ソロシネマ宅配便 第11回 「巻き込まれ俳優」藤原竜也が“リバイバル” - 『僕だけがいない街』
コンビニのレジ袋が有料になった。
レジには透明ビニールシートがかけられ、店員と客それぞれが当然のようにマスクを着用している。これが2020年夏の日本の風景だ。誰がこんな未来の風景を想像しただろうか。コロナ前後の世界観は、映画やドラマの物語を創作する際、携帯電話の登場前後くらいの価値観の変容があるだろう。ふと気を抜くと、どこか違和感のあるもうひとつの世界に放り込まれたような感覚に襲われてしまう。
まるで映画『僕だけがいない街』(2016年)である。「コレ読んで漫画 RANKING」1位獲得の人気漫画『僕だけがいない街』(三部けい/KADOKAWA)を平川雄一朗監督、春名慶プロデューサーらが映画化。
アニメ化やNetflixの連続ドラマにもなっているが、それらとは違う映画版の結末も話題となった。
○■“キング・オブ・巻き込まれ俳優”藤原竜也
物語は時間が巻き戻る“リバイバル”に巻き込まれた29歳の藤沼悟が、現在の「2006年」と過去の「1988年」のふたつの世界を行き来することで展開する。自身が無実の罪を着せられ、犯人に間違えられた指名手配中の2006年母親殺害事件と、18年前の少年時代に遭遇した連続誘拐殺人事件の真犯人に迫るのだ。
主人公の悟を演じるのは「世界一、何かに巻き込まれる男」の称号を持つ“キング・オブ・巻き込まれ俳優”藤原竜也である。もうこの時点で本作は娯楽作品として一定のラインはクリアできている。舞台仕込みのアクションで「ええっ?オレ?なんで?なんなんだよっ!ちくしょー!うおおおっ!」キャラをやらせたら右に出る者はいない。アニメ、ドラマ、映画とすべて見たが、やはり映画版の藤原竜也の存在感はデカい。今の巨人における4番岡本和真クラスにデカい。
○■29歳の意識のまま10歳の身体に“リバイバル”
自分の置かれた状況に戸惑いながらもその状況でベストを尽くすという『バトル・ロワイアル』シリーズ、『カイジ』シリーズ等でも多く見られた安定のザ・藤原竜っつぁんワールド。そこに現代のアルバイト仲間として片桐愛梨(有村架純)、母親の佐知子(石田ゆり子)らが絡み、物語は進む。
さらに悟は29歳の意識のまま10歳の身体に“リバイバル”して、誘拐犯の犠牲者となる同級生の雛月をなんとか救おうと手を尽くす。正直、原作付き謎解き要素のある映像作品の弱点として、多くの観客に怪しい人物は早い段階で分かってしまうが、そこはあまり重要ではない(焦点がぼやける文章や漫画のコマ割りとは違い、スクリーンにはある程度の情報が入ってしまう)。
少年時代の悟(中川翼)、雛月加代(鈴木梨央)といった子役の演技もナチュラルで、1988年という時代背景の作り込みがまた抜群だ。
めちゃくちゃ個人的な事情で恐縮だが、藤原竜也とはまったく面識はないが、出身地が近く高校時代のクラスメートが「中学の友達の弟が格好良くてさあ。なんかスカウトされたらしいよ」と言っており、今思えばそのイケメンの弟が藤原竜也だった。たぶん、彼とは数年のズレがあれど埼玉の片隅で同じような風景を見て育ったはずだ。
だから、その子供時代の設定で、巨人の野球帽を被って走り回るガキや「ドラクエIII」が出てくる1988年の映像がやたらと沁みる。
少年はいつの時代も突発的な正義感に燃えるが、その度に無力な自分と向き合うハメになる。ヒーローになりたい“理想”と思うように動けない“現実”の狭間であがくのだ。そのズレを埋めるのが、本作における時間を巻き戻す“リバイバル”なのかもしれない。少年時代の記憶はその後の人生を生きる上で誇りにもなれば、足枷にもなる。
そんなことを考えながら、おじさんになった自分は『僕だけがいない街』を僕だけしかいない部屋でひとり見た。本作は謎解き要素は薄い。だが、藤原竜也要素は濃い。
それはつまり、オススメの1本ということである。