映画『白鳥とコウモリ』台湾の気鋭のカメラマン羅偉恩が見た、松村北斗の演技のグラデーションと説得力

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映画『白鳥とコウモリ』台湾の気鋭のカメラマン羅偉恩が見た、松村北斗の演技のグラデーションと説得力


東野圭吾のベストセラーを映画化した『白鳥とコウモリ』。容疑者の息子と被害者の娘という、本来なら敵対する立場に置かれた主人公を、松村北斗と今田美桜が演じている。物語が進むにつれて少しずつ姿を変えていく関係性を、表情のグラデーションで見事に体現してみせる2人。その豊かな感情の機微を、台湾出身の撮影監督・羅偉恩(ウェイン・ロー)はどう受け止め、映像に刻んだのか。羅氏のインタビューを踏まえ、2人の魅力に迫る。

弁護士・白石健介が何者かに刺殺される事件が発生。容疑者として浮かび上がった倉木達郎はあっさりと犯行を自供し、事件は解決したかに見えた。しかし、達郎の息子・倉木和真と、健介の娘・白石美令は、それぞれの父の言動に違和感を抱く。
「なぜ父は殺人を犯したのか?」「なぜ父は殺されなければならなかったのか?」――

『白鳥とコウモリ』は、本来であれば近づくことのなかった容疑者の息子と被害者の娘が、事件の真相を明らかにするために手を取り合う。関係性が変化していく中で、疑念と共感の間で揺れ動く2人の表情に、観る者は引き込まれる。

その時々の感情を繊細に切り取るのが、台湾出身の撮影監督・羅偉恩(ウェイン・ロー)のカメラだ。台湾と日本、両方の映像作品づくりを知る彼は、この映画にどう向き合ったのか?

松村北斗の演技の幅、今田美桜の眼差し


「脚本と原作小説を何か月もかけて丁寧に読み込みました。この作品は、人間の心の中にある光と影が切り替わる様子を描いた見事な物語だと思います」という羅氏。並々ならぬ情熱を持って臨んだ彼のストーリーに対する解像度は高い。「登場人物たちの運命が交錯し、すべてを変えていく。東洋の古典的な世界観にある陰と陽、光と影を連想し、運命とは、まるで太陽の光の角度が絶えず変化していくようなものだと感じました」

本作では登場人物、とりわけ和真と美令という対立する立場で出会った主人公2人を演じる松村北斗と今田美桜の繊細な芝居が印象に残る。
もともと、演技力と“華”も持ち合わせた2人だが、この作品の和真と美令は思いがけず殺人事件に関係者になってしまったごく普通の若者だ。それでも2人には大画面を“持たせる”引力がある。カメラマンがファインダー越しに見た、2人の俳優としての魅力とは?
「松村北斗さん主演の『夜明けのすべて』は好きな作品でしたし、『白鳥とコウモリ』の撮影に向かう飛行機の中でも、たまたま松村さん主演の『ファーストキス 1ST KISS』を見ていました」という羅氏。その頭の中では、ある程度、松村のイメージが出来上がっていたに違いない。撮影現場で初めて本人と会った時は驚いたという。

「それまで他の作品で見てきた松村さんとは、演技のスタイルが全く違った。彼の演技の幅の広さに驚嘆しました。もう一つ魅力的だと感じたのは、喜び、焦り、悲しみ、松村さん演じる倉木和真のどの感情をとっても、グラデーションがはっきりしていて、説得力があるのです」

松村を撮ることは、カメラマンとして「とても楽しい経験だった」という羅氏。
今田についても、撮影をしながら思わずカメラを近づけたい衝動にかられたそうだ。

「今田美桜さんの眼差しは、実に多くのことを語っていました。台詞のないカットでも、彼女の目からは、さまざまな複雑な感情を感じ取れる。クローズアップを撮るときは、無意識のうちにもっとカメラを近づけたい、彼女の瞳が伝えようとしている感情を直接受け止めたいという気持ちになりました。私たちはこの澄んだ眼差しに導かれながら、光と影に満ちたこの物語を一緒に探っていったのだと思います」

映画の終盤、羅氏が印象に残っているというシーンがある。

「松村さんと今田さんが街で会話をする場面です。まず今田さんのクローズアップから撮影しました。今田さんはリハーサルの時から涙を流しており、私も思わずもらい泣きしてしまいました。
彼女の真摯な眼差しは本当に人の心を打ちます。その後、カメラの後ろで松村さんが今田さんに語りかけていたことに気づきました。私は、優れた俳優2人の間に生まれる共鳴のエネルギーに感動していたのです。その瞬間、カメラと一緒に2人の間に挟まれていた私は、とても幸福でした」

眼差しを強調した撮影と、人物を表わす色と光


日台合作映画『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』(2026)、台湾ドラマ「一筆お祓いいたします」(2023/各種プラットフォームにて配信中)や「もしも太陽を見なかったなら」(2025/Netflix配信中)など、羅氏の撮る登場人物は美しい。心に闇を抱えた人物でも、瞳に吸い込まれそうな引力がある。『白鳥とコウモリ』でも、見る側の意識が、自然と和真と美令の目に向かう。もちろん、俳優の力も大きいのだが、撮影時に意識したことはあるのだろうか?

「私は日本語の台詞をすべて理解できるわけではないので、感覚のすべてを登場人物たちが放つエネルギーを捉えることに集中していたように思います。

重要な瞬間には、正面からのクローズアップで登場人物を直接的に見せるべきか、それとも表情を少し隠すことで、より悲しみを感じさせるものにするのか、そうしたことをずいぶん考えました。
カメラアングルにしても、光の明暗にしても、常に意識していたのは、その瞬間の感情をより豊かに表現することです。

私は人物の眼差しを強調するため、目元だけを引き立てる小さなライトをよく使います。ポストプロダクションのカラーグレーディングでも、カラリストの蘇佩(スー・ペイ)さんと一緒に、この映画が伝えようとするメッセージを表現するため、人物の眼差しを強調することに時間を費やしました」

「光と影、そして空間そのものが、その瞬間の登場人物の心情に寄り添うようにしたかった」という羅氏。カラーコンセプトについても、美術や衣装デザインのスタッフと連携しながら、登場人物ごとに色を作り上げていった。

「例えば、和真には、まるで彼自身を包み込む鎧のような青系の色を使いました。影で息をひそめ、自分を守っているような感覚です。この青と影を物語の展開とともに変化させ、できるだけ彼が直面する苦境を表現しようとしたのです。一方の美令は、当初から赤というイメージを持って撮影していました。
執念や炎のようなエネルギーを表す色です。彼女がいる空間には比較的明るい光を使い、真実を追い求めようとする彼女の力強さを表現しました」

羅氏が過去に手がけた作品を観ると、光の使い方が印象的なアート系の作品が多い。一方、本作の岸善幸監督はドキュメンタリー出身で、どちらかといえばリアルな質感の作品を得意とする監督だ。

「準備段階の打ち合わせで、岸善幸監督が『美しいだけの画は必要ない。自分の子どもや、まだこの物語に出会ったことのない、あらゆる年齢層、あらゆるタイプの観客が理解できる映画を撮りたい』とおっしゃった。その言葉に、私はかなり考えました。

私は光と影を愛していて、それまでの仕事の準備段階では、それぞれのシーンにふさわしい雰囲気を映像でどう作り出そうか考えてきました。でも、『白鳥とコウモリ』のチームに加わってから気づいたのは、この推理小説の映画化においては、大勢いる登場人物が、それぞれ、なぜそのような選択をするのかを理解し、運命へと足を踏み入れていく心の変遷を観客に理解してもらうことが何よりも重要だということでした」。
そこで、本作でもこれまでと同様、光と影をデザインしつつ、「すべての力を登場人物の感情を表現することのために注いだ」という。

国境を越えた映画づくりは「心が開かれていく」


合作を含め、羅氏が日本の映画に参加するのは2作目。どのようなきっけで、日本のフィルムメーカーと仕事をするようになったのだろうか?

「2016年、日台合作映画『ボーダレス アイランド』のカメラマンに応募し、思いがけず選ばれて、2017年に沖縄と台湾で撮影しました。同作の助監督は松尾崇さんで、私たちは仲の良い友人になり、その後もずっと連絡を取り合っています。松尾崇さんは岸監督と何本もの映画で組んでおられ、彼の紹介がきっかけで、今回『白鳥とコウモリ』への参加が実現しました。

私はこの世界に入ったのが比較的遅く、大学院に入ってから撮影を学び始めました。映画撮影を学ぶ前に、同級生が岩井俊二監督の『花とアリス』を見せてくれたことをよく覚えています。アリスがオーディションで踊る場面を見て、心を揺さぶられ、それがきっかけで撮影監督になりたいという思いが生まれました。

映画を学び始めてから、好きになった撮影監督は、篠田昇さん、山崎裕さん、そして李屏賓(リー・ピンビン)さん。この三人は、私にとって最初のヒーローでした。

私は心から日本映画が好きで、とても近しいものを感じています。おそらく、日本映画の中の、言葉では表現しきれないたくさんの場面が、私の中の何かと共鳴しているのだと思います」

国境を越え、海外のチームと一緒に映画を作っていると、「心が開かれていくように感じる」ところが面白いという。

「台湾だけで仕事をしていたら、参加できる作品のテーマが限られてしまいます。たとえば日本では、台湾より数多くのテーマの映画を目にすることができますし、私が好むアート系の映画もはるかに多い。

また、国が違えば、映画人が大切にしていることも異なることに気づきます。リアリティを大切にする人もいれば、柔軟で突発的な変化に対応できることを大切にする人もいるし、今作っているものが十分に独自性を持っているかどうかを大切にする人もいる。固定観念から離れ、新しい創作の道を見つけられるというのは、とても魅力的です。

これまでの経験を考え合わせると、見えてくる共通言語は“感情”です。もし、その映画の感情が真摯なものであれば、異なる文化の中にあっても、人の心を動かし、感動させることができるのだと思います」

真摯な感情は、言語の壁を越えて観る者の胸を打つ。あなたも劇場で『白鳥とコウモリ』が語る“感情”とは何かを、その繊細な映像から感じ取ってほしい。

『白鳥とコウモリ』は全国にて公開中。

(新田理恵)

■関連作品:
白鳥とコウモリ 2026年9月4日より全国にて公開
©2026「白鳥とコウモリ」製作委員会

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