【エンタメCOBS】翻訳のお仕事の話
――金井さんが翻訳の仕事を始めたのはいつからですか?
金井さん僕が大学生だった時ですね。英文科の学生だったんだけど、当時コンピューター情報誌の『ログイン』という雑誌があって、そこから英語の記事を訳してくださいって頼まれたのがそもそもの始まり。英語の雑誌のコラム記事やニュース記事を訳していました。そのうち編集部に入らないかって話になって、編集者としてログイン編集部に入ったのね。
編集部では英米の情報担当でした。
――金井さんの記事は面白かったですねえ。
金井さんありがとうございます(笑)。でも、このまま編集者の仕事をやってるのはとても続かないってことで編集部を辞めてね。体力的にきつかった、編集者の仕事は。それでフリーになったんですよ。海外からのゲームのマニュアルは随分翻訳しましたよ。
――ゲームを主にやってらしたんですね。
金井さん『ウルティマ』シリーズは2からはずっと僕がやったし、立ち上げのころの『ウルティマオンライン』、『ウォークラフト3』は僕が翻訳しましたよ。当時はゲームの黎明(れいめい)期でわかる人がほとんどいなかったからゲームの翻訳は本当にたくさんやりました。大分経ってからだけど、富士通さんがFMタウンズというパソコンを出した時には、海外から移植されたゲームが大挙してリリースされてね。例えばFMタウンズ版の『SimCity』のマニュアルは僕が翻訳しましたよ。先に出ていたPC-98版のSimCityのマニュアルがひどくてねえ。ひどい訳だった。
――ほかにはどんなゲームの翻訳をされましたか?
金井さん当時は海外からの移植ゲームが花盛りの時代だったんで、メーカーでいうと、EIDOSさん、ローカスさん、ビクター音楽産業さん、ポニーキャニオンさん、EAさん、カプコンさん、随分使っていただきましたね。『トゥームレイダー』は僕が翻訳しましたよ。
EAのSimシリーズでもいろいろやらせていただきました。
――今もゲームの仕事が多いんですか?
金井さん今はさっぱり(笑)。昔は攻略本を書きながらマニュアルの翻訳したりなんてこともやったけどね。
――金井さんは随分特殊な例かもしれませんが、翻訳の仕事をしたい人ってどうやって仕事をとればいいんでしょうか。
金井さんそうですね、翻訳会社っていうのがあって、そこに所属して仕事をしてる人もたくさんいますよね。
――翻訳会社というのはどんなものですか?
金井さん僕も一回だけ仕事したことあるんだけど、まずテストがあってそれに合格すると、そこから仕事がもらえるようになるんですよ。英語ができる主婦の人とかが副業でやってたりとか、アルバイト感覚で仕事できるんですね。
――翻訳会社っていうのはたくさんあるものですか?
金井さん無数にありますね。
でもギャラが安いんですよ。英語の翻訳の仕事って通常は1語いくらっていう取り決めでやります。普通は1語10円とかなんだけど、僕が経験した翻訳会社では1語8円とか、ひどいところになると1語3円なんてのもあります。しかも機械的に「これをいついつまでにやってね」みたいに仕事が来るので、あまりクリエイティブにやろうっていう感じにはなりにくいんだよね。
――金井さんは、その翻訳会社の仕事は結構やったのですか?
金井さん安いし、ノれないんでスグ辞めちゃった(笑)。
――小説とかはおやりにならないんですか?
金井さん昔、あるミステリーをたくさん出してる出版社さんに聞いたことあるんだけど、これもギャラがあんまり良くないのよね(笑)。通常翻訳印税ってことでギャラが支払われるんだけど、その場合は○%×部数っていうギャラでしょ。これがあまり良くないの。
ハリー・ポッターみたいなのになればまた別だけど。
――そういった小説などの翻訳の仕事をしたい人ってどうすればいいんでしょうか。
金井さんやっぱり誰かのお弟子さんから始めるとか、編集部にコネ作るとか、そういう努力が必要でしょうね。ある意味特殊な業界なので。
――金井さんが今メインに手掛けている仕事はどんなものなんでしょうか?
金井さん僕は、海外ゲームとかの翻訳をずっとやってきたので、その流れでアプリケーションのマニュアルとか多いですね。例えば3Dソフトで『modo』っていうのがあるんだけど、これは僕も参加しています。
*……『modo』は非常に高機能な3D CGソフト。多くのCGスタジオで採用されている。
――マニュアルを作るのは結構面倒な作業だと思うんですが……。
金井さんもちろん英語版のマニュアルを元に訳すんだけど、アメリカのプログラマーやデザイナーと「ここはこう説明した方がいいよね」なんて言いながら作業しているので、機械的に翻訳してるんじゃなくて楽しいんですよ。クリエイティブな翻訳なんで、とてもいい仕事をさせてもらっていると思います。
――翻訳の作業で心掛けている点を教えてください。
金井さんちゃんとした日本語にすることですね。英語力よりもむしろ日本語力が必要とされる仕事なんですよ。仕上がったものが自然な日本語になっていること、これはとても重要なことです。日本語で文章が書けない人が訳すとおかしなものになっちゃうので。
――詩人の谷川俊太郎さんが訳した『ピーナッツ』(スヌーピーの漫画)なんかはとても面白いですもんね。
金井さんそうそう。ああいう語彙(ごい)が豊富で、表現もうまくて、日本語に長じた人が翻訳するととてもいいものに上がるよね。英語がわかるだけだといい翻訳にはならないんじゃないかなあ。僕はそう思っていますね。
(高橋モータース@dcp)
金井哲夫さんのサイト『(有)スカイロケット』
http://blog.skyrocket.co.jp/?pid=2474