猫と売れないフォーク・シンガーの旅物語 『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』【映画ライター渡まち子の「猫目線」映画レビュー5】
◆この映画の猫ポイントはここ!画像:(c) toyosaka – Fotolia (写真はイメージです)
主人公ルーウィンが仕方なく預かり、成り行きで一緒に旅をするのは、いつもしっぽをピンと立てて歩く茶色のトラ猫。恩人夫婦の飼い猫であるこの猫は、ルーウィンがうっかり開けた窓やドアを狙って外に出てしまいます。しまった! どうやって連れ戻そう…。猫を飼った経験がある人なら、この状況、きっと思い当たるのでは?
ルーウィンに抱っこされながら旅をするトラ猫は、最初は人違いならぬ猫違い、さらに旅の途中ではルーウィンの相棒になりかけていたのに、なんと車に置き去りにされてしまうという受難の運命に。それは、ついてない毎日を送りながら、それでも歌うことをやめないルーウィンのひょうひょうとした人生に、どこか似ています。
物語のラストでは、再びライブハウスで歌うルーウィンの姿が。彼が歌い終わった後に、無造作な身なりの無名の若者が、ギターを抱えてステージで歌い始めます。その若者こそがボブ・ディラン。
ひたむきに歌う名もない歌手たちの思いが受け継がれる瞬間です。そうそう、ルーウィンの旅の相棒のトラ猫の名前はユリシーズ。ギリシャ神話の英雄オデュッセウスの英語名です。長い長い苦難の旅の末に、ついに家にたどりつく英雄と同じように、トラ猫のユリシーズもまた、自力で飼い主の元へ戻っていくのです。