すぐ怒る子と、怒らない子。違いは「性格」ではなく脳の“ブレーキ”の育ち方だった

すぐ怒る子と、怒らない子。違いは「性格」ではなく脳の“ブレーキ”の育ち方だった

「だめって言ったでしょ!」のひとことに、おもちゃを床にたたきつけて泣き叫ぶわが子。順番を待てずにお友だちを押してしまう。思いどおりにならないと、手や口がパッと先に出てしまう。そのたびに「どうしてうちの子はこうなんだろう」「育て方が悪かったのかな」と、胸の奥がぎゅっと重くなる。

そんな気持ちを抱えているあなたへ、まずお伝えしたいことがあります。

子どもがすぐに怒ってしまうのは、あなたのしつけのせいでも、お子さんの性格のせいでもありません。じつは、脳のなかの「ブレーキ」がまだ育っている途中だから、という見方が脳科学の世界では広く知られています。

このことを知っておくだけで、あの爆発の瞬間の見え方が、少しだけ変わってくるかもしれません。


「キレる」の正体は、脳のアクセルとブレーキのアンバランス


子どもがカッとなって感情を爆発させるとき、脳のなかでは「アクセル」と「ブレーキ」のせめぎ合いが起きています。

アクセルにあたるのは、よろこびや怒り、くやしさといった感情を生み出す部分。これは生まれて間もない時期から、とても活発に働きます。いっぽうブレーキにあたるのが、前頭前野という脳の前のほうにある領域で、ここが「ちょっと待って」「ここはがまんしよう」と感情にストップをかける役割を担っています。

このブレーキ役の働きをまとめて「実行機能(じっこうきのう)」と呼びます。実行機能は、目の前の衝動をおさえる「抑制」、頭のなかに情報を一時的にとどめておく「ワーキングメモリ」、そして状況に合わせて考えを切り替える「シフティング(柔軟性)」という三つの力からできています。(ブリティッシュコロンビア大学教授、アデル・ダイアモンド氏)*1

実行機能の3つの力を、表にまとめてみました。

3つの力どんな働き?日常での場面抑制わき上がった衝動に「待った」をかける怒りたい気持ちをグッとこらえるワーキングメモリ情報を頭のなかに一時的にとどめる「順番はもうすぐ」と覚えて待つシフティング状況に合わせて考えを切り替える「別の遊びにしよう」と気持ちを変える
そして大切なのが、このブレーキは、アクセルよりもずっとゆっくり育つということ。
アクセル全開で感情があふれ出ているのに、それを止めるブレーキはまだ組み立て途中。だから子どもは「がまんしたくてもできない」のです。これは未熟さであって、わがままや反抗とは違います。


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「我慢できる子」が頭のなかでやっている、小さな切り替え


では、感情に左右されにくい子は、何が違うのでしょうか。

おもちゃを取られてカッとなった瞬間に、「いま叩いたら相手が泣くな」「あとで先生に言えばいいか」と、ほんの一瞬で別の選択肢に頭を向けられる。この無意識の切り替えこそ、実行機能が働いている状態です。怒りが消えているのではなく、わき上がった怒りに「待った」をかけて、別の行動を選び直しているのです。

同じ「おもちゃを取られた」場面で、子どもの脳のなかで何が起きているのか、状態ごとに並べてみましょう。


感情が爆発しやすいときの脳内うまく切り替えられているときの脳内怒りの発生カッと一気にわき上がる同じようにカッとわき上がるブレーキ間に合わず、手が出てしまう一瞬「待った」がかかる行動の選択怒りのまま反応する「相談しよう」と別の手を選ぶ
違いは「怒るか怒らないか」ではなく、わき上がった怒りに「待った」をかけられるかどうか。そして、この切り替える力は、感情のコントロールそのものと深くつながっています。

4歳児を対象にした研究では、抑制などの実行機能を遊びのなかで鍛えたグループは、トレーニングをしなかったグループにくらべて、自分の感情を理解し、うまくつき合う力(感情コンピテンス)が高まったことが報告されています。(西南大学ほか、リー氏ら)*2

つまり、感情コントロールは生まれつきの性格で決まるものではなく、ブレーキの力を育てることであとから伸ばしていけるもの。ここに、わたしたち親ができることのヒントが隠れています。

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「そんな余裕はない」が、一番正直な気持ち


ただ、ここまで読んで、こう思ったかもしれません。「遊びで鍛えるのが大事なのはわかった。でも、そんな時間も気持ちの余裕も、いまのわたしにはない」と。


その気持ちは、本当にそのとおりだと思います。朝から晩まで予定に追われ、家事も仕事も終わりが見えず、自分のごはんすらゆっくり食べられない毎日のなかで、「子どもの脳を育てる遊びをしましょう」と言われても、正直しんどいですよね。その「無理」という感覚は、あなたが手を抜いているからではなく、それだけ毎日を必死に回しているという証拠です。

だからこそ、お伝えしたいことがあります。実行機能を育てるのに、わざわざ「トレーニングの時間」をつくる必要はありません。じつは、いまの暮らしのなかにすでにある場面を、ほんの少し意識するだけで充分なのです。

特別なことは、何もしなくていい。いつもの暮らしがそのまま育てる


「実行機能トレーニング」と聞くと、特別な教材やドリルが必要に思えるかもしれません。でも、安心してください。
5歳児を対象にした研究では、身近な道具を使った遊び中心のプログラムを約1か月半(計12回)続けただけで、衝動をおさえる力や情報を処理する力が向上したことが示されています。(ジェノヴァ大学、トラヴェルソ氏ら)*3

特別なものは、何ひとつ要りません。いま家にあるもの、いつもの暮らしのなかで、充分に育てていけるのです。具体的にどんな場面が、どの力を鍛えるのか、表にまとめました。

暮らしの場面鍛えられる力声かけのひとことだるまさんがころんだ抑制(動きたい衝動を止める)「ピタッと止まれたね!」すごろく・順番遊び抑制(自分の番まで待つ)「待てたね、えらい!」神経衰弱ワーキングメモリ「よく覚えていたね!」複数のお願い(お手伝い)ワーキングメモリ「覚えていられたね、ありがとう」気持ちに名前をつけるシフティング(感情を眺め直す)「いまはモヤモヤかな?」ルールのある遊びで「待つ」「切り替える」を経験する
「だるまさんがころんだ」「フルーツバスケット」「すごろく」「神経衰弱」といった、ルールのある遊びはブレーキを鍛える絶好の機会です。動きたい衝動をおさえて止まる、自分の番が来るまで待つ、めくったカードを覚えておく。遊んでいるだけで、抑制・ワーキングメモリ・切り替えの3つが自然と動いています。

勝ち負けでくやし泣きしても、それで大丈夫。
「くやしいね、でも止まれたね」と、止まれた瞬間そのものに目を向けてあげてください。

お手伝いでワーキングメモリを動かす
「冷蔵庫から牛乳と卵を持ってきて、テーブルに置いてね」。こうした複数の手順を覚えて実行するお手伝いは、頭のなかに情報をとどめておくワーキングメモリのいい練習になります。しかも、これは親にとっても助かるお願いごと。できたら「覚えていられたね、ありがとう」と、その力にひとことそえてあげましょう。

「気持ちに名前をつける」遊び
小さな子はまだ感情を言葉にするのが苦手です。「いまの気持ちはイライラ? モヤモヤ?」と一緒に名前をつけてあげると、わき上がった感情を自分から少し切り離して眺められるようになります。これも立派な切り替えの練習です。



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今日からできる、たったひとつのこと


たくさんのことを一度に始める必要はありません。今日、ひとつだけ試すとしたら、夕食の支度のあいだに「冷蔵庫から卵を持ってきて、テーブルに置いてね」とお願いしてみる、それだけで充分です。お手伝いがひとつ減って、あなたも少し助かります。

「覚えていられたね、ありがとう」。その小さな成功を、お子さんといっしょによろこんでみてください。ブレーキはゆっくり、でも確かに育っていきます。今日のそのひとことが、半年後、1年後のお子さんの「待てる力」につながっていきます。
***
あの爆発の瞬間に、あなたが「育て方のせいだ」と自分を責める必要はもうありません。脳はいま、まさに育っている途中。その成長を、あなたはすぐとなりで支えているのです。

FAQ(よくある質問)
Q. 実行機能は、何歳ごろまでに育てればいいのでしょうか?

A. 抑制やワーキングメモリは2〜5歳ごろに急速に伸び、前頭前野は思春期を経て、大人の脳へと近づく20代半ば頃までゆっくりと発達を続けます。「何歳までに」と区切るより、その時期その時期の成長を支えるという気持ちで、長い目で関わってあげてください。


Q. 怒って爆発しているとき、その場でどう声をかければいいですか?

A. 爆発の真っ最中はブレーキが効かない状態なので、説得や叱責は届きにくいものです。まずは「くやしかったね」と気持ちを受けとめ、落ち着いてから「次はどうしようか」と切り替えをいっしょに考えるのがおすすめです。


Q. 特別な教材を買わないとトレーニングできませんか?

A. いいえ。身近で安価な道具を使った遊びでも実行機能は伸びることが研究で示されています。すごろくやお手伝いなど、今ある暮らしのなかで充分に育てられます。


(参考)
*1 Diamond, A. (2013)|Executive Functions. Annual Review of Psychology, 64, 135-168.
*2 Li, Q., Liu, P., Yan, N., & Feng, T. (2020)|Executive Function Training Improves Emotional Competence for Preschool Children: The Roles of Inhibition Control and Working Memory. Frontiers in Psychology, 11, 347.
*3 Traverso, L., Viterbori, P., & Usai, M. C. (2015)|Improving executive function in childhood: evaluation of a training intervention for 5-year-old children. Frontiers in Psychology, 6, 525.

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