【W杯出場国】イングランドって、どんな国? 「イギリスと何が違うの?」が、子どもの考える力を育てるチャンス

【W杯出場国】イングランドって、どんな国? 「イギリスと何が違うの?」が、子どもの考える力を育てるチャンス

ワールドカップの試合中継で「イングランド」という国名を見て、ふと思ったことはありませんか。「あれ、イギリスじゃないの?」「そもそも、この2つって何が違うんだろう」。大人でも、いざ子どもに聞かれると、うまく説明できずに言葉に詰まってしまう。そんな経験がある方も多いのではないでしょうか。


じつは、この「イギリスとイングランドの違い」は、子どもの育ちという視点から見ると、とても面白いテーマです。大きなまとまりのなかに小さなまとまりがある、という「入れ子」の関係を理解する力は、子どもが時間をかけて少しずつ身につけていくものだからです。

今回は、ワールドカップを入り口に、イギリスとイングランドの違いをやさしく整理しながら、子どもが「ものごとを分類して考える力」をどう育てていくのかを、一緒に見ていきます。試合の合間に、親子で話してみたくなるヒントもお届けします。


イギリスとイングランド、じつはこういう関係


まず、いちばん大事なところから。イングランドは、イギリスという大きな国のなかにある、4つの地域のうちの1つです。

日本で「イギリス」と呼んでいる国は、正式には「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」といいます。英語では United Kingdom(ユナイテッド・キングダム)、略して「UK」。名前のとおり、いくつかの国が集まってできた「連合王国」です。その中身は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドという4つの地域。イングランドは、そのなかでいちばん人口が多く、首都ロンドンがある中心的な地域です。

これはもともと、ポルトガル語で「イングランドの(English)」を意味する言葉「inglez(イングレス)」が伝わったものと言われています。
つまり、本当は4つのうちの1つである「イングランド」を指していた言葉が、いつのまにか全体を指す呼び名になった。だから「イギリスとイングランドって同じ?違う?」と混乱してしまうのも、無理はないのです。


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どうしてワールドカップは「イングランド」で出るの?


ここで、子どもがいちばん不思議に思うのが、「どうしてイギリスじゃなくてイングランドなの?」という点かもしれません。

その理由は、サッカーの長い歴史にあります。近代サッカーのルールが整えられたのはイングランドで、世界でいちばん古いサッカー協会がつくられたのが1863年のこと。その後、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドにも、それぞれ独自のサッカー協会が生まれました。世界のサッカーをまとめる国際サッカー連盟(FIFA)ができたのは1904年で、じつはイギリスの4つの協会のほうが先に誕生していたのです。

そうした歴史から、サッカーの世界では特別に、イギリスをひとまとめにせず、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドがそれぞれ別の代表チームとして出場することが認められています。
だからワールドカップには「イギリス代表」ではなく、「イングランド代表」が登場するのです。

ちなみに、オリンピックでは事情が変わり、「イギリス代表(Team GB)」として1つのチームで出ます。同じ国なのに、大会によってまとまったり分かれたり。この「見方によって、まとまりの単位が変わる」という感覚こそ、じつは子どもの思考の発達と深くつながっています。

「大きいまとまり」と「小さいまとまり」を同時に考える難しさ


じつは、「イングランドはイギリスの一部」という関係は、幼い子どもにとって、思いのほか理解がむずかしいものです。

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研究よりこれを示す、発達心理学の有名な実験があります。子どもに、5本のアスターと3本のチューリップを見せます。どちらもお花です。
そして「アスターとお花、どっちが多い?」とたずねると、幼い子どもの多くは「アスター」と答えてしまうのです。本当は、アスターもチューリップも「お花」なので、お花のほうが多いはずなのに。この課題は70年以上にわたって世界中で研究されてきました。(フランス国立科学研究センター・ジャン・ニコ研究所、Guy Politzer氏)*1
なぜ、こんなことが起きるのでしょうか。それは、「アスター」という小さなまとまりと、「お花」という大きなまとまりを、頭のなかで同時に思い浮かべるのが、幼い子どもにはまだ難しいからです。目の前のアスターに注目すると、それが「お花」でもあるという、もう一つの見方が抜け落ちてしまう。

これは、まさに「イングランド(小さなまとまり)」と「イギリス(大きなまとまり)」の関係と同じ構造です。イングランドに注目していると、それがイギリスの一部でもある、ということが見えにくくなる。
大人でも一瞬混乱するのですから、子どもが「?」となるのは、成長の途中にあるごく自然な姿なのです。


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親の「ひとこと」が、分類する力を育てる


では、こうした「まとまりの入れ子」を理解する力は、どうやって育っていくのでしょうか。ここで大きな役割を果たすのが、じつは親子の会話です。

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研究よりある研究では、親が子どもに物の名前を教えるときの「言い方」が、子どもがカテゴリーの階層(大きなまとまりと小さなまとまりの関係)を理解していくうえで、重要な手がかりになることが示されています。たとえば、ただ「これはワンちゃんだよ」と教えるだけでなく、「これはワンちゃん、動物の仲間だよ」というように、大きなまとまりと結びつけて話しかける。そうした何気ない声かけが、子どもの分類する力を支えていくのです。(カリフォルニア大学サンタクルーズ校、Maureen Callanan氏)*2
これは、イギリスとイングランドの話にもそのまま使えます。「イングランドはね、イギリスっていう大きな国の中にあるひとつなんだよ」。
地図を見ながら、そんなふうにひとこと添えるだけで、子どもの頭のなかで「大きい・小さい」の関係が、少しずつ形になっていきます。

むずかしい言葉で完璧に説明する必要はありません。大切なのは、大きなまとまりと小さなまとまりを、言葉でそっとつないであげることなのです。

「なんで?」に答えることが、いちばんの学びになる


子どもは、身のまわりの不思議に出会うと、「なんで?」「どうして?」と質問をぶつけてきます。この質問こそ、学びの入り口です。

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研究よりある研究では、子どもが「なんで?」とたずねたときに、大人がきちんと理由を説明すると、子どもは納得して次の新しい質問へと進んでいくことがわかりました。反対に、理由になっていない答えを返されると、子どもは同じ質問をくり返したり、自分なりの答えを考えたりするのです。つまり子どもは、ただ言葉を返してほしいのではなく、本当に「わかりたくて」質問している、ということです。
(ハワイ大学マノア校、Brandy Frazier氏ら)*3
「どうしてイギリスじゃなくてイングランドなの?」という子どもの疑問も、まさにこの学びのチャンスです。完璧な答えでなくてかまいません。「昔はね、それぞれ別の国だったんだって」「サッカーがいちばん最初に始まった場所だからだよ」。一緒に地図や図鑑を開いて、「どこにあるのかな」と探してみる。その時間そのものが、子どもの「知りたい」という気持ちを、大きく育てていきます。


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世界の「まとまり」を、親子で楽しもう


イギリスとイングランドの違いは、大人でも混乱するくらい、ちょっとややこしいものです。だからこそ、子どもが「わからない」と言っても、まったく心配いりません。それは、大きなまとまりと小さなまとまりを同時に考える力が、まさに育っている途中だというサインだからです。

ワールドカップは、そんな「世界のまとまり」を親子で楽しむ、またとない機会です。テレビに映る国旗を見て、「これはどこの国かな」と一緒に探す。地図で場所を確かめる。「イングランドはイギリスの中にあるんだね」と話してみる。そんなささやかな時間の積み重ねが、子どもがこの広い世界を、少しずつ整理して理解していく力になっていきます。

試合の結果に一喜一憂するのも、ワールドカップの醍醐味です。それに加えて、映し出される国のことを親子で少しだけ話してみる。「この国は、じつは4つの地域が集まってできているんだよ」。そんな会話から、子どもは世界の広さと、その中にある無数のまとまりを知っていきます。対戦国や出場国を入り口に、世界にはさまざまな国のかたちがあると気づくこと。それは、お子さんにとって、ずっと長く心に残る学びになるはずです。

FAQ(よくある質問)
Q. 子どもに「イギリスとイングランドの違い」をどう説明すればいいですか?

A. むずかしく考えず、「イングランドは、イギリスという大きな国の中にある1つなんだよ」と伝えれば充分です。地図を見せながら「ここがイギリス全体で、この部分がイングランドだよ」と指さすと、より伝わりやすくなります。完璧に理解できなくても、大きいまとまりと小さいまとまりがある、という感覚が芽生えれば大成功です。


Q. 何歳ごろから、こうした「まとまりの関係」がわかるようになりますか?

A. 大きなまとまりと小さなまとまりを同時に考える力は、一般に小学校に入るころから少しずつ育っていくとされています。ただ個人差が大きいので、年齢にこだわる必要はありません。それより前のお子さんでも、地図で場所を探したり、国旗を見比べたりする体験そのものが、将来につながる土台になります。


Q. 子どもの「なんで?」にうまく答えられないときは、どうすればいいですか?

A. その場で完璧に答えられなくても、まったく問題ありません。「いい質問だね、一緒に調べてみようか」と、図鑑や地図を開くだけで、子どもにとっては立派な学びの時間になります。むしろ、親子で一緒に「わからないことを調べる」姿を見せることが、子どもの「知りたい」という気持ちを育てます。


(参考)
*1 Politzer, G. (2016)|The class inclusion question: a case study in applying pragmatics to the experimental study of cognition. SpringerPlus, 5, 1133.
*2 Callanan, M. A. (1985)|How parents label objects for young children: The role of input in the acquisition of category hierarchies. Child Development, 56(2), 508-523.
*3 Frazier, B. N., Gelman, S. A., & Wellman, H. M. (2009)|Preschoolers’ search for explanatory information within adult-child conversation. Child Development, 80(6), 1592-1611.
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