弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。
節分の豆まきは、日本の伝統文化。「鬼は外」と家の外に豆をまくことは、多くの日本人が当たり前のようにやっていることです。このような伝統文化が違法になるかについては、とても微妙な問題のため、これまであまり語られてきませんでした。 しかし、時代が進むにつれて伝統文化の捉え方も変化してきていますし、外国人の方も大勢日本で暮らすようになってきていますので、これからトラブルが起きることも考えられます。そこで、あえてこの微妙な問題を考えてみたいと思います。 ■マンションの共有スペースに豆をまいたら? 分譲マンションであっても、賃貸マンションであっても、廊下などの共用スペースは 「用法(用方)」 に従って使用しなければなりません。例えば、廊下は通路のために存在しますので、そこに荷物やゴミを放置することは用法違反になるでしょう。 しかし、節分の豆まきは、先ほど説明したように伝統文化(これを法律用語的には「慣習」といいます)として認められています。そのため、自室のドアを開け、廊下などの共用スペースに「鬼は外」と豆をまいても、ほとんどの場合 「用法違反」にならない と考えられます。 ただし、マンションの管理規約等で豆まきが禁止されているときは、規約等が優先しますので、「用法違反」になります。不安な方は、大屋さんや管理会社に問い合わせてみてもいいかもしれませんね。 また、まいた豆を放置するのは、ゴミを放置することと一緒だとも考えられますので、まいたあとはきちんと掃除をしましょう。 ■家の前の道路に豆をまいたら? まいた豆をそのまま放置すると、結局はゴミになってしまいます。そのため、道路に豆をまいた場合には、 廃棄物処理法 や各市町村の ポイ捨て禁止条例、軽犯罪法の違反 (いわゆる不法投棄)にならないかが問題となりそうです。 ただ、これらの法律違反になるには、それが正当な理由なく行われた場合となります。節分に家の外に豆をまくことは、伝統文化・慣習として認められており、正当な理由があると考えられますので、法律違反になる可能性はとても低いといえるでしょう。 ただ、常識の範囲を超える量の豆をまいたり、鳥などをおびき寄せて嫌がらせしようなどの悪意をもって他人の家の前にまいたりすれば、正当な理由はないとして、法律違反になる可能性もあります。 ■豆まきで気をつけるべきこと 豆をまくとき故意に人の顔にぶつければ、当然「暴行罪」になりますし、目などに入ってけがをさせれば「傷害罪」や「過失傷害罪」にもなります。 よく考えずに高層階の窓の外にまいて、下にいた人に当たってけがをさせれば「過失傷害罪」になる可能性もあるでしょう。常識やマナーをもって楽しんでください。 節分の豆まきは、歴史ある日本の伝統文化です。悪用することなく、お互いに常識を守りながらこの文化を絶やさないようにしたいですね。
2017年01月31日このお正月に家族で初詣に出かけた方は多いのではないでしょうか。初詣では、神社によって「御神酒(おみき)」を振る舞ってくれるところがありますね。御神酒は神様にお供えした神聖なものですが、当然アルコールの入った立派なお酒です。 日本で古くからあるこの御神酒、はたして未成年者が飲むことは法律上許されるのでしょうか。 ■未成年者の飲酒は「処罰」の対象? 「未成年者はお酒を飲んではいけない」。このことは皆さんご存じのことと思います。では、未成年者がもしお酒を飲んでしまったら、罰金を払ったり、刑務所に行かなくてはいけないのでしょうか。 正解は、罰金を払ったり、刑務所に行く必要は「ない」です。 未成年者の飲酒については 未成年者飲酒禁止法 という、大正時代にできた法律があります。名前からも分かるとおり「未成年者はお酒を飲んではいけませんよ」ということが定められている法律です。 しかしこの法律は、未成年者の飲酒禁止を定めていますが、罰則を定めていません。ここで知っておきたいのは罪刑法定主義といって、人を処罰するときには法律等で罰則を定めておかなければならないということです。 つまり、罰則が定められていない以上、 未成年者が飲酒をした場合は違法であっても罰則は受けない のです。ただし、だからといって飲酒して良いということではありません。また、未成年者の親が未成年者の飲酒を知りながら止めなかった場合や、酒類を提供するお店が未成年者と知りながら酒類を提供した場合は、法律に罰則が定められているので、処罰されることになりますのでご注意ください。 ■結婚したら「成人扱い」と聞いたけれど… 未成年者が売買契約などの法律行為をする場合、一定の例外を除き、法定代理人(通常は両親であることが多いです)の同意が必要となります。この同意なくされた未成年者の法律行為は、取り消すことができます。 しかし、結婚するとなると家を借りたり、大きな買い物をすることも多くなると思います。その際に、毎回親の同意が必要となると非常に不便です。そのため民法は、未成年者が結婚した場合には例外的に成年に達したとみなし、法定代理人の同意を不要としたのです。 このような 婚姻による成年擬制(せいねんぎせい) は、上記のような不都合を回避するための例外なのです。したがって、その効力は民事上の契約等に及びます。 一方、飲酒・喫煙の規制はまだ発達途上にある未成年者の健康面を考慮したものなので、成年擬制の趣旨が妥当しません。したがって、未成年者が結婚したとしても、飲酒行為が合法になるということはありません。 ■お正月の御神酒は許される!? 厳密にいえば、御神酒であっても飲酒にはかわりないので違法でしょう。ただ、お正月に御神酒を飲むことは日本の風習とされていますので、事実上問題視されていないだけだと思います。 もちろん、親が子どもに御神酒を飲ませるということは違法のおそれが高く、かつ罰則もあるので、もちろん避けるべきでしょう。 ■まとめ 未成年の飲酒禁止は、未成年者の体の健全育成を考慮して定められたものです。 酒は百薬の長ともいわれます。とはいえ未成年のうちはガマンして、20歳の誕生日に乾杯をするのが、もっともおいしいお酒の飲み方ではないでしょうか。お酒はハタチになってから、ですよ!
2017年01月09日