ハーバードが親子の「会話の回数」を数えたら、語彙の量より大事なものが見つかった

ハーバードが親子の「会話の回数」を数えたら、語彙の量より大事なものが見つかった

「もっとたくさん話しかけたほうがいい」「語彙を増やしてあげなきゃ」。
子どもの言葉の発達について、そんな言葉を目にするたびに、少し胸が重くなることはありませんか。忙しい毎日のなかで、絵本の読み聞かせも、「実況中継」のような話しかけも、思うようにはできない日のほうが多いものです。

でも、ハーバード大学とMITの研究チームが、実際の家庭の音声を録音して子どもの脳を調べたところ、子どもの言葉の力と結びついていたのは「話しかけた言葉の量」ではありませんでした。この記事では、その研究が見つけた「本当に大事なもの」と、今日から1回だけできる工夫をお伝えします。

「もっと話しかけなきゃ」が、重荷になっているお母さんへ


1990年代のアメリカの研究で、家庭によって子どもが耳にする言葉の量に大きな差があり、それが「3000万語の差」として広く知られるようになりました。以来、「たくさん話しかけること」が親の務めのように語られてきました。

もちろん、話しかけること自体は悪いことではありません。
でも、「量」を求められると、話しかけられなかった日に自分を責めてしまう。それは、子どもの言葉を大切に思っているからこそ生まれる罪悪感です。

まずお伝えしたいのは、研究が進んだいま、「量」への一方的なプレッシャーは根拠が薄れてきているということ。順番に見ていきましょう。

ハーバードが親子の「会話の回数」を数えたら、語彙の量より大事なものが見つかった


ハーバードとMITが4〜6歳の脳で見つけたこと


2018年に発表された研究では、家庭環境がさまざまな4〜6歳の子ども36人に小型の録音機を身につけてもらい、家庭での会話を記録しました。そして、記録された「大人が話した言葉の数」と「大人と子どもの会話の往復の回数」を数え、子どもが物語を聞いているときの脳の働きをMRIで調べました。

その結果、子どもの言語能力や、言葉を処理する脳の領域(ブローカ野)の活動と結びついていたのは、大人が話した言葉の量ではなく、「会話の往復の回数」だったと報告されています。しかもこの関連は、家庭の経済状況や子どもの知能指数とは独立して見られました。
(ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学、研究者レイチェル・ロメオ氏、ジョン・ガブリエリ教授ら)*1
研究メモ|「会話の往復(conversational turn)」とは

大人が話し、子どもが5秒以内に応え、また大人が返す。このやりとりを「1往復」と数えます。子どもの応えは、単語ひとつでも、「うん」でも、うなり声のような発声でも構いません。研究では、この往復の回数が多い子どもほど、言葉の脳の働きが活発だったと示されました。


つまり、大事だったのは「シャワーのように浴びせる言葉」ではなく、「キャッチボールになっているかどうか」。お母さんがひとりで話し続けるより、子どもの「うん」「ちがう」「なんで?」が挟まる会話のほうが、脳にとっては意味があったのです。


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会話のキャッチボールは、脳の「道路」も太くする


同じ研究チームは、同年、脳の構造にも注目した研究を発表しています。
4〜6歳の子ども40人を対象に、会話の往復の回数と、脳の白質(脳の領域どうしをつなぐ神経の束)の状態を調べたところ、往復が多い子どもほど、言葉を処理する領域をつなぐ神経の束(弓状束など)がより強く、まとまった状態にある傾向が示されました。ここでも、家庭の経済状況や大人の言葉の量とは独立した関連でした。(ハーバード大学・マサチューセッツ工科大学、研究者レイチェル・ロメオ氏、ジョン・ガブリエリ教授ら)*2

脳の白質を、言葉の情報が通る「道路」だとイメージしてみてください。会話のやりとりを重ねるほど、その道路が整備されていく。そんな可能性を示す研究です。

ここまでを整理すると、次のようになります。

言葉の「シャワー」言葉の「キャッチボール」大人が一方的にたくさん話す大人と子どもが交互に話す「言葉の数」が指標「往復の回数」が指標脳の言語野の働きとの関連は弱い脳の言語野の働き・構造と関連親の負担が大きい子どもの「うん」で1往復になる
ハーバードが親子の「会話の回数」を数えたら、語彙の量より大事なものが見つかった


その効果は、10年後まで続く可能性がある


「会話の往復」の大切さは、もっと長い期間を追った研究でも示されています。

アメリカで146人の子どもを対象に、生後2〜36か月のあいだ家庭の音声を毎月記録し、9〜14歳になったときに言語能力と知能を調べた研究があります。
その結果、とくに1歳半〜2歳ごろの「会話の往復の回数」が、10年ほど後の言語能力や知能検査の得点と関連していたと報告されています。(アメリカ LENA財団・ブラウン大学、研究者ジル・ギルカーソン博士、ベティ・ヴォア教授ら)*3

この研究は乳幼児期が対象なので、幼稚園児や小学生にそのまま当てはまるわけではありません。ただ、「往復のある会話」が子どもの発達にとって長く効く土台である可能性を示す、心強い手がかりのひとつです。


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今日からできる「1往復」を増やす3つの工夫


「たくさん話しかける」のではなく、「1往復増やす」。そう考えると、忙しい日でもできることが見えてきます。


1. 話しかけたあと、5秒待つ

「今日、幼稚園どうだった?」と聞いたら、すぐに次の言葉を足さずに待ちます。子どもが言葉を探している時間を待つだけで、往復が生まれます。
返事が「べつに」でも、それは立派な1往復です。

2. 子どもの言葉を、そのまま1回くり返す

「ブロックで遊んだ」と言ったら「ブロックで遊んだんだね」と返す。それだけで子どもは「聞いてもらえた」と感じて、次の言葉が出てきやすくなります。新しい語彙を教えなくて大丈夫です。

3. 1日1回、「どう思う?」を挟む

夕食のメニューでも、明日の服でも、「どっちがいいと思う?」と聞いてみてください。答えを求められた子どもは、自分の言葉で返そうとします。正解はなくていい。往復することが目的です。



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***

「たくさん話しかけなきゃ」と自分を追い込んできたお母さんにこそ、この研究を知ってほしいと思います。脳が求めていたのは、言葉のシャワーではなく、あなたと子どものあいだを行き来する小さなキャッチボールでした。

夕食の支度をしながら「今日どうだった?」と聞いて、返事を5秒待つ。それだけで、もう1往復です。いまの会話に、あとひとつ「待つ」を加えるだけで充分です。

FAQ(よくある質問)
Q. 子どもが無口で、聞いても「うん」しか返ってきません。A. 「うん」でも研究上は1往復です。「はい・いいえ」で答えられる質問から始めて、慣れてきたら「どっち?」と選ばせる質問に広げてみてください。
無理に長く話させる必要はありません。


Q. 語彙を増やす教材やフラッシュカードは意味がない?

A. 意味がないわけではありません。ただ、研究が示したのは「一方的に与える言葉の量」より「往復」のほうが脳の働きと強く結びついていたということ。教材を使うときも、「これなあに?」「なんでだと思う?」と往復を挟むと、より生きてきます。


Q. 小学生になってからでも遅くない?

A. ハーバードとMITの研究は4〜6歳、つまり年中〜小学1年生の年齢が対象でした。この時期の会話の往復が脳の働きや構造と関連していたのですから、いまからで充分間に合います。


(参考)
*1 Romeo, R. R., Leonard, J. A., Robinson, S. T., West, M. R., Mackey, A. P., Rowe, M. L., & Gabrieli, J. D. E. (2018)|Beyond the 30-million-word gap: Children’s conversational exposure is associated with language-related brain function. Psychological Science, 29(5), 700-710.
*2 Romeo, R. R., Segaran, J., Leonard, J. A., Robinson, S. T., West, M. R., Mackey, A. P., Yendiki, A., Rowe, M. L., & Gabrieli, J. D. E. (2018)|Language exposure relates to structural neural connectivity in childhood. Journal of Neuroscience, 38(36), 7870-7877.
*3 Gilkerson, J., Richards, J. A., Warren, S. F., Oller, D. K., Russo, R., & Vohr, B. (2018)|Language experience in the second year of life and language outcomes in late childhood. Pediatrics, 142(4), e20174276.
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