【エンタメCOBS】ラノベ作家ってオイシイ職業なのか?~突然ラノベ作家になってムフフな俺がいる~
そんな背景から、ライトノベル作家にはなんとも「オイシイ」イメージがあり、仕事が苦痛であったり人付き合いが苦手という若者を中心に「ラノベ作家になって人生を一発逆転」という話題がネット掲示板で頻出している。一体、どのようにして書き手の側に回るのだろうか。実際の所、ラノベ作家という職業は本当にオイシイのだろうか。また書き手になった場合、生活はどのように変化するのか。
IT企業に契約社員として勤務していた三十二歳の時、『人類は衰退しました』の田中ロミオ氏がゲスト審査員を務めた「第3回小学館ライトノベル大賞」で審査員特別賞を受賞し専業作家に転身、という異色の経歴を持つライトノベル作家・川岸殴魚氏にインタビューを試みた。
氏は受賞作でもある「邪神大沼」シリーズ全8巻を刊行した後、現在は「人生」シリーズを小学館ガガガ文庫にて刊行している。
――ライトノベルを書き始めるまでの経緯を聞かせてください。
十代の頃はそこそこ勉強もして一般的なレールに沿って生きてきたんですけど、大学で劇団を始めるというありがちな落とし穴にはまりました。結局、劇団はうまくいかなかったんですが、その後、二十代半ばから自主映画にチャレンジするというこれまたありがちな穴にはまったんです。そんな儲からなさそうな事をやっているうち、同じ活動の仲間が次々と辞め、最終的には自分も夜勤でウェブサイトを管理する契約社員になりました。
会社員としての仕事もそこまで嫌ではなかったんですが、どこか物足りない部分がありました。劇団や自主映画を何年もやっていたせいで、何かしら創作活動に関わって生きていたいと思うようになっていましたね。
――劇団、自主映画の次に、ライトノベルを選んだ理由は?結構、突飛なイメージがあるんですけど。
何かを作る活動で失敗しても誰かのせいにしたくなかったので、自分ひとりで出来るジャンルがやりたかった。何かで一発逆転かましてやろうと思いながら、色々と模索していたんですが、三十過ぎのオッサンにチャンスをくれそうなジャンルってあんまりなくて、行き着いたのが年齢制限の無いライトノベルでした。――それは切実ですね。そこからどのように作品を書き始めたのでしょうか?
夜勤の仕事はネットの見張りのような内容で非常に楽だったので、出社してから最低限の仕事だけ済ますと終業までずっと応募用の原稿を書いていました。会社公認のサボれる時間で、とてもありがたい環境でしたね。
――夢のような会社ですね!一日の勤務で原稿は何文字ぐらい書いていたんですか?
最初は1,000文字ぐらいから、だんだん増えて最終的には4,000文字ぐらい書けるようになりました。でも不況のあおりで部署が無くなり、僕リストラされたんですよ。ちょうど受賞が決定した直後の時期でした。
――仕事中にラノベを書けるような職場ならではですね!初めて書いた作品の応募で、小学館ライトノベル大賞の特別賞を受賞されましたが、送った時には賞をとれると思っていました?
まったく思ってませんでした。とりあえず応募してみないと始まらないので、どんな出来上がりでも書き終えて絶対応募するって決めていただけです。
――作品を応募するにあたっていちばん意識した事は?
まず自分の得意な部分をアピールすることを考えました。僕の場合はそれが「ギャグ」だったんです。それまでのラノベで使われる笑いは主にラノベやアニメの「パロディ」が主流だったんですけど、違いを出すために「パロディ」じゃなく「ギャグ」を意識的に入れようとしましたね。とにかく笑いの部分でインパクトのある形にしようとしました。
――なるほど。あえて「パロディ」を使わず、笑いのスタイルで勝負したと。
ところで川岸先生、ぶっちゃけラノベ作家になってから儲かってます?
そんなに儲かってないけど、少なくとも普通のバイトよりはマシかなあ。
――ちなみに、いまの仕事を時給換算すると、どれぐらい?
書いている時間で計算したら2,200円ぐらい。ひょっとしたら、もうちょっとあるかな。
――結構オイシイ仕事じゃないですか!
でもアイデアを絞り出す時間とか修正の時間を含むと1,000円切るかもね。それでも昔の生活と比べたら、気持ちの面でマシだけど。
――ライトノベル作家になって生活は変わりました?女性にモテるようになったとか、友達が増えたとか。
これは断言できるけど、女にモテる可能性はゼロです。少なくとも自分は仕事で女性に会う機会は一切ないです。
付き合いという面では、たしかに書き手の仲間は増えましたね。でも残念ながら、全員が男です。
――最後に、人付き合いが苦手で「ラノベ作家になって人生を一発逆転」と真剣に考えている人達に向けて、メッセージをお願いします。
まともに人間扱いしてくれない社会になんか出たくなくてあたりまえ!でも、自分を肯定的に扱ってくれる場所がひとつでもあると俄然人生が楽しくなるよ。僕にとってはライトノベルが、その場所です。
――ありがとうございました。ところで、この記事のタイトルどうしましょうね?
「突然ラノベ作家になってムフフな俺がいる」
――やらないって言ってたラノベのパロディじゃねーか!
(文/本折浩之)