イラスト:中村こてつ
「出産前は、こんなにイライラすることも、怒りっぽいこともなかったのに…」
自分の怒りがコントロールできず、その矛先をついつい夫へ向けてしまう自分に、さらに落ち込んでしまったことはありませんか?
一方、結婚前はあれほどにこやかで天真爛漫(てんしんらんまん)だった妻が、妊娠・出産をへてモンスター化…。イライラしたり怒鳴ったりする妻にとまどう夫の話もよく聞きます。
その原因は? 対処法とは?
『妻のトリセツ』(講談社+α新書)の著者であり、人工知能研究者、脳科学コメンテイターとして活躍する黒川伊保子さんにうかがいました。
お話をうかがったのは…
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)さん
人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した世界初と言われた、日本語対話型のコンピューターを開発。『女の機嫌の直し方』(集英社インターナショナル)、『夫婦脳~夫心と妻心は、なぜこうも相容れないのか』(新潮文庫)ほか著書多数。
■問題解決したがる男性脳、共感したがる女性脳
――男女の脳の違いによるすれ違いについて、黒川さんは多くの著書で記されていますね。男女では、脳のどんなところが違うのでしょうか?
黒川伊保子さん(以下、黒川さん):私は人工知能の研究に36年間携わってきました。人工知能開発では、ヒトの脳の神経信号特性を分析して、脳の演算モデル(判断したり、問題解決したり、対話したりするときの仕組み)を割り出し、それをコンピュータ上に実装していきます。
そのような研究開発の途上で、男女の脳では、とっさに使う「典型的な演算モデル」に違いがあることに気づきました。
ⓒmilatas-stock.adobe.com
まず男性脳。男性脳は、何万年も狩りをしながら進化してきました。荒野に出て、危険な目にあいながら、仲間と自分を救いつつ、確実に成果を持って帰れる男性だけが子孫を増やせたのです。
このため、「空間認知力」が高く「すばやい問題解決」ができる男性脳だけが生き残ってきました。
一方で女性脳は、密なコミュニケーションの中でうまくやっていけることが重要でした。
人類の授乳期間は世界平均で4.2歳。長いんです。そのうえ、生まれて1年も歩けない特殊な哺乳類。
単独で子どもを育てるにはリスクが高く、群れの中で子育てをする必要がありました。
群れの中でうまくやっていれば、周囲に守られ、自分の体調が悪くて母乳が出なくても、もらい乳できます。そのために必要なのが「共感力」でした。
共感してもらっていれば、気にかけてもらえる確率も上がる。共感さえしていれば、ことを荒立てずに、自分のしたいようにできる。
それができる女性が子孫を増やして生き残ってきたわけです。
――その男女脳の違いによって、具体的にどんなことが起きるのでしょうか?
黒川さん:共感してもらう利点を考えたら、戦いに勝つことなんて意味がない。
例えば、洞窟にヘビが出たとします。
それを果敢に退治する女性よりも、怖がって周囲にかばってもらう女性のほうが、ほかのことでも周囲に気をつかってもらえますよね。結果、母子生存の可能性が上がるわけです。
そのため、女性脳は問題解決よりも共感を優先します。当然、男性脳はその逆。男性から見ると、すばやく問題解決しなければ安心できないので、共感なんてそっちのけで結論を突きつけてくるのです。
――確かに! 分かります。それによって、男女ですれ違いも起きるわけですね。
ⓒjedi-master-stock.adobe.com
黒川さん:夫婦の会話で、妻が「PTAのバザー、うまくいかなくて会計がすごく大変だった」と愚痴を言ったとします。
問題解決型の男性脳は「そんなに嫌なら役員なんてやめればいい」「そもそも引き受けたのが間違いだった」などと言いがち。
でも女性脳が欲しいのは、「それはそれは大変な一日だったね。お疲れさまでした」という共感とねぎらいの言葉なわけで、解決策なんて求めてはいないのです。この日々のコミュニケーションギャップが、妻のイライラの原因になるのです。