連載記事:法律で切るママトラブル

マタハラより悪質? 近年増加している「スポイル上司」とは一体?(法律で切るママトラブル Vol.10)


「スポイル上司」と「マタハラ上司」はどう違う?

「スポイル(spoil)上司」とは、良かれと思って(あるいは、表面上は女性のためという姿勢を押し出して)女性を特別扱いし、女性のキャリアを潰してしまう上司のことです(spoilとは、甘やかして台無しにするといったような意味)。

たとえば、上司が、「何かあったときにすぐ帰れるよう、誰でもできる仕事、代わりがいる部署に配属したほうがよいだろう」「残業になったら困るだろうから、この重大なプロジェクトからは外そう」など、子育てママに配慮をしたつもりになって、本人が望まない方向に進めてしまう。産前と変わらず働くことを望んでいたママは、時間的なゆとりと引き換えに、やりがいや昇進・昇給のチャンスを失い、結局仕事自体へのモチベーションが下がって…ということもあります。

この「スポイル上司」は、嫌がらせをしたり降格したりといった今までの「マタハラ上司」と違い、自分は女性に対する配慮をしているつもりになっており、悪気がないのが厄介なところです。ただ、妊娠・出産・育児を理由に女性を不利益に扱うことに変わりはないので、スポイル上司もマタハラ上司の一種と言えるでしょう。


まとめ

妊娠、出産、育休を理由に解雇等の不利益な処分をすることは、男女雇用機会均等法9条3項により禁止されています。嫌がらせを受けた場合は、慰謝料等の損害賠償を請求することができます(民法710条)。

また、妊娠、出産、育休を理由に給料を下げられた場合、一方的な労働条件の切下げは無効ですから(労働契約法3条、8条)、もともと支払われていた賃金との差額を請求することができます。実際、平成27年11月17日広島高等裁判所判決では、妊娠中軽易な業務を希望して役職を外れた女性を職場復帰後元の役職に戻さなかったことを違法とし、使用者に約175万円の支払を命じました。

会社側に勘違いが生じないようにするためにも、妊娠中や育児休暇後の復帰については、予め上司や責任者としっかり話し合い、自分がどうしたいのか考え、希望を伝えることが大切です。

あとがき

育休後の働き方について、「時短勤務を求めたら、契約社員になれと言われた」「あとで正社員に戻すからと言われて、有期社員になるという契約書にサインさせられた」という相談を受けることがあります。

しかし、育休後に女性の労働条件を切り下げようとする会社は、後々簡単にクビを切りますし、正社員に戻すという口約束もなかったことにしてしまいます。提案された契約内容に納得していないのであれば、サインをしてはいけません。
その日その場でサインしなければならない理由なんてないので、「いったん持ち帰らせてください。」と言って書類を持ち帰り、家族や専門家に相談しましょう。

親になったら、子どものためにも稼がなければなりません。よくわからないから、そういう雰囲気だったから、ではなく、自分でしっかりと考えて賢いママになりましょう!

・協力:アディーレ法律事務所

(島田さくら<アディーレ法律事務所>)
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