コーチと選手が結託して息子を排除しようとする、お金で人気を買うなど信用ならない指導者の下に居続けていいのか問題
コーチとチームメイトがチームキャプテンの息子を排除しようとする。敵対心むき出しの態度、コーチと一緒に「キャプテン向いてない」「いなくてもいい」などと発言。
コーチは、お気に入りの選手にスパイクを買ってあげるなど「お金で人気を買っている」信じられない状態なのに、移籍したくないと言う息子。こんなチームでも見守り続けたほうが良いの?というお悩みをいただきました。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんにこれまでの知見をもとにアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<サッカーママからのご相談>
こんにちは。新5年(今年11歳)の母です。
サッカー少年団に入って5年目。
その子(仮にA君とします)は、前のチームでキャプテンをしており、実力は息子と同じぐらい。前のチームで問題が絶えず、コーチが悩んだ末にスタメンを降ろしたことに納得できずに辞めて、移籍してきました。
始めから息子に敵対心剥き出しで、コーチのお気に入りなので言いたい放題、やりたい放題です。
息子はキャプテンを務めてますが、何かにつけて揚げ足を取り、「キャプテン向いてないよね」と周りの選手を巻き込み、辞めるよう仕向けてきます。
先日肺炎になってしまいサッカーを休んでいるので、大事な試合はことごとく欠場なのですが、息子が居なくても優勝したりチームとしては実績を積んでいる最中です。
そんな中、またA君とコーチが「(息子が)居なくてもいい」「キャプテン向いてない」などと吹聴し、息子が居ない今がチャンスとばかり、復帰する息子の居場所を奪う勢いです。仲の良いチームメイトの子から連絡が入り、そのことを知りました。
A君だけならまだしも、コーチまでも息子排除に向けてそのような空気感を出してるとなると、息子だけでは太刀打ちできないので、チームを変えた方が良いのではと思っていますが、息子は移籍したくないと言います。
もともとA君と息子のサッカーが合わなくて息子が出るとA君の動きが悪くなる、というのはありました。「コーチはお金で人気を買ってるから」と、息子はよく言っており、A君ほかお気に入りの選手にもスパイク買ってあげたりしていて何がなんやら......。
コーチがお気に入りの子と一緒になって気に入らない子を排除する。残り1年のジュニア時期、それでも親は見守り続けた方が良いのでしょうか?
<島沢さんからの回答>
ご相談ありがとうございます。
ご相談文を読むだけで、息子さんが置かれた状況の過酷さが手に取るように伝わってきます。
それにしても、このコーチの言動に呆れさせられます。チーム内の一定の子どもにだけスパイクを買ってあげるなんて、聞いたこともありません。
もしくは、お母さんの目からは孤立しているように見えて、実は彼の味方になってくれる仲間がいるのではないでしょうか。1人でも2人でも数は少なくても、大きなこころの支えになっているのかもしれません。
結論から言うと、今すぐにでもこのチームから離れたほうがいいと私は思います。理由は2つあります。
息子さんはチームのキャプテンになるくらいですから、リーダーシップもあって周りをまとめていく聡明さをもっているのでしょう。A君やコーチから「キャプテン向いてないよね」などと否定されても、それは意地悪で言っていることなんだと自分を納得させようとしていることでしょう。つまり、自分の中で折り合いをつけようと頑張っているわけです。
しかしながら、そういったことをずっと言われ続ければ、息子さんの自己肯定感はどんどん下がってしまいます。
この「環境」はサッカーチーム、息子さんが最も多くの時間身を置く小学校、そして家庭といったものです。ところが、現在のサッカーチームは、その大切な心理的安全性が担保されそうにありません。
よって小学5年生にはあまりに過酷すぎる今の環境から、まずは脱出したほうがよいでしょう。
2つめ。子どもが「サッカーを楽しめる環境ではない」問題を、保護者としてはぜひ重視してください。
お母さんが「病み上がりで走りきれない息子は益々価値がないと判断されてしまう」と不安を感じています。外から見ているお母さんがそう感じるということは、当事者である息子さんはさらに強い不安にさいなまれているはずです。
人が何かに対し意欲的になる、「やる気」は、左右の大脳半球の下側にある「線条体」の働きが関係していることが脳科学の分野で解明されています。線条体の神経核が活発に動くと、人は意欲的になります。
例えば、算数のテストをやる前に誉め言葉のシャワーを浴びたグループと、否定された子どもたちでは、前者のほうが成績が良かったという実験結果が出ています。
それとまったく逆で、誰かに否定されたり、怒られたりすると、線条体の動きは途端に鈍くなるそうです。私にこの仕組みを説明してくれた著名な脳科学者は「線条体がスーッと止まってしまう」と説明されていました。
例えば、大人に抑圧的に振る舞われるほど、子どもの線条体の動きは鈍り、脳は意欲的になりません。それどころかそういった抑圧的な態度が繰り返されると、そのことがトラウマになり燃え尽き症候群になりやすい(バーンアウトしやすい)とも言われています。
私が育成の現場を20年以上見てきたなかで、嫌なコーチや仲間と一緒でも懸命に耐えて頑張った子どもがいました。
お母さんも、お父さんも「負けるな。おまえは悪くないのだから頑張れ」と励ましました。ご両親も一緒に戦っていたのだと思います。ところが最後は力尽き、サッカー自体を楽しめなくなってしまいました。良くない環境ながら6年生まで続けて卒団はしましたが、サッカーチームというものに対し悪いイメージしか残らなかったようです。
結局、中学でサッカーを続けないばかりか、スポーツ嫌いになってしまいました。
ご両親は「あんなに理不尽な環境で踏ん張ったことは、将来必ず役に立つはずだ。社会に出れば理不尽だらけなんですから」とおっしゃいましたが、私はそれは少し違うと考えます。
理不尽な環境から逃げずにとどまってしまうと、理不尽なことに対し抗うのではなく「黙って耐えること」を選択してしまいます。
まさにいま息子さんはこの状態ではありませんか?
子どもにとって、サッカーを好きになる気持ちが「成長のエンジン」です。接する人の言動や、その接し方に大きく影響されます。良い指導者と巡り合えば大きく伸びますが、それと逆で暴力や暴言など不適切なコーチングをする人の下では、子どもは委縮してしまうのでミスを恐れ、思い切ってチャレンジできません。
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(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
最後にアドバイスさせてください。
コーチやA君に対しさまざま思いはあるかと思いますが、彼らの振る舞いに揺さぶられるのはやめましょう。正しくない人たちはいつか思い知るときが来るものです。
まずはわが子をしっかり見つめましょう。ここまでの苦難を強いられながら、息子さんは今すぐ移籍したくないと踏ん張る理由は何でしょうか。そのあたりの気持ちをまずはしっかり聞いたうえで、お母さんたちの意見を伝えて移籍に踏み出してください。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)
ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。新著は「叱らない時代の指導術: 主体性を伸ばすスポーツ現場の実践 」(NHK出版新書)
コーチは、お気に入りの選手にスパイクを買ってあげるなど「お金で人気を買っている」信じられない状態なのに、移籍したくないと言う息子。こんなチームでも見守り続けたほうが良いの?というお悩みをいただきました。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんにこれまでの知見をもとにアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
<サッカーママからのご相談>
こんにちは。新5年(今年11歳)の母です。
サッカー少年団に入って5年目。
半年くらい前にクラブチームから移籍してきた子とチームの指導者について悩んでいます。
その子(仮にA君とします)は、前のチームでキャプテンをしており、実力は息子と同じぐらい。前のチームで問題が絶えず、コーチが悩んだ末にスタメンを降ろしたことに納得できずに辞めて、移籍してきました。
始めから息子に敵対心剥き出しで、コーチのお気に入りなので言いたい放題、やりたい放題です。
息子はキャプテンを務めてますが、何かにつけて揚げ足を取り、「キャプテン向いてないよね」と周りの選手を巻き込み、辞めるよう仕向けてきます。
先日肺炎になってしまいサッカーを休んでいるので、大事な試合はことごとく欠場なのですが、息子が居なくても優勝したりチームとしては実績を積んでいる最中です。
そんな中、またA君とコーチが「(息子が)居なくてもいい」「キャプテン向いてない」などと吹聴し、息子が居ない今がチャンスとばかり、復帰する息子の居場所を奪う勢いです。仲の良いチームメイトの子から連絡が入り、そのことを知りました。
A君だけならまだしも、コーチまでも息子排除に向けてそのような空気感を出してるとなると、息子だけでは太刀打ちできないので、チームを変えた方が良いのではと思っていますが、息子は移籍したくないと言います。
もともとA君と息子のサッカーが合わなくて息子が出るとA君の動きが悪くなる、というのはありました。「コーチはお金で人気を買ってるから」と、息子はよく言っており、A君ほかお気に入りの選手にもスパイク買ってあげたりしていて何がなんやら......。
コーチがお気に入りの子と一緒になって気に入らない子を排除する。残り1年のジュニア時期、それでも親は見守り続けた方が良いのでしょうか?
<島沢さんからの回答>
ご相談ありがとうございます。
ご相談文を読むだけで、息子さんが置かれた状況の過酷さが手に取るように伝わってきます。
それにしても、このコーチの言動に呆れさせられます。チーム内の一定の子どもにだけスパイクを買ってあげるなんて、聞いたこともありません。
わずか10歳もしくは11歳であろう子どもに「コーチはお金で人気を買っている」と思わせてしまう現実にも驚かされます。
もしくは、お母さんの目からは孤立しているように見えて、実は彼の味方になってくれる仲間がいるのではないでしょうか。1人でも2人でも数は少なくても、大きなこころの支えになっているのかもしれません。
結論から言うと、今すぐにでもこのチームから離れたほうがいいと私は思います。理由は2つあります。
■理由①今の状態が続くと息子さんの自己肯定感が下がる
息子さんはチームのキャプテンになるくらいですから、リーダーシップもあって周りをまとめていく聡明さをもっているのでしょう。A君やコーチから「キャプテン向いてないよね」などと否定されても、それは意地悪で言っていることなんだと自分を納得させようとしていることでしょう。つまり、自分の中で折り合いをつけようと頑張っているわけです。
しかしながら、そういったことをずっと言われ続ければ、息子さんの自己肯定感はどんどん下がってしまいます。
この「環境」はサッカーチーム、息子さんが最も多くの時間身を置く小学校、そして家庭といったものです。ところが、現在のサッカーチームは、その大切な心理的安全性が担保されそうにありません。
よって小学5年生にはあまりに過酷すぎる今の環境から、まずは脱出したほうがよいでしょう。
■理由②今のチームはサッカーが楽しめる環境ではない
2つめ。子どもが「サッカーを楽しめる環境ではない」問題を、保護者としてはぜひ重視してください。
お母さんが「病み上がりで走りきれない息子は益々価値がないと判断されてしまう」と不安を感じています。外から見ているお母さんがそう感じるということは、当事者である息子さんはさらに強い不安にさいなまれているはずです。
人が何かに対し意欲的になる、「やる気」は、左右の大脳半球の下側にある「線条体」の働きが関係していることが脳科学の分野で解明されています。線条体の神経核が活発に動くと、人は意欲的になります。
例えば、算数のテストをやる前に誉め言葉のシャワーを浴びたグループと、否定された子どもたちでは、前者のほうが成績が良かったという実験結果が出ています。
それとまったく逆で、誰かに否定されたり、怒られたりすると、線条体の動きは途端に鈍くなるそうです。私にこの仕組みを説明してくれた著名な脳科学者は「線条体がスーッと止まってしまう」と説明されていました。
例えば、大人に抑圧的に振る舞われるほど、子どもの線条体の動きは鈍り、脳は意欲的になりません。それどころかそういった抑圧的な態度が繰り返されると、そのことがトラウマになり燃え尽き症候群になりやすい(バーンアウトしやすい)とも言われています。
■嫌なコーチや仲間に耐えた子の中学以降のエピソード
私が育成の現場を20年以上見てきたなかで、嫌なコーチや仲間と一緒でも懸命に耐えて頑張った子どもがいました。
お母さんも、お父さんも「負けるな。おまえは悪くないのだから頑張れ」と励ましました。ご両親も一緒に戦っていたのだと思います。ところが最後は力尽き、サッカー自体を楽しめなくなってしまいました。良くない環境ながら6年生まで続けて卒団はしましたが、サッカーチームというものに対し悪いイメージしか残らなかったようです。
結局、中学でサッカーを続けないばかりか、スポーツ嫌いになってしまいました。
ご両親は「あんなに理不尽な環境で踏ん張ったことは、将来必ず役に立つはずだ。社会に出れば理不尽だらけなんですから」とおっしゃいましたが、私はそれは少し違うと考えます。
理不尽な環境から逃げずにとどまってしまうと、理不尽なことに対し抗うのではなく「黙って耐えること」を選択してしまいます。
まさにいま息子さんはこの状態ではありませんか?
■「サッカーが好き」という気持ちが成長のエンジン
子どもにとって、サッカーを好きになる気持ちが「成長のエンジン」です。接する人の言動や、その接し方に大きく影響されます。良い指導者と巡り合えば大きく伸びますが、それと逆で暴力や暴言など不適切なコーチングをする人の下では、子どもは委縮してしまうのでミスを恐れ、思い切ってチャレンジできません。
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■苦難を強いられながらも移籍したくない理由は?相手に揺さぶられずわが子の気持ちを聞いて
最後にアドバイスさせてください。
コーチやA君に対しさまざま思いはあるかと思いますが、彼らの振る舞いに揺さぶられるのはやめましょう。正しくない人たちはいつか思い知るときが来るものです。
まずはわが子をしっかり見つめましょう。ここまでの苦難を強いられながら、息子さんは今すぐ移籍したくないと踏ん張る理由は何でしょうか。そのあたりの気持ちをまずはしっかり聞いたうえで、お母さんたちの意見を伝えて移籍に踏み出してください。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)
ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。新著は「叱らない時代の指導術: 主体性を伸ばすスポーツ現場の実践 」(NHK出版新書)