3歳より両親の手ほどきを受け、1981年ウィーン市立音楽院に入学、翌年ウィーン・コンツェルトハウスでデビュー。その後ヨーロッパを中心に幅広く活動し、88年に帰国。群馬交響楽団、読売日本交響楽団のコンサートマスターを経て、97年NHK交響楽団のコンサートマスターに就任。1979年史上最年少で北九州市民文化賞、2001年福岡県文化賞、2014年有馬賞を受賞。2020年度第33回ミュージック・ペンクラブ音楽賞を受賞。九州交響楽団ミュージック・アドバイザー、リーデンローズ音楽大使、WHO国際医学アカデミー・ライフハーモニーサイエンス評議会議員。後進の育成にも力を注いでいる。
子どもに人気が高いピアノやヴァイオリンなどの 「音楽の習い事」 。しかし、親にとっては 「練習しない」「上達しない」 などの悩みが尽きません。 そこで、NHK交響楽団特別コンサートマスターで、 絵本『おんがくはまほう』 で子どもが音楽に出会う最初の扉を紹介した、ヴァイオリニストの 篠崎史紀さん(愛称まろさん) に、子どもの可能性を広げる音楽との触れ合い方や、親ができる最適なサポートについて伺いました。 後編では、 音楽の習い事でよくある悩み について、 親の対処法 をご紹介します。 【篠崎史紀(しのざき ふみのり)】 NHK交響楽団特別コンサートマスター及び九州交響楽団ミュージックアドバイザー及び福山リーデンローズ音楽大使。愛称“まろ”。3歳よりバイオリンの手ほどきを受け、1981年ウィーン市立音楽院に入学、ヨーロッパを中心に幅広く活動し88年帰国。群馬交響楽団、読売日本交響楽団のコンサートマスターを経て97年NHK交響楽団のコンサートマスターに就任。九州交響楽団ミュージック・アドバイザー、リーデンローズ音楽大使、WHO国際医学アカデミー・ライフハーモニーサイエンス評議会議員。現在は後進の育成にも力を注いでいる。 ■習い事が続かない…どうしたら? “ 自分からやりたいといったのに、 行きたくないと駄々をこねる ”という悩み、ピアノやヴァイオリンを習っている子どもを持つ親御さんなら、一度は経験があるのではないでしょうか。 音楽の習い事は、親も一緒に楽器を学んでいくことが、楽しんで続けていくコツだというのを前編でご紹介しました。 そして、 もうひとつ大切なこと があるとまろさんは教えてくれます。 「 子どもと『共通意識』を持つこと です。たとえば、サッカーや野球をみんながやりたがるのは、同年代の子が多く共通意識が持てるから。一緒に練習する友だちがいて、指導してくれる監督がいて、同じ目標に向かってがんばっていける。 子どもは一緒にものごとをやって欲しいし、 共感してもらいたい んです。 僕の生徒の中に、ピアノの発表会のために大好きなプリンセスの衣装を、おばあちゃんとお母さんと作りあげる女の子がいます。自分でドレスの絵を描いて皆で生地を買いに行き、ピアノを練習してる間におばあちゃんとお母さんが縫って完成させていくんです。こんな風に 共通する目標に向かって一緒に 進んでいける家庭の子は続くんです」 ■コレがあれば子どもは進んで続けていく! 共通意識 を持ってスタートできたら、子どもが進んで続けていくためにはどのようなポイントがあるのでしょうか。 「結局、子どもは 『好奇心』と『憧れ』 以外では動きません。僕は実家が音楽教室だったから、小さい頃から楽器を持ったお兄さんやお姉さんが家に出入りしていて、自然と憧れを持ち、真似してやるようになっていました。 ある怪獣が好きな3歳の生徒は、ヴァイオリンを持つ手を矯正するために、自分で手首に大好きな怪獣を巻きつけて、腕を真っ直ぐにする実験をしています。僕自身も小さい頃に ゾウと友だちになりたいと思って、動物園に楽器を持っていきそこで演奏したことがある んだけど、親はそれを止めなかった。そうやって自由にやっているうちにどんどん友だちは増えていくし、面白くなってくる。 ちょっとくらい反則技でも やりたい気持ち を尊重し、可能性や想像力を最大限に広げて、自分で考える力を与えると、子どもは自ら歩いていこうとする。その 『きっかけ』 を大人が 規制せずに与えてあげられるか で、続くかが決まります」 ■子どもにとっていい教室の見極め方 それでも「習い事に行きたくない」といった時に辞めさせるべきかの判断は難しいもの。そもそも子どもに合う教室はどう見極めればいいのでしょうか。 「親は 先生の肩書き などで決めようとするけれど、子どもにとっては意味のないこと。きちんとした先生ほど、当たり前に正しいことしか教えないんだけど、 子どもは「正しいこと」はまるで面白くない んです。 もちろんそれが合う子ならいいけど、親は子どもの性格を分かっているはずなので、その子に合っていないと感じるなら辞めるべき。どんなに経歴が素晴らしくても、合わない人と一緒に居るのは大人でも苦痛でしょ。 いちばんは、 子どもが興味を持った先生 のところに行くことです。先生が好きだと続きます。あとはなるべく 近いところ 、また 道中に興味のあるお店や寄り道したい場所 があるという動機でもいいと思います」 ■「家で練習しない」はどうすれば? たとえ相性のいい先生に出会えたとしても、普段から家で練習するかというとそうでないのが厄介なところ。まろさんは両親から練習しなさい! と言われたことが一度もないのだそうですが、プロの音楽家になるほどの腕になるには相当な練習量が必要なはず。幼い頃はどうしていたのでしょうか? ・未就学児のうちの習慣づけ 「練習は習慣づけるというのが大事! 僕の場合、憧れのお兄さんお姉さんが身近にいたことや、楽器ができると世界中に友だちができるといわれたのがきっかけだったけど、気づいたときには楽器を弾くことが習慣化していたんです。歯磨きをしない、お風呂に入らないと気持ちが悪いでしょ? それと同じように できれば未就学児のうちに習慣化 してしまうのがベスト 。 習慣づけがうまくいかない原因は 「親が先に結果を言ってしまう」 こと。『歯を磨かないと虫歯になるよ』というように子どものうちから忖度させてはダメ。先ほどもいった『好奇心』や『憧れ』をうまく活用するといいですよ」 すでに小学生になっている場合でも諦めずに、とにかく 「対話」 をすることが重要とまろさんは続けます。 「小学生になると人格が出来上がってくるので、その人格を否定することなく、本人の意見を聞き、親の意見もきちんと伝えて 対話を繰り返していく ことが大切です。 日本人は“皆までいわずに察して”となることが多いけれど、それではすれ違ってしまう。対話をすることは時間もかかるし面倒だけれど、 そこを省かない ようにしてください」 ■子どもが潰れてしまう?! 親のNG行動とは 親自身が時間に追われる毎日を送っていると、つい子どもにもスピード感や結果を求めてしまいがち。ほかの子よりも上達が遅いとヤキモキして、 「自分の子は向いていないのでは?」 と考えてしまうことも。 特に発表会などでは、否応なしにほかの子と比べてしまいます。そんな親御さんに向け、まろさんがアドバイスをくれました。 「親の競争心が強すぎると、子どもは潰れてしまいます。人と比較するのではなく、毎日その子自身がどうなのかが大事。 発表会が何のためにあるか というと、子どもの自立を促すもの、 自立のための訓練 です。 舞台の上に立ったら、何が起きたとしても最初から最後までひとりで解決しなくちゃならない。それまで何時間練習したとしても たった1回の本番で独り立ちするという体験 をするためのもの。 それを親が勘違いして、できていなかったことを指摘などしたら、子どもはやる気をなくしてしまいます。子どもが 自立しようと一生懸命やったことを褒めて あげましょう」 ■失敗して子どもが悩んでいたら? もし、子どもが発表会で失敗して落ち込んでいる時にどう手助けしたらいいかも悩みどころです。 「失敗は成功の証。失敗したことを“やっちゃった〜”と子どもが楽しめていたらオッケー。でも悩んでいたら、なぜできなかったのか、 一緒に考える時間を持つ ようにしましょう。 そのときに重要なのが、無理に答えを出そうとしないこと。『回答ありき』の接し方をしていると、大人の様子を伺うような子どもになってしまう。 要は、 答えが出ないことを議論して、『考える力』をつけることが大切 なんです。そうすれば 自ずと結果はついてくる はず」 ■音楽の才能やセンスは必要なの? 音楽の世界では、持って産まれた才能やセンスが必要なのでは?と考えてしまいます。世界を舞台に活躍してきたまろさんはどう考えているのでしょうか。 「たしかに、もともと音楽の才能やセンスを持っている子はいるので、ゼロとはいいません。でも、 環境がものすごく大事 。 だいたい 親御さんを見れば分かる んです。すごくファンタジックな子をみると親御さんが子どもと一緒にファンタジックに色々なものに興味を持って動いている。才能やセンスというものが存在するのであれば、それがいかに環境に左右されるものかが分かります。 『感性』 っていうのはどれだけ夢を見られるか。弟子たちにはよくモーツァルトの “夢があるから人生は輝く” という言葉を伝えています。その夢を持つのは子ども時代。 子どもが直感で感じるもの を大切にして欲しいです」 ■いずれ親のサポートなしで歩んでいける! 大人はつい先回りして結果を求めてしまいがち。しかし今回のまろさんの取材を通じて、一緒になって夢を見たり、答えのないテーマを延々と話し合ったりすることが、いかに子どもの将来のために大切かを感じました。 共有時間を惜しまず寄り添うことで、いずれ親のサポートなしでも歩いていけるようになる。まろさんのお話には、 心に留めておきたいヒント がたくさん散りばめられていました。子どもの音楽の習い事をどうしたものか…とお悩みの方は、まずはまろさんの絵本をお子さんと一緒に楽しんでみることから始めてもよいかもしれませんね。 \ ご紹介した書籍 / 『おんがくは まほう』 リトルモア刊 文/篠崎史紀 絵/村尾 亘 1,879円(税込) 音楽は、どんな気持ちも伝えてくれるよ。音を鳴らせば、ワクワクするような出会いがきっとある! NHK交響楽団の特別コンサートマスターを務め、「音楽は世界をつなぐ」と子どもから大人まで広く伝えてきた人気ヴァイオリニストの“マロさん”こと篠崎史紀による、初の絵本。 『おんがくは まほう』Amazon 詳細ページ
2024年12月27日人気の習い事といえば、 ピアノやヴァイオリンなど音楽 に関するもの。 非認知能力 が鍛えられる、 情操教育に役立つ などといわれる一方で、家庭では「練習しなくて怒ってしまう」「上達が遅くてヤキモキする」といった悩みの声も。 そこで、 絵本『おんがくはまほう』 の著者、NHK交響楽団特別コンサートマスターでヴァイオリニストの 篠崎史紀さん(愛称まろさん) に、 子どもの可能性を広げる音楽との触れ合い方 や、親ができる 最適なサポート についてお話を伺いました。 前編では、 音楽がもたらす影響 や 子どもが音楽を続けたくなる導き方 などをご紹介します。 【篠崎史紀(しのざき ふみのり)】 NHK交響楽団特別コンサートマスター及び九州交響楽団ミュージックアドバイザー及び福山リーデンローズ音楽大使。愛称“まろ”。3歳よりバイオリンの手ほどきを受け、1981年ウィーン市立音楽院に入学、ヨーロッパを中心に幅広く活動し88年帰国。群馬交響楽団、読売日本交響楽団のコンサートマスターを経て97年NHK交響楽団のコンサートマスターに就任。九州交響楽団ミュージック・アドバイザー、リーデンローズ音楽大使、WHO国際医学アカデミー・ライフハーモニーサイエンス評議会議員。現在は後進の育成にも力を注いでいる。 ■ヴァイオリンのおかげで世界中に友達ができた! ヨーロッパ各地の主要なコンクールで数々の受賞を果たし、活動の場を世界へ広げていったまろさん。長年ヴァイオリンを続けてきた背景には、 幼児教育の専門家の両親 に言われた 「ある言葉」 が大きく影響していると言います。 子どもが音楽に出会う最初の扉を描いたまろさんの絵本 『おんがくはまほう』 リトルモア刊 文/篠崎史紀 絵/村尾 亘 1,879円(税込) 右は「N響コンサートマスター」という肩書を超えて様々な活動をしてきたまろさんの音楽論をまとめた著書『音楽が人智を超える瞬間』 ポプラ社刊 1,100円(税込) 「子どもの頃から両親に “楽器ができると世界中に友だちができるよ” っていわれて。実際に僕はヴァイオリンがあったおかげで、人種や宗教が違っても世界中に友だちができた。 絵本(『おんがくはまほう』)の中ではそれを動物で表現し、肉食動物も草食動物も楽器を通じてどんどん仲間が増えて世界が広がっていく様子を描いています。 子どもたちには、人生のいちばんの宝物は、 『まわりに助けてくれる友だちがいること』 だというのを知って欲しい。僕の中で音楽は “最強のコミュニケーションツール” なんです」 ■分断も争いも超える「音楽の力」 そしてまろさんは音楽が持つ力についてさらに続けます。 「音楽には“結果”や“勝ち負け”がない。大人はすぐに優劣をつけたがるけれど、子どもがいちばん嫌うのは 人と比べられること 。音楽は上手い下手で決まるものでも、プロになるためにやるものでもありません。 人と人が繋がるためのもの です。 僕がオーストリアにいた当時は共産圏と西側諸国がはっきり分断されていてテロ行為も多かった。だけど、楽器があれば争っていた国同士も一緒に演奏し、演奏している間は平和だった。音楽にはそういう 『人智を超えた力』 があるんです」 ■音楽をやると「数学」に強くなる?! 他にも音楽には、これからの時代に求められる発想力や自己表現力が身に付くなど、さまざまな好影響があるとまろさんはいいます。 「楽譜は数学と似ているんです。時間軸と座標軸があって、そこで音程が決まる。音楽自体が数学(※音楽理論に数学が用いられることがある)だから、 音楽をやると数学に強くなります 。また、 音楽には答えがない 。毎日変化するんです」 「楽譜や様式があり完全に自由ではないけれど、その中で自由に発想していかないと自己表現ができません。さらに、合奏では違う考えを持つ人たちと互いを認め合いながら、自分の意見も通す必要があるので 協調性や発想力 が鍛えられます」 「決まった答えを出すというのは人間じゃなくてもロボットがいればできるでしょ? 5年先10年先に大切なのは、自由な発想 ではないでしょうか」 ■音楽はプロになるためにやるもの? 子どもの無限の可能性を秘めた「音楽」。まろさんが長年滞在していたヨーロッパ諸国では音楽と触れ合う環境がごく身近にあったそうです。 「宗教の違いはありますが、教会に行って賛美歌を歌ったり、ホームコンサートといって家の中で家族が演奏会をするなど、 大人と子どもが一緒になって音楽と触れ合う機会 がたくさんあるんです。 また、僕が行っていたウィーン市立音楽院(現ウィーン市立音楽芸術大学)では、プロになりたい人だけでなく、一般の大学と並行しながら音楽を楽しむために通う人もいました」 ・上手く弾くのが目的じゃない 日本では楽しむというより、習い事というケースが多く、技術を学ぶ目的になりがちです。 「日本は恥の文化といわれるように、子どもが上手く弾けないと親が体裁のためにやらせなくなってしまう。でも、 音楽はプロになることや上手く演奏することが目的ではありません 。 よく『音楽で飯が食えるのか』と聞かれるけれど、やりたければやればいいし、やりたくなければやめればいい。だって、法学部を出た人が皆弁護士や検事になるわけじゃないでしょ。それと同じで、 色々な選択肢に出会って興味もまた変化 していく。 結果 だけを考えて始めるわけではないはず」 ■「やりなさい」だけじゃダメな理由 では、子どもに音楽をさせたいと考えている親御さんは、どんな心がけで導いていけばよいのでしょうか。 「もし子どもが興味を持って音楽を始めたなら、まずは 親自身が下手でも演奏を披露して、そこから一緒に楽器をはじめてみるといい ですよ。 「やりなさい」って口だけ出しても、子どもが思い通りにならないのは当たり前。与えるだけならラクだけど一時的に相手からの提示を受け入れているだけで、自ら考えて行動しなくなります。 そして 『共有時間を持つ』 ことで子どもはどんどん楽しさを覚え 、そこから先にやっと 本人の意思で動くように なります 」 ・共有時間を作れない場合は、どうしたらよい? 世界中に友だちができ、発想力や表現力が身につく音楽。結果ばかりを求めずに親も共に楽しむことが 音楽を続ける秘訣 のようです。 とはいえ、共働きが増えてきた昨今。 子どもとの共有時間をつくるのが難しい という親御さんも多いのではないでしょうか。親ができるコトは、この他にもあるんです。それは 後編 でご紹介します。 \ ご紹介した書籍 / 『おんがくは まほう』 リトルモア刊 文/篠崎史紀 絵/村尾 亘 1,879円(税込) 音楽は、どんな気持ちも伝えてくれるよ。音を鳴らせば、ワクワクするような出会いがきっとある! NHK交響楽団の特別コンサートマスターを務め、「音楽は世界をつなぐ」と子どもから大人まで広く伝えてきた人気ヴァイオリニストの“マロさん”こと篠崎史紀による、初の絵本。 『おんがくは まほう』Amazon 詳細ページ
2024年12月27日