試合に負けても悔しくないという息子、どうしたらもっと熱が入る? 意欲を引き出せず悩ましい問題
試合中はただ行き来してるだけ、ボールも触らないし一言も発しない。負けても悔しいと感じない息子。
どうしたらもっと走れる?どうしたら熱が入るの?親はどうすればいい?と悩むお母さんからのご相談。同じように感じている方、多いのではないでしょうか。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんに今すぐできるアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<サッカーママからのご相談>
こんばんは。はじめまして。
10歳息子のサッカーに対する意欲?が分からなく、質問させていただきたいです。
幼稚園からサッカーを始め、歴5年ほどになります。
プロのサッカー選手が夢でプロの試合動画練習動画を毎日見ていて、自主練も毎日し、週5でクラブチームの練習に通って徐々に上手になっていっています。
とても喜ばしいことですが、身内が見ていないとサボります。
練習の動きも試合の動きも、センターラインを行き来してるだけ。 試合中もほぼボールを触ることなく終わります。声も一言も発しません。 試合に負けても、悔しいとも感じないそうです。
何回も怒ったことがあります。
試合のたびに 何も変わってない、成長していない姿を見ると落胆するのです。しかしそれでも何も変わらないので怒ることはしなくなりました。
難しいことは言わないから、コートの誰よりもたくさん走って楽しんでおいで。と送り出しても、何も変わりません。
どうしたら、走れるようになるんでしょうか。 どうしたらもっと熱が入るんでしょうか。
私たちはどういった対応をすればいいのでしょうか。
<島沢さんからの回答>
ご相談ありがとうございます。
どうしたら走れるんでしょうか、どうしたらもっと熱が入るんでしょうかと、ご相談文のラスト3行にお母さんの強い焦燥感がにじんで切ない気持ちになりました。
目の前の子どもが期待通りにならない現実が辛くてたまらないようです。恐らくお母さんご自身は小さいときから何につけても頑張る子だったのでしょう。よって意欲的にならない子どもを許容できないのかもしれません。
私が昨年8月に上梓した『叱らない時代の指導術主体性を伸ばすスポーツ現場の実践』の冒頭第1章は、「やる気が出る環境をつくる」がテーマです。取材した行動分析学の研究者である福田実奈先生の話を紹介しており、そこに出てくるのは「やる気出せは、根性論」という言葉です。
お母さんは「どうしたらやる気が出るのか、どう対応すればいいのか?」と私に質問しています。つまり、テレビのCMなどでよく使われる「やる気スイッチ」を押したくてたまらないです。
本でも書きましたが、行動心理学のなかでは、他者から押されて意欲が出てくる「やる気スイッチ」などは実は存在しないことが解き明かされています。
同書では対象を選手(アスリート)にしていますが、ここに「子ども」を入れても理論は成立します。例えば、子どもがやるべきことをやっていないと感じたら、親は「やる気ないのか!?」と怒ることがありますが、それは、子どもがなぜやらないか?の答えを親が欲しいため、強引に「こころの問題」にしているからです。
原因を子どものやる気に求めると、なぜやらないのか?→やる気がないからだ→なぜやる気がないのか?→それはやっていないから、やる気がないからだ......と、そんなふうに同じところを回り続けます。要するに根性論のループです。
このように、子どものやる気に、物事をやらない原因を求めると、問題は解決しません。そうではなく、できない(やらない)原因を子どもが置かれている「環境」という視点で考えてみませんか。
例えば、この章で事例として私が紹介した大学野球の監督は、走るなど計測器に現れるタイムや、たんぱく質の量の不足など、選手が自分自身を可視化できる環境によってトレーニングへの動機づけをアップさせていました。
高校バスケットボール部の監督は、感情ではなく理論をチームで共有し、選手たちに複数のコーチングスタッフを置いてさまざまな意見を聞ける環境を整備していました。なぜならば、行動に直接結びつくのは「環境」だからです。それは行動分析学の研究者もこれまでたくさん説明しています。福田先生の言葉を借りると「環境を変えることで行動を変えることが重要」なのです。
それなのに、私たち大人は「子どもにやる気がない」と、やる気を原因にしがちなのは、こころの問題にしてしまえば説明が簡単だからです。それは保護者だけでなく、コーチも同様です。
子どもの指導現場で「気合入れろ」とよく言われます。よいパフォーマンスを発揮すると「今日は、やる気を見せたね」とか「気持ちが入っていたね」などとほめていませんか?
しかし、それは良い状態をラベリングしているだけです。他に要因があるはずなのに、細かく分析しません。良くも悪くも「こころのもちよう」で終わらせているのです。
怒ったり、やる気出せと叱咤激励するのはとても簡単です。誰でもできます。でも、子育てはそんなに単純ではありません。なぜならば、人の意欲は、左右の大脳半球の下側にある「線条体」の働きが関係しています。
ここの神経核が活発に動くと、人は意欲的になります。例えば、算数のテストをやる前に誉め言葉のシャワーを浴びたグループと、否定された子どもたちでは、前者のほうが成績が良かったという実験結果が出ています。
それとは逆に、誰かに否定されたり、怒られたりすると、線条体の動きは鈍くなります。私にこの仕組みを説明してくれた脳科学者は「線条体がスーッと止まってしまう」とおっしゃっていました。大人が子どもに対し抑圧的に振る舞えば振る舞うほど、線条体の動きが鈍り脳は意欲的になりません。
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(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
息子さんが今置かれている環境に目を向けてみましょう。息子さんは楽しめる状況ですか?ご相談文に「試合中もほぼボールを触ることなく終わります。声も一言も発しません。試合に負けても、悔しいとも感じない」とあります。しかし、それらは息子さん自身の問題ではありません。
試合中ほぼボールを触れないのは、そのレベルやチームのサッカーに息子さんがフィットしていないからではありませんか?声を発しないのは、楽しめていないからではありませんか?悔しいと感じないのはフィットしていないのと、チームに愛着を抱いていないからです。当然ながら、愛着を持てない彼に非はありません。合っているか否かに目を向けない周囲の大人たちの責任だと私は考えます。
例えばお母さんがお書きになった「難しいことは言わないから、コートの誰よりもたくさん走れ」は大いに矛盾しています。誰よりもたくさんなんて、どう測るのでしょう。すごく難しい。こんな要求はぜひ控えてください。
10歳の今ならまだ間に合います。息子さんに対し抑圧的な態度で接したり、叱ったりせず、彼の気持ちを聴いてあげてください。そして時間は余計にかかるかもしれないけれど、やる気に訴えかけてはいけません。抑圧が繰り返されると、そのことがトラウマになり何に対してもバーンアウトしやすくなるとも言われています。
ぜひとも、やる気という根性論からの脱却を目指してください。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)
ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。新著は「ファジアーノ岡山「地熱」の奇跡 親会社なき市民クラブがどうやってJ1昇格を遂げたか 」(竹書房)
どうしたらもっと走れる?どうしたら熱が入るの?親はどうすればいい?と悩むお母さんからのご相談。同じように感じている方、多いのではないでしょうか。
スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんに今すぐできるアドバイスを送ります。
(構成・文:島沢優子)
<サッカーママからのご相談>
こんばんは。はじめまして。
10歳息子のサッカーに対する意欲?が分からなく、質問させていただきたいです。
幼稚園からサッカーを始め、歴5年ほどになります。
プロのサッカー選手が夢でプロの試合動画練習動画を毎日見ていて、自主練も毎日し、週5でクラブチームの練習に通って徐々に上手になっていっています。
とても喜ばしいことですが、身内が見ていないとサボります。
練習の動きも試合の動きも、センターラインを行き来してるだけ。 試合中もほぼボールを触ることなく終わります。声も一言も発しません。 試合に負けても、悔しいとも感じないそうです。
何回も怒ったことがあります。
試合のたびに 何も変わってない、成長していない姿を見ると落胆するのです。しかしそれでも何も変わらないので怒ることはしなくなりました。
難しいことは言わないから、コートの誰よりもたくさん走って楽しんでおいで。と送り出しても、何も変わりません。
どうしたら、走れるようになるんでしょうか。 どうしたらもっと熱が入るんでしょうか。
私たちはどういった対応をすればいいのでしょうか。
<島沢さんからの回答>
ご相談ありがとうございます。
どうしたら走れるんでしょうか、どうしたらもっと熱が入るんでしょうかと、ご相談文のラスト3行にお母さんの強い焦燥感がにじんで切ない気持ちになりました。
目の前の子どもが期待通りにならない現実が辛くてたまらないようです。恐らくお母さんご自身は小さいときから何につけても頑張る子だったのでしょう。よって意欲的にならない子どもを許容できないのかもしれません。
■他者から押されて意欲が出てくる「やる気スイッチ」など存在しない
私が昨年8月に上梓した『叱らない時代の指導術主体性を伸ばすスポーツ現場の実践』の冒頭第1章は、「やる気が出る環境をつくる」がテーマです。取材した行動分析学の研究者である福田実奈先生の話を紹介しており、そこに出てくるのは「やる気出せは、根性論」という言葉です。
お母さんは「どうしたらやる気が出るのか、どう対応すればいいのか?」と私に質問しています。つまり、テレビのCMなどでよく使われる「やる気スイッチ」を押したくてたまらないです。
しかしながら、上記の本の取材で福田先生は「『やる気スイッチ』なんてものは、われわれにはありません」とおっしゃいました。
本でも書きましたが、行動心理学のなかでは、他者から押されて意欲が出てくる「やる気スイッチ」などは実は存在しないことが解き明かされています。
■子どもがなぜやらないか?の答えが欲しいため、強引に「こころの問題」にしている
同書では対象を選手(アスリート)にしていますが、ここに「子ども」を入れても理論は成立します。例えば、子どもがやるべきことをやっていないと感じたら、親は「やる気ないのか!?」と怒ることがありますが、それは、子どもがなぜやらないか?の答えを親が欲しいため、強引に「こころの問題」にしているからです。
原因を子どものやる気に求めると、なぜやらないのか?→やる気がないからだ→なぜやる気がないのか?→それはやっていないから、やる気がないからだ......と、そんなふうに同じところを回り続けます。要するに根性論のループです。
このように、子どものやる気に、物事をやらない原因を求めると、問題は解決しません。そうではなく、できない(やらない)原因を子どもが置かれている「環境」という視点で考えてみませんか。
そうすると、解決方法が見えてきます。
■行動に直接結びつくのは「環境」
例えば、この章で事例として私が紹介した大学野球の監督は、走るなど計測器に現れるタイムや、たんぱく質の量の不足など、選手が自分自身を可視化できる環境によってトレーニングへの動機づけをアップさせていました。
高校バスケットボール部の監督は、感情ではなく理論をチームで共有し、選手たちに複数のコーチングスタッフを置いてさまざまな意見を聞ける環境を整備していました。なぜならば、行動に直接結びつくのは「環境」だからです。それは行動分析学の研究者もこれまでたくさん説明しています。福田先生の言葉を借りると「環境を変えることで行動を変えることが重要」なのです。
それなのに、私たち大人は「子どもにやる気がない」と、やる気を原因にしがちなのは、こころの問題にしてしまえば説明が簡単だからです。それは保護者だけでなく、コーチも同様です。
子どもの指導現場で「気合入れろ」とよく言われます。よいパフォーマンスを発揮すると「今日は、やる気を見せたね」とか「気持ちが入っていたね」などとほめていませんか?
しかし、それは良い状態をラベリングしているだけです。他に要因があるはずなのに、細かく分析しません。良くも悪くも「こころのもちよう」で終わらせているのです。
■意欲は脳の働きが関係している。否定や抑圧的な言葉は慎んで
怒ったり、やる気出せと叱咤激励するのはとても簡単です。誰でもできます。でも、子育てはそんなに単純ではありません。なぜならば、人の意欲は、左右の大脳半球の下側にある「線条体」の働きが関係しています。
ここの神経核が活発に動くと、人は意欲的になります。例えば、算数のテストをやる前に誉め言葉のシャワーを浴びたグループと、否定された子どもたちでは、前者のほうが成績が良かったという実験結果が出ています。
それとは逆に、誰かに否定されたり、怒られたりすると、線条体の動きは鈍くなります。私にこの仕組みを説明してくれた脳科学者は「線条体がスーッと止まってしまう」とおっしゃっていました。大人が子どもに対し抑圧的に振る舞えば振る舞うほど、線条体の動きが鈍り脳は意欲的になりません。
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■負けて悔しくないのは息子さん自身の問題ではない
息子さんが今置かれている環境に目を向けてみましょう。息子さんは楽しめる状況ですか?ご相談文に「試合中もほぼボールを触ることなく終わります。声も一言も発しません。試合に負けても、悔しいとも感じない」とあります。しかし、それらは息子さん自身の問題ではありません。
試合中ほぼボールを触れないのは、そのレベルやチームのサッカーに息子さんがフィットしていないからではありませんか?声を発しないのは、楽しめていないからではありませんか?悔しいと感じないのはフィットしていないのと、チームに愛着を抱いていないからです。当然ながら、愛着を持てない彼に非はありません。合っているか否かに目を向けない周囲の大人たちの責任だと私は考えます。
例えばお母さんがお書きになった「難しいことは言わないから、コートの誰よりもたくさん走れ」は大いに矛盾しています。誰よりもたくさんなんて、どう測るのでしょう。すごく難しい。こんな要求はぜひ控えてください。
10歳の今ならまだ間に合います。息子さんに対し抑圧的な態度で接したり、叱ったりせず、彼の気持ちを聴いてあげてください。そして時間は余計にかかるかもしれないけれど、やる気に訴えかけてはいけません。抑圧が繰り返されると、そのことがトラウマになり何に対してもバーンアウトしやすくなるとも言われています。
ぜひとも、やる気という根性論からの脱却を目指してください。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)
ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。新著は「ファジアーノ岡山「地熱」の奇跡 親会社なき市民クラブがどうやってJ1昇格を遂げたか 」(竹書房)