東京電力が高効率LNG火力発電への切り換えを急ぐ理由
2016年4月に電力自由化を迎える。加えて東京電力の場合、燃料・火力発電事業の「東京電力フュエル&パワー」、一般送電事業の「東京電力パワーグリッド」、小売電気事業の「東京電力エナジーパートナー」に分社化。それぞれを東京電力ホールディングスの傘下に置いて、事業展開していくことになる。まさに大きな地殻変動が訪れるといってよい。
事実、東京電力 フュエル&パワー・カンパニーの経営企画室長 酒井大輔氏は、「電力自由化とホールディングス制への同時移行は電力会社では初となり、私たちにとって大変なチャレンジになる」と身を引き締める。
これまで東京電力は、首都圏を中心にした固定された市場の中で、競争相手不在という環境で事業を続けてきた。だが、電力自由化を迎えることで、ほかの地域で電力供給を行ってきた会社や、石油・ガスなどのエネルギー企業との競争を強いられることになる。それは、小売部門とは直接関係しない燃料調達・発電を手がける東京電力フュエル&パワーも例外ではなく、ほかの発電事業者と市場でせめぎ合う構図が生じる。
加えて東京電力はただ単に競争に勝てばよいというわけではない。得た利益を福島復興の原資に充てなくてはならないという重い責任も負っている。そうした厳しい環境にある東京電力の燃料調達・発電部門が取り組まなくてはならないのは「調達規模拡大」と「燃料費削減」の2点といえるだろう。
○中部電力と合弁会社を設立した意味
2015年4月に東京電力と中部電力は、燃料上流(掘削など)・調達から発電までのサプライチェーン全体を統合し、国際競争力のある電力・ガスの供給を行える会社として「JERA」を設立した。これはまさに燃料の調達規模拡大に向けた動きで、「供給先の多様化」と「大規模数量のコミットによる好条件の獲得」への施策だという(酒井氏)。調達規模拡大だけではなく、輸送タンカーを東京電力と中部電力で融通し合うなど、フレキシブルな運用で最適化を目指す。
一方、燃料費削減について、東京電力は「高効率LNG火力発電」に期待を寄せている。火力発電のおもな燃料は、石炭、LNG(液化天然ガス)、石油などだが、記述した順で燃料費を抑えられる。
もっともコストを抑制できるのは石炭だが、排出する二酸化炭素量に問題があり、石油はコストがかかるうえやはり二酸化炭素の排出量に難がある。気候変動枠組条約第21回 締約国会議「COP21」が今まさに開催中で、温暖化対策に向けて各国が枠組み作りを目指している時代にこれらによる発電力強化は考えにくい。
その点LNGは、発電コストがあまりかからず二酸化炭素の排出量も少なくて済む。実際、東京電力の火力発電所15カ所のうち、LNG火力が大部分を占める。東京電力の2014年間発電電力量のうち、67%がLNG火力によるものだったことをみても、その重要性が分かるだろう(水力・新エネルギーなどを含む)。
●世界最高水準の高効率LNG火力を急ピッチで建設
だが、単にLNG火力であればよいというわけではない。発電効率の高い最新式のLNG火力へ移行することで、発電コストを押し下げることが必要。特に東京電力は、前述したように重い責任を負っており、ライバル企業以上に利益追求に努力しなくてはならない。
こうした情勢の中、東京電力火力発電のモデルケースといってもよいのが川崎火力発電所だ。この発電所で採用されているのは「MACC」(More Advanced Combined Cycle)と呼ばれる発電プラント。これは、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた発電システムで、1500℃の高温燃焼ガスによりガスタービンを稼働させ、熱効率約59%を実現している。ちなみに熱効率とは燃料の持つエネルギーを100とした場合、電気エネルギーをどれだけ取り出せたかを示すもの。約59%という数値は、東京電力のどの火力発電所よりも高い。
川崎火力発電所では、現在、1号系列「1軸」「2軸」「3軸」、2号系列「1軸」の計4軸のMACC発電プラントが稼働している。それぞれ50万kWの出力を有しており、計200万kWの発電が可能だ。さらに2号系列「2軸」「3軸」に71万kWの出力となる「MACC Ⅱ」発電プラントを急ピッチで建設中。
これはMACCよりもさらに高温な1600℃級の燃焼ガスを利用した発電プラントで、世界最高クラスの熱効率約61%(暫定約58%)を目指す。
なお、この2号系列2基の発電プラントは、「2軸」が平成28年7月、「3軸」が平成29年7月に営業運転開始予定だったが、それぞれ平成28年1月、平成28年10月に前倒しさせた。これは少しでも設備効率化を早め、燃料使用量を低減するためだという。
さらにガスタービン稼働時に発生する排熱を回収し、その熱で作った蒸気を付近のコンビナートに提供する取り組みを実施している。通常、各工場はそれぞれ蒸気ボイラを設置して原料の加熱などを行うが、この取り組みによりその必要がなくなる。現在、千鳥・夜光コンビナート地区の10工場が川崎発電所の蒸気を利用。年間で原油換算約2.0万キロリットルの燃料、約4.6万トンの二酸化炭素排出量の削減効果があるという。
高効率の発電プラントを導入したり、排熱を利用した事業を開始したりと、収益向上のための施策を進める東京電力。
電力自由化は、原発事故の影響による顧客離れを生む可能性はあるが、これまでリーチできなかった地域にアプローチしたり、グローバルでエネルギー事業を展開したりと、好機とも捉えられる。企業収益力を強化して、福島復興へと役立ててもらいたい。
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