーツや習い事をしてほしい
友だちと活発に過ごしてほしい
「らしい」毎日を送ってほしい息子ビルの願い本の世界に没頭したい
自分の興味だけを追いかけたい
放っておいてほしいどちらも、子を思う・自分を大切にする自然な願い。けれど、すれ違っていた
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「見守る」は、何もしないことではない
ここで少しだけ、研究の話をさせてください。「見守る」と聞くと、突き放したり、放っておいたりすることだと感じて、不安になる方もいるかもしれません。でも、心理学が示す「見守り」は、それとはまったく違います。じつは「放任」とは正反対の、とても積極的なかかわりなのです。両者の違いを、表でならべてみましょう。
関わり方見守る放任関心きちんと向けている向けていない手出しあえて控えるそもそもしない困ったときいつでも助ける準備がある気づかないこともある子どもが感じること守られながら自分で挑戦できるひとりで放っておかれた
子どもの気持ちや選びたいという思いを尊重し、本人の意思を後押しする親の関わりは、専門用語で「自律性の支援」と呼ばれます。中国と北米の青年を比べた研究では、こうした関わりを受けた子どもほど、お金や名声よりも、人とのつながりや自分の成長といった内側から湧く目標を大切にするようになり、その結果として心の幸福感が高まることが示されました。(マギル大学ほか)*1
しかもこれは、思春期に限った話ではありません。
未就学児を対象にした研究でも、親が答えを押しつけず、子ども自身の選びたい気持ちに寄り添う関わりをしたとき、子どもはより自分から行動する力を見せたと報告されています。(アルバータ大学)*2
手や口を出すのをぐっとこらえて見守ることは、決して「何もしない」ことではありません。子どもが自分で考え、選び、踏み出す力を、そっと支えているのです。見守りが子どもにもたらすものを、3つにまとめてみました。
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今日から試せる、小さな「ひと呼吸」
とはいえ、「手放しましょう」と言われても、心配性の自分にいきなりは難しい。よくわかります。だからまずは、ほんの小さな実験から始めてみませんか。今日から試せる三つのステップを用意しました。
1. 心のなかで3つ数える口を出したくなったら、その前に3秒だけ待つ。「先回りして言う」から「子どもが動くのを待つ」へ、重心がほんの少し移ります。2. 本人が気づくまで待つ靴を左右逆にはこうとしている。すぐに正解を教えず、本人が気づくのを少しだけ待つ。その数秒が「自分でやれた」の自信になります。3. 小さな選択を任せる「どっちにする?」と問いかけて、決めるのを本人に。服でもおやつでもかまいません。小さな選択が、やがて大きな決断をする力になります。
子どもの意思を尊重するかかわりは、本人の心が満たされる感覚を高め、いきいきとした活力につながることも示されています。(メッシーナ大学)*3
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メアリーも、最初は小さな迷いから始まったはずです。完璧に見守れなくてかまいません。今日、一度だけ、ぐっとこらえて待ってみる。その小さなひと呼吸が、あなたとお子さんの明日を、少し軽くしてくれるかもしれません。
FAQ(よくある質問)
Q. 見守ると放任は、どう違うのですか?
A. 放任は関心を向けないこと、見守りは関心を向けたうえで手出しを控えることです。いつでも助けられる準備をしながら、子どもが自分でやりきる時間を待つ。子どもの気持ちに寄り添う姿勢そのものは、変わらず保たれています。
Q. つい口を出してしまう自分を、責めてしまいます。
A. 口を出したくなるのは、わが子を大切に思う気持ちの裏返しです。ゲイツの母も、ぶつかりながら少しずつ手放していきました。完璧を目指さなくても大丈夫です。
Q. 子どもがまだ小さくても、見守りは意味がありますか?
A. はい。未就学児でも、親が答えを押しつけず本人の選びたい気持ちに寄り添うと、自分から行動する力が育つことが研究で示されています。小さな選択を任せるところから始められます。
(参考)
*1 Lekes, N., Gingras, I., Philippe, F. L., Koestner, R., & Fang, J. (2010)|Parental autonomy-support, intrinsic life goals, and well-being among adolescents in China and North America. Journal of Youth and Adolescence, 39(8), 858-869.
*2 Rinaldi, C. M., et al. (2021)|Parental autonomy support in relation to preschool aged children’s behavior: Examining positive guidance, negative control, and responsiveness. Clinical Child Psychology and Psychiatry, 26(3), 810-822.
*3 Costa, S., Cuzzocrea, F., Gugliandolo, M. C., & Larcan, R. (2016)|Associations between parental psychological control and autonomy support, and psychological outcomes in adolescents: The mediating role of need satisfaction and need frustration. Child Indicators Research, 9(4), 1059-1076.
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