顔が上がっているだけで「認知」「判断」が出来てない。W杯優勝のスペインみたいに幼少期から指導する方法を教えて
認知と判断に課題がある子どもたち。顔は上がっているけど「何が見えてたか」を聞いても見えてないし、ポジショニングも分かってない。
W杯優勝のスペイン代表みたいに、幼少期からサッカーの知識や判断を身に着けるのが大事だと思うが、どんなトレーニングが良いのか。と悩むお父さんコーチからの相談。
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、マルセロ・ビエルサ氏のやり方なども挙げてお伝えします。
(構成・文島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージです)
<お父さんコーチからの質問>
はじめまして。どうぞよろしくお願いいたします。
地域のクラブ(少年団でなく一応街クラブですが、規模も小さいし強くもない)で保護者コーチをしています。
担当は5、6年生なのですが、基礎体力や走るときの姿勢など体の使い方も気になりますが、何より課題は「判断力」だと感じています。
顔は上がっているけど「何が見えた」と聞いても目に入っていない(か記憶していない)など、スマホやゲームなどの影響で視界が狭いのか、そもそもの「認知」ができていない子が多いような気がします。ポジショニングが分かってない、などです。
海外のトレンドを追えばいいものではないと分かっていますが、先のワールドカップでスペイン代表が見せたような、幼少期から植え付けられたサッカーの認識、判断というのが大事だと思います。
座学でも動きのあるトレーニングでもいいので、判断力を身に着けるのにはどんな方法が良いのか教えてください。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
認知力、判断力をどう身につけるかという質問です。
2022年W杯カタール大会で優勝し、今夏開催された北中米大会は準優勝だったアルゼンチンには稀代の戦術マニアといわれるマルセロ・ビエルサ氏がいます。2002年日韓大会で代表監督を務めたこのマルセロの「日本の愛弟子」と言われるのが、私が京都サンガで普及育成の部長などを務めたころに仕事をした荒川友康さんです。サンガのジュニアユース監督でした。
荒川さんがビエルサのシステム論やトレーニング論を記した『ビエルサ・ノート』(幻冬舎より6月刊行)を読むと、ビエルサは対人のトレーニングをほとんどしないそうです。
コーンや人形をコートに置いて守備に見立てて攻撃の練習をします。ボールの動かし方や、動かすタイミングなどアタックの原理原則、そこからの展開パターンなどを脳とからだにしみこませるのでしょう。
日本でも、選手がボールを受けに来て、タッチすると走り出すといった「かたちのトレーニング」をしますが、ビエルサはそれを徹底してやるわけです。
なぜそのような練習ばかりするのか。
それよりも、認知、判断をスムーズに行えるよう、あえて対人にしません。自分たちはこんなふうにボールを動かして攻撃するのだ。そこを全員が意思統一し、それを身につけるため対人練習にはしないのです。
いいタイミングでボールをもらいに来る。いいタイミングでパスを出す。
そうすると自分たちの攻撃したい「かたち」が作れるようになります。相手に合わせて攻撃をするのではなく、私たちはこんなスタイルでやるよっていうことを実現させるためのトレーニングという考え方です。
このやり方は、育成年代こそやるべきでしょう。ぜひ参考にしてみてください。
加えて、対人にするなら少人数制でミニゲームをしてください。
例えば、オランダの小学生は1960年代から4対4のゲームをしていました。オランダではカイト(凧)と呼ばれるダイヤモンドのかたちを4人が形成します。この4人のかたちをとりながら「どうして広がらなきゃいけないのか」「幅を取るとはどういうことなのか?」あるいは「深さが必要とはどのような意味か?」を小学生の間に理解させていきます。
日本の指導者は8人制の攻め方、守り方ばかりを研究する傾向がありますが、基本の考え方をもう少し伝えてほしいと私は思っています。
自分たちが広がることで相手が広がらざるを得なくなること。人と人の距離が空いているからこそパスが通る。そのようなサッカーのセオリーを脳とからだにしみこませてほしいのです。
例えば、その「広がり方」つまり、距離感は国によってもフィーリングが異なります。
W杯で気づかれたかと思いますが、南米のブラジル代表やアルゼンチン代表は1メートル広がれば、それでパスが通ると子どものころから思っているので、狭いところをどんどん行きます。
スペインは、3メートルから5メートルくらいの幅をいつも取ります。そういうなかでパスをするので、相手のディフェンスは振り回されてだんだん追いかけられなくなります。
それがイングランドの場合、味方同士で30メートルくらいの幅を取るため、長いボールがどんどん出てきます。そんな長いボールに頭や足で合わせる技術も持っています。
そうやってどの国も結局は自分たちが広がること、つまり適切な距離をとることで相手を困らせています。そして、それのことを育成年代から脳とからだにしみこませています。そういったことを日本でも子どもの間に理解させてほしい。
日本の場合は、恐らくスペインと同じような距離感でやるのがいいと思います。日本人はアジリティ(俊敏性)も高いので、ちょっと離れて細かく動くことは得意なはずです。それくらいの距離感でできるよう、育ててほしいと思います。
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(写真は少年サッカーのイメージです)
今回のW杯で、日本代表の選手が「やっぱり個の力が重要だ」といった話をしていました。それを聞いた日本の多くの指導者が「やっぱりドリブルだ」と、そんな個人戦術の方向に行ってしまうことが懸念されます。
代表の彼らが感じている個の力は「ここで簡単にパスを出される」とか「相手が一対一で強い」という個人の力だけの意味ではないように思います。もっとグループ戦術みたいなものがしっかりと身についているのではないでしょうか。
このグループ戦術を、小さいときからいかに磨いてあげるか。それが私たち育成の指導者に求められていることです。
池上正(いけがみ・ただし)
「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
W杯優勝のスペイン代表みたいに、幼少期からサッカーの知識や判断を身に着けるのが大事だと思うが、どんなトレーニングが良いのか。と悩むお父さんコーチからの相談。
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、マルセロ・ビエルサ氏のやり方なども挙げてお伝えします。
(構成・文島沢優子)
<お父さんコーチからの質問>
はじめまして。どうぞよろしくお願いいたします。
地域のクラブ(少年団でなく一応街クラブですが、規模も小さいし強くもない)で保護者コーチをしています。
(指導年代:U-11、U-12) 指導に当たってJFAのライセンスなども取得していますが、まだまだ難しいです。
担当は5、6年生なのですが、基礎体力や走るときの姿勢など体の使い方も気になりますが、何より課題は「判断力」だと感じています。
顔は上がっているけど「何が見えた」と聞いても目に入っていない(か記憶していない)など、スマホやゲームなどの影響で視界が狭いのか、そもそもの「認知」ができていない子が多いような気がします。ポジショニングが分かってない、などです。
海外のトレンドを追えばいいものではないと分かっていますが、先のワールドカップでスペイン代表が見せたような、幼少期から植え付けられたサッカーの認識、判断というのが大事だと思います。
座学でも動きのあるトレーニングでもいいので、判断力を身に着けるのにはどんな方法が良いのか教えてください。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
認知力、判断力をどう身につけるかという質問です。
■稀代の戦術マニア、マルセロ・ビエルサ監督は対人トレーニングをほとんどしないそう
2022年W杯カタール大会で優勝し、今夏開催された北中米大会は準優勝だったアルゼンチンには稀代の戦術マニアといわれるマルセロ・ビエルサ氏がいます。2002年日韓大会で代表監督を務めたこのマルセロの「日本の愛弟子」と言われるのが、私が京都サンガで普及育成の部長などを務めたころに仕事をした荒川友康さんです。サンガのジュニアユース監督でした。
荒川さんがビエルサのシステム論やトレーニング論を記した『ビエルサ・ノート』(幻冬舎より6月刊行)を読むと、ビエルサは対人のトレーニングをほとんどしないそうです。
コーンや人形をコートに置いて守備に見立てて攻撃の練習をします。ボールの動かし方や、動かすタイミングなどアタックの原理原則、そこからの展開パターンなどを脳とからだにしみこませるのでしょう。
日本でも、選手がボールを受けに来て、タッチすると走り出すといった「かたちのトレーニング」をしますが、ビエルサはそれを徹底してやるわけです。
■「かたちのトレーニング」を育成年代にこそやるべき理由
なぜそのような練習ばかりするのか。
アタックを最初から対人トレーニングでやってしまうと、選手はそこで戦ってしまいます。ボール取ったり、取られたり、取られないように頑張ったり。ガチャガチャした練習になってしまう。
それよりも、認知、判断をスムーズに行えるよう、あえて対人にしません。自分たちはこんなふうにボールを動かして攻撃するのだ。そこを全員が意思統一し、それを身につけるため対人練習にはしないのです。
いいタイミングでボールをもらいに来る。いいタイミングでパスを出す。
味方にとって最適なポジションにパスを出す。そうすれば、ディフェンスから実際につかれた場合でも、選手はそのなかでいいポジション取ろうとするし、相手がプレスに来たとしたらそれを回避するタイミングで動けるようになる。そんな考え方です。
そうすると自分たちの攻撃したい「かたち」が作れるようになります。相手に合わせて攻撃をするのではなく、私たちはこんなスタイルでやるよっていうことを実現させるためのトレーニングという考え方です。
このやり方は、育成年代こそやるべきでしょう。ぜひ参考にしてみてください。
■海外では育成年代から「適切な距離を取って相手を困らせる」を脳とからだにしみ込ませている
加えて、対人にするなら少人数制でミニゲームをしてください。
例えば、オランダの小学生は1960年代から4対4のゲームをしていました。オランダではカイト(凧)と呼ばれるダイヤモンドのかたちを4人が形成します。この4人のかたちをとりながら「どうして広がらなきゃいけないのか」「幅を取るとはどういうことなのか?」あるいは「深さが必要とはどのような意味か?」を小学生の間に理解させていきます。
日本の指導者は8人制の攻め方、守り方ばかりを研究する傾向がありますが、基本の考え方をもう少し伝えてほしいと私は思っています。
自分たちが広がることで相手が広がらざるを得なくなること。人と人の距離が空いているからこそパスが通る。そのようなサッカーのセオリーを脳とからだにしみこませてほしいのです。
例えば、その「広がり方」つまり、距離感は国によってもフィーリングが異なります。
W杯で気づかれたかと思いますが、南米のブラジル代表やアルゼンチン代表は1メートル広がれば、それでパスが通ると子どものころから思っているので、狭いところをどんどん行きます。
スペインは、3メートルから5メートルくらいの幅をいつも取ります。そういうなかでパスをするので、相手のディフェンスは振り回されてだんだん追いかけられなくなります。
それがイングランドの場合、味方同士で30メートルくらいの幅を取るため、長いボールがどんどん出てきます。そんな長いボールに頭や足で合わせる技術も持っています。
そうやってどの国も結局は自分たちが広がること、つまり適切な距離をとることで相手を困らせています。そして、それのことを育成年代から脳とからだにしみこませています。そういったことを日本でも子どもの間に理解させてほしい。
日本の場合は、恐らくスペインと同じような距離感でやるのがいいと思います。日本人はアジリティ(俊敏性)も高いので、ちょっと離れて細かく動くことは得意なはずです。それくらいの距離感でできるよう、育ててほしいと思います。
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■日本の指導者に求められること
今回のW杯で、日本代表の選手が「やっぱり個の力が重要だ」といった話をしていました。それを聞いた日本の多くの指導者が「やっぱりドリブルだ」と、そんな個人戦術の方向に行ってしまうことが懸念されます。
代表の彼らが感じている個の力は「ここで簡単にパスを出される」とか「相手が一対一で強い」という個人の力だけの意味ではないように思います。もっとグループ戦術みたいなものがしっかりと身についているのではないでしょうか。
このグループ戦術を、小さいときからいかに磨いてあげるか。それが私たち育成の指導者に求められていることです。
池上正(いけがみ・ただし)
「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。