「行けた日」の夕方が、明日をつくる。登校しぶりを乗り越える力は “おかえり” のあとに育つ

「行けた日」の夕方が、明日をつくる。登校しぶりを乗り越える力は “おかえり” のあとに育つ

「今日は……行けた」。玄関で靴を脱ぐ子どもの背中を見ながら、ほっと胸をなで下ろした夕方。朝はあんなに渋っていたのに、なんとか送り出せた。そんな日、私たちはつい「どうだった?大丈夫だった?嫌なことなかった?」と質問を重ねてしまいます。

登校しぶりの情報を探すと、出てくるのは「行けない日にどう対応するか」ばかり。もちろんそれも大切です。でも、じつは登校しぶりを乗り越える力が育つのは、行けなかった日の対応よりも、「行けた日」の夕方の過ごし方にあるのかもしれません。今回は、これまであまり語られてこなかった、がんばって帰ってきた子どもへの「おかえり」の時間に注目します。


質問攻めにしたくなるのは、それだけ心配していた証拠


行けた日の帰宅後、様子を細かく聞きたくなる。表情をじっと観察してしまう。それは、朝からずっと、心のどこかで子どものことを考え続けていた証拠です。心配だからこそ確かめたい。その気持ちは、親としてとても自然で、まっすぐな愛情のかたちです。

そして、渋りながらも行けた日の子どもは、私たちが思う以上のことをやり遂げて帰ってきています。行きたくない気持ちを自分でなだめ、玄関を出て、教室に入り、1日を過ごす。大人にたとえるなら、気の重い会議が朝から夕方まで続いた日のようなもの。
行けた日は「普通の日」ではなく、「大仕事を終えた日」なのです。

だからこそ、ここでお伝えしたいのは「聞いてはいけない」ではありません。いつもの関わりに、聞き方を、ほんの少し変えてみる。それだけで、行けた日の夕方は、子どもの心の充電時間に変わっていきます。

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「よかったね」の受け止め方で、うれしさは倍になる


心理学には「キャピタライゼーション」という考え方があります。よい出来事を誰かに話し、相手が積極的に喜んで受け止めてくれると、出来事そのものの効果を超えて本人の幸福感が高まる傾向が見られたのです。(カリフォルニア大学ロサンゼルス校、心理学研究者シェリー・ゲーブル氏らの研究チーム)*1

この研究の対象は大人ですが、「聞き手の反応しだいで、うれしさは膨らみもしぼみもする」という知見は、親子の会話にも大切なヒントをくれます。ポイントは、評価ではなく一緒に喜ぶこと。



声かけのヒント

△ 「行けたじゃない。明日も行けるね」
◎ 「行けたんだね!ママもうれしい。おかえり」

「明日」につなげず、今日のがんばりだけを一緒に喜ぶ。それだけで充分です。


 

「明日も」と言いたくなる気持ちは当然です。でも、子どもの側から見ると、「行けたね」のすぐあとに「明日も」が続くと、せっかくのゴールが次のスタートラインに変わってしまいます。今日はゴールテープを切らせてあげる日。明日の話は明日の朝に取っておいて、今日の夕方は、今日の分だけ喜ぶ時間にしてみてください。


もし子どもが照れてそっけない反応をしても、心配はいりません。「喜んでもらえた」という感覚は、表情に出なくても、ゆっくり心にしみ込んでいきます。

夕食どきの「おしゃべり」が、がんばった記憶を宝物に変える


もうひとつ、行けた日の夕方にできることがあります。それは、子どもと一緒に今日を「思い出語り」にすることです。

親子で過去の出来事を振り返る会話について、詳しく問いかけながら一緒に話をふくらませる語り方をする親の子どもは、記憶や言葉の力だけでなく、感情の理解や自己の育ちにもよい関連が見られたことが、多くの研究のレビューで報告されています。(エモリー大学、心理学教授ロビン・フィバッシュ氏らの研究チーム)*2

「今日行けた」という出来事は、親子で語り合うことで「私はがんばれた」という物語として、子どもの心に残っていくのです。

コツは、質問ではなく実況にすること。「嫌なことなかった?」ではなく、「今朝、上履き袋を自分で持って出たよね」と、ママが見ていた場面から始めると、子どもは「答えを探す」のではなく「一緒に思い出す」モードになれます。
話が続かなければ、「ママはね、あの背中を見てじーんとしちゃった」と、自分の気持ちを話すだけでも充分。会話は続かなくても、「今日のがんばりをママは見ていたよ」というメッセージは、確かに届いています。


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何もしない時間にも意味がある


行けた日の夕方、ソファでごろごろ、ぼーっとテレビ。その姿を見ると「宿題は?」と言いたくなりますが、じつはこの「何もしない時間」にも意味があります。

6〜7歳の子どもを対象にした調査では、大人が決めた予定の少ない、自由な時間を多く過ごしている子ほど、自分で目標を立てて行動する力(自己主導的な実行機能)が高い傾向が見られました。(コロラド大学ボルダー校、心理学研究者ジェーン・バーカー氏らの研究チーム)*3

登校しぶりのある子にとって、学校は想像以上にエネルギーを使う場所。緊張しながら過ごした1日の分、心の電池はほとんど空っぽで帰ってきます。
帰宅後にごろごろする自由時間は、サボりではなく、明日の自分をつくる充電の時間。そう捉え直すと、ソファでだらける姿も少し違って見えてきませんか。


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***

行けなかった日のことばかり考えて、行けた日は「よかった」で通り過ぎてしまう。登校しぶりに向き合っていると、どうしてもそうなりがちです。でも本当は、行けた日の夕方こそ、子どもの「またがんばれるかも」が静かに育つ時間。一緒に喜ぶ、一緒に思い出す、そして一緒にだらだらする。どれも特別な準備はいらず、今日の夕方からすぐに始められることばかりです。今日の「おかえり」が、明日の「いってきます」を少しだけ軽くしてくれますように。


FAQ(よくある質問)
Q. 帰宅後に学校の話をまったくしてくれません。無理に聞き出さないほうがいい?

A. 無理に聞き出す必要はありません。学校の話ではなく「今日の夕飯なにがいい?」など安全な話題から始めると、ふとした瞬間に子どもから話し始めることがあります。話さない日は「話さなくても大丈夫な家」を実感している日、と考えてみてください。


Q. 「明日も行こうね」と言ってしまいました。逆効果でしたか?

A. いいえ。励ましたい気持ちから出た自然な言葉です。もし次の機会があれば、「今日行けたね」で一度区切ってみる、くらいの気持ちで充分。一度の声かけで何かが決まることはありません。


Q. 行けない日が続いています。この記事の内容は使えますか?

A. 使えます。「行けた」を「玄関まで行けた」「準備ができた」に置き換えて、小さな一歩を一緒に喜ぶところから始めてみてください。行けない日が長く続く場合は、スクールカウンセラーや小児科など専門家への相談も選択肢のひとつです。


 

(参考)
*1 Gable, S. L., Reis, H. T., Impett, E. A., & Asher, E. R. (2004)|What do you do when things go right? The intrapersonal and interpersonal benefits of sharing positive events. Journal of Personality and Social Psychology, 87(2), 228-245.
*2 Fivush, R., Haden, C. A., & Reese, E. (2006)|Elaborating on elaborations: Role of maternal reminiscing style in cognitive and socioemotional development. Child Development, 77(6), 1568-1588.
*3 Barker, J. E., Semenov, A. D., Michaelson, L., Provan, L. S., Snyder, H. R., & Munakata, Y. (2014)|Less-structured time in children’s daily lives predicts self-directed executive functioning. Frontiers in Psychology, 5, 593.

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