「ねえ、エルニーニョって何?」遠い海の温度が、日本の夏を変えている
天気予報やニュースで、たびたび耳にする「エルニーニョ」という言葉。今年の夏の暑さや天候の話題とセットで語られることが多いので、なんとなく「天気に関係する何か」というイメージはあっても、正確に説明できるかというと自信がない。そんな方が大半ではないでしょうか。
ある日、テレビを見ていた子どもがふり返って聞いてきます。「ねえ、エルニーニョってなに?」
エルニーニョは大人でも正確に理解している人が少ない現象です。答えに詰まっても、まったく心配いりません。とはいえ、テレビの解説を聞き流しているだけでは、なかなか全体像がつかめないのもの。
この記事では、親御さんがまず「なるほど」と分かる形でエルニーニョの仕組みと日本への影響を解説し、そのうえで子どもに聞かれたときの年齢別の答え方まで、順を追ってお伝えします。
エルニーニョ現象とは? 遠くの海が「いつもより温かくなる」こと
エルニーニョ現象とは、太平洋の赤道近く、日付変更線付近から南米ペルー沖にかけての広い海域で、海面水温が平年より高い状態が1年程度続く現象のことです。数年おきに発生し、日本を含む世界中の天候に影響を与える要因になると考えられています。
ポイントは、次の3つに整理できます。
どこで?
日本から遠く離れた、太平洋の赤道付近(南米ペルー沖まで)
何が起きる?
海面の水温が、いつもの年より高くなる
どのくらい?
おおよそ1年ほど。数年おきにくり返し発生する
では、なぜ海の温度が高くなるのでしょうか。カギをにぎるのは「貿易風」という風です。
太平洋の赤道付近では、東から西へ向かう貿易風がいつも吹いています。この風に流されて、温かい表面の海水はインドネシア側(西側)に集まり、南米側(東側)では海の深いところから冷たい水がわき上がってきます。
これが「いつもの状態」です。
ところが、何かのきっかけで貿易風が弱まる年があります。すると、西側に集まっていた温かい海水が東へ広がり、南米沖の海面水温が高くなります。これが「エルニーニョ現象」です。逆に貿易風が強まり、南米沖の海面水温がいつもより低くなる現象は「ラニーニャ現象」と呼ばれます。
風が海を動かし、海の温度が変わる。地球の上では、風と海がいつもお互いに影響し合っているのです。この大きなつながりを頭に入れておくと、次にお伝えする「日本への影響」もすっと理解できます。
ふたつの現象を並べると、ちょうど鏡合わせの関係になっていることが分かります。
「エルニーニョ」はスペイン語で「男の子」、「ラニーニャ」は「女の子」という意味。もともとは南米ペルーの漁師たちが、クリスマスの頃に現れる暖かい海流を「エルニーニョ(幼子イエス)」と呼んでいたことに由来します。子どもに名前の意味を教えてあげると、ぐっと親しみがわくはずです。
日本の天気には、どう影響するの?
遠い南米沖の海の話が、なぜ日本の天気とつながるのか。海面水温が変わると、雲が発生しやすい場所が変わり、地球をめぐる大気の流れ全体が変化するためです。その影響は、めぐりめぐって日本にも届きます。
気象庁の解析によると、エルニーニョ現象が発生している期間の日本では、次のような傾向が見られます。
夏
気温が低くなりやすい
(冷夏の傾向)
冬
気温が高くなりやすい
(暖冬の傾向)
梅雨明けが遅れたり、雨の量が変わったりと、季節の進み方に影響が出る場合もあります。子どもの夏休みの計画や体調管理を考えるうえでも、頭の片隅に置いておくと役立つ知識です。
ここで大切なのは、あくまで「傾向」だという点です。天候はエルニーニョ以外のさまざまな要因も重なって決まるため、エルニーニョの年でも猛暑になることはあります。「必ずそうなる」ではなく「そうなりやすい」と理解しておくのが正確です。
なお、気象庁は毎月「エルニーニョ監視速報」を発表しています。いまがエルニーニョなのかどうか、今後どうなりそうかは、この速報でいつでも確認できます。ニュースで話題になったとき、「気象庁のホームページで調べてみようか」と親子で一緒に見てみるのもおすすめです。
天気予報の裏側をのぞくような体験は、子どもにとって「ニュースの言葉は自分で調べられる」という発見にもなります。
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子どもに聞かれたら、こう答えればOK
ここまでの内容を、子どもの年齢に合わせて短くした「答え方」を用意しました。ここから、お子さんに合いそうなものを選んでください。
「南アメリカっていう遠い国の近くの海が、いつもより温かくなることだよ」
「太平洋の赤道の近くで、海の水がいつもの年より温かくなることだよ。海が温かくなると、雲のでき方が変わって、日本の天気にも影響するんだって」
「いつもは風が温かい海の水を西に運んでいるんだけど、その風が弱くなると、温かい水が東に広がるの。それがエルニーニョ」
全部を一度に伝える必要はありません。子どもが「ふうん」で終わればそこまでで充分ですし、「なんで風が弱くなるの?」と続きの質問が来たら、「いい質問だね。どうしてだろうね」と一緒に考えればいいのです。
ここまで読んでくださったあなたなら、すでに大半の大人より正確にエルニーニョを説明できるはずです。
じつは、その「続きの質問」こそが宝物です。次の章で、その理由をお伝えします。
「知らない」は、親子の学びの入り口
「親なのに答えられないなんて」と感じる必要は、まったくありません。むしろ研究の世界では、親が完璧な答えを持っているかどうかよりも、親子でどんな会話をするかのほうが注目されています。ここでは、親子の科学の会話について分かってきたことを、3つの研究から見てみましょう。
科学館で行なわれた実験では、親が「どうしてだと思う?」と原因や仕組みについて問いかける関わり方をした場合、子どもは親の言葉により反応しやすく、科学的な内容を含む発話を返す割合が高い傾向が見られました。(ボストン大学、キャスリーン・コリヴォー教授ら)*1
つまり、答えを教え込むことよりも、問いを一緒に転がすことが、子どもの科学的な会話を引き出すのです。
水族館を訪れた親子の会話を分析した研究では、親が話をふくらませる語りかけをしていた家庭ほど、帰宅後の会話でも子どもが科学的な話題を口にする傾向が見られました。(カリフォルニア州立大学ロングビーチ校、キンバリー・ケリー准教授ら)*2
その場かぎりで終わらず、家に帰ってからの「そういえばさ」につながっていくのですね。
小学生を対象にした研究では、科学の授業のあとに親がオープンな質問で会話を広げた場合、子どもがその内容をよく覚えている傾向が報告されています。(ニューハンプシャー大学、ミシェル・ライヒトマン教授ら)*3
エルニーニョの説明を完璧に暗記する必要はありません。今日ニュースを見ながら「海が温かくなるんだって。不思議だね、なんでだろうね」とひとこと口にする。それだけで、親子の科学の会話は始まっています。
***
エルニーニョは、遠い海の水温がいつもより高くなり、その影響が世界の天気に広がっていく現象でした。名前は難しそうでも、中身は「海が温かくなる」というシンプルな話です。「知らない」から始まる会話こそ、親子で一緒に調べるチャンス。子どもの好奇心をいちばん温かく育ててくれます。
FAQ(よくある質問)
Q. エルニーニョとラニーニャの違いは何ですか?
A. どちらも太平洋赤道域の同じ海域で起きる現象で、海面水温が平年より高い状態が続くのがエルニーニョ、低い状態が続くのがラニーニャです。貿易風が弱まるとエルニーニョ、強まるとラニーニャが発生しやすくなります。
Q. エルニーニョの年は必ず冷夏になりますか?
A. いいえ、必ずではありません。エルニーニョ発生時の日本の夏は気温が低くなりやすい傾向があるとされていますが、天候はほかの要因も重なって決まるため、エルニーニョの年に猛暑になることもあります。
Q. いまエルニーニョかどうかは、どこで確認できますか?
A. 気象庁が毎月発表している「エルニーニョ監視速報」で確認できます。現在の状況と今後の見通しが公開されており、気象庁のウェブサイトから誰でも見られます。
(参考)
*1 Chandler-Campbell, I. L., Leech, K. A., & Corriveau, K. H. (2020)|Investigating Science Together: Inquiry-Based Training Promotes Scientific Conversations in Parent-Child Interactions. Frontiers in Psychology, 11, 1934.
*2 Ocular, G., Kelly, K. R., Millan, L., Neves, S., Avila, K., Hsieh, B., & Maloles, C. (2022)|Contributions of naturalistic parent-child conversations to children’s science learning during informal learning at an aquarium and at home. Frontiers in Psychology, 13, 943648.
*3 Leichtman, M. D., Camilleri, K. A., Pillemer, D. B., Amato-Wierda, C. C., Hogan, J. E., & Dongo, M. D. (2017)|Talking after school: Parents’ conversational styles and children’s memory for a science lesson. Journal of Experimental Child Psychology, 156, 1-15.
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