海洋循環にも「パラレルワールド」が存在? - JAMSTECと東大
同成果は、JAMSTEC アプリケーションラボ 野中正見グループリーダー代理、東京大学 先端科学技術研究センター 中村尚 教授らの研究グループによるもので、2月1日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
今回、同研究グループは、初期値などにわずかなばらつきを与えて複数の数値実験を行う「アンサンブル実験」という手法を用いて、年々変動する「全く同一の」風を与えながら、風以外の条件をわずかに変え、海洋の循環を現実的に再現するため、JAMSTECのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」によるシミュレーションに着手した。アンサンブル実験は大気循環の研究分野ではよく用いられている手法だが、これを海流の年々変動研究に導入したのは同研究が初めてだという。
この結果、「風の変動と関係なく海の中で勝手に起きる」変動が存在することが明らかになった。また詳しい解析から、黒潮続流の年々変動では「風の変動と無関係に生じる」変動量と「風の変動によって生じる」変動量がほぼ等しいことがわかった。これは、現実に観測されるのはひとつの状態でも、同じ条件下で異なる状態が起きていても不思議ではない、つまりパラレルワールドが存在しうることを意味する。
いくつものパラレルワールドのどれが実現するかを予測することは不可能なため、黒潮続流には本質的に予測不可能な成分が半分程度含まれていることになる。このように予測不可能な成分を考慮し、できるだけ確からしい予測を実現するには、わずかに条件を変えた予測を多数行う手法「アンサンブル予測」が有効とされ、天気予報など大気循環の分野で用いられている。これまで海洋の年々変動は、基本的に風の年々変動によって生じるものと考えられていたが、海洋循環をより確からしく予測するためには「風の変動と無関係に生じる変動」の存在を加味した予測が不可欠であることが明らかになった。同研究グループは、今回の成果により海流予測の分野でもアンサンブル予測手法が導入され、気候予測や漁獲量予測の高度化に繋がることが期待されると説明している。