黒字転換から6期連続の増収増益 - 好調のBS11、その裏にあるコンテンツ戦略とは
無料放送のBS11(日本BS放送)が好調だ。10月7日に発表された通期(2014年9月~2015年8月)の業績は、売上高12.7%増と計画を上回る数字で、黒字転換した2010年8月期から、経常利益ベースで6期連続の増収増益。今年度は売上102億円と大台を狙う。
この好調の要因は、BS放送受信機の普及による市場規模の成長も大きいが、衛星メディア全体の広告費(2014年)が前年比9.6%増という中で、BS11がそれを超える売上の伸び率を記録している背景には、内部制作にこだわったコンテンツ戦略もあるようだ。
後発局であるのに加え、長年番組を作り続けてきた地上波の関連会社である他の無料BS局と違って、地上波番組の再放送ができないなど、BS11はコンテンツ面でハンデを抱えているように見える。しかし、BS11の取締役で、編成局・制作局を主管する二木啓孝氏は「逆に言うと自由に作れるということ」と前向きに捉えている。
この考えを元に、長年、日刊ゲンダイで報道現場の取材経験を積んできた二木氏が実行したのは「報道局」を設置し、「自前で毎日報道番組をやっていく」ということ。しかし、日々のストレートニュースを追いかけるのは、人員確保の面などからも困難であるため、「1テーマをじっくりやる」という方針を設定。
テーマに基づいた政治家や官僚、経済人、評論家といった話題の当事者をゲストに迎え、深掘りしていくというスタイルを採った。モデルとなったのは、米CNNで25年間にわたり放送されてきた『ラリー・キング・ライブ』だ。
こうして2007年12月の開局当初からスタートしたのが、二木氏自身もキャスターを務めてきた、平日夜のニュース番組『本格報道 INsideOUT』。このスタイルは成功を収め、現在も『報道ライブ21 INsideOUT』(毎週月曜~木曜21:00~21:54)として放送されている。
これを受けて先発局でも、次々に1テーマを掘り下げた報道番組を開始。『BSフジLIVE プライムニュース』(BSのフジ、2009年4月~)、『BSニュース 日経プラス10』(BSジャパン、2013年4月~)、『深層NEWS』(BS日テレ、2013年9月~)といった番組は、今や各局の看板とも言える存在になっている。もう1つの内部制作にこだわったコンテンツの柱は「旅と歴史」。BSの視聴者は、地上波の派手なバラエティを敬遠する世代が多く、同局もメインのターゲットとする「60歳±10歳」に好まれるジャンルだ。
旅モノと言っても、やはり地上波でやっている"路線バスの旅"のようなバラエティ色の強いものでなく、ゆったりと楽しめるスタイル。カメラの撮り方やBGM、テロップの出し方に至るまで、大人世代が見やすいよう細かい演出面にもこだわっているという。
このジャンルは、特に平日夜(20:00~20:54)枠において、月曜『とことん歴史紀行』、水曜『日本ほのぼの散歩』、木曜『京都・国宝浪漫』、金曜『至福の癒し旅~美しき世界へ~』と集中編成。火曜日はこの10月から、歌舞伎俳優・尾上松也が、古地図を片手に日本各地を探訪する『尾上松也の古地図で謎解き!にっぽん探究』をスタートさせた。この番組は、同局で初めて、番組単独の記者会見を行ったほどの10月改編の目玉であり、二木氏も「イチオシです」と力が入る。
このように、内部制作の強みを生かして明確にターゲットを捉えた戦略で、それに見合った視聴者を獲得。これによってスポンサーからの信頼も勝ち取り、CM出稿が軌道に乗り始めた。
●視聴者開拓、ブランド構築…将来展望は
しかし、「60歳±10歳」のみに向けて番組作りをする訳にはいかない。
そこで、次世代のメイン視聴者の確保も見据え、深夜帯に無料BS局最多というアニメ放送枠を持っている。TOKYO MXなど地上波でも独立局は、深夜帯のアニメが活況だが、そうした局がない地方の視聴者は、無料の全国放送であるBS11を重宝しているようだ。放送だけでなく、同局は毎年、アニメの総合イベント「Anime Japan」(2013年までは「東京国際アニメフェア」)に出展。また、作品への製作出資も行うなど、積極的な姿勢を見せる。
とはいえ、深夜のアニメ視聴者は、「60歳±10歳」と、まだまだ世代が離れている。このため二木氏は、将来的な展望として、この間に位置する世代をターゲットにした番組を編成していきたいという。50代をターゲットにしながら、40代、30代も取り込んでいくイメージで、ジャンルは「やわらかい情報系かな」と構想を語る。
二木氏は、BSの市場について「まだ伸びしろがある」と、さらなる成長を予測。
しかし、「BSを知っていても、まだ見に来ない人はいるので、その方たちをどのように誘導していくか」と課題を挙げる。
その中にあって、これまで述べてきたコンテンツの充実化に加え、テレビ局としてのブランドイメージの構築をさらに進めていく方針にある。そのブランドとは、番組の柱である「旅と歴史」というジャンルに加え、同局本社屋が、学生街で書店街も近い東京・御茶ノ水に立地することにも起因する、"文化のまちのテレビ局"だ。社屋正門のアーチは、歌人・与謝野晶子も創設に関わった専門学校「文化学院」が戦前に建てたもので、まさに文化の風格が漂う。
そのブランド発信を強化するため、今後は、社屋内でのイベントや公開収録を行っていく計画。レギュラー番組の演芸寄席や、本を扱った番組のイベントなどが想定されており、"文化のまちのテレビ局"のイメージをさらに後押ししていくものになりそうだ。