「九州の有明海沿岸には、『若者の尻の穴』を食べる食文化がある」。
このように切り出せば、たちまちネット掲示板などは話題になるかもしれない。
しかし残念(?)ながら、現地で実際に食されているのは人間のそれではなく、干潟に生息するイソギンチャクである。
標準和名・イシワケイソギンチャク。
有明海沿岸での方言名は「ワケノシンノス」。
この「ワケノシンノス」を標準語に訳せば、「若い者の尻の穴」になるから恐ろしい。
地元で古くから食材として愛されてきたワケノシンノスは、現在では水産物専門店で全国にネット販売されている。
今回購入した商品は、送料込みで1kg4,200円。
多少高価ではあるが、試食してみることにした。
注文から数日後、ワケノシンノスが届く。
漬けられた海水の中で灰褐色の肢体をだらしなく伸ばし、触手をフワフワ漂わせる姿はおよそ食欲をそそられるものではない。
極端な魚介類嫌いが高じてか、水棲生物をモチーフにあらゆる邪神を創造したアメリカの怪奇作家の気持ちがよくわかるというものだ。
そんなワケノシンノスをザルにあければ一瞬で丸く縮こまる。
この状態で塩揉みしてヌメリを洗い流し、いよいよ調理に取りかかる。