人はカメラになれるのか──杉本博司《CAMERA MAN》にJINSとSigmaが挑んだ理由

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2026年6月16日から東京国立近代美術館で開催されている「杉本博司 絶滅写真」。銀塩写真という“絶滅危惧種”とも言える写真技法をテーマにした本展のなかで、ひときわ異彩を放つ作品があります。それが《CAMERA MAN》です。

人はカメラになれるのか──杉本博司《CAMERA MAN》にJINSとSigmaが挑んだ理由
《CAMERA MAN》2026 Photo: Masatomo Moriyama(森山雅智) | Courtesy of JINS
一見すると、眼鏡のようにも、奇妙な光学機器のようにも見えるこの作品。しかし《CAMERA MAN》は、単なるオブジェでも、カメラでもありません。そこにあるのは、「人はカメラになれるのか」という杉本博司の根源的な問いです。そして、その構想を実際の装置として具現化したのが、アイウエアブランドのJINSと光学機器メーカーのSigmaでした。

人間の眼には、シャッターがない
杉本博司は長年にわたり、「見る」という行為そのものを問い続けてきました。
海と空だけを写した〈海景〉、映画一本分の光を一枚に焼き付けた〈劇場〉、自然史博物館の剥製を撮影した〈ジオラマ〉シリーズ。その多くは、写真というメディアを通して時間や記憶、認識のあり方を探る試みでもありました。《CAMERA MAN》もまた、その延長線上にあります。

杉本によれば、カメラは人間の眼の構造を模した装置です。

レンズは水晶体。
絞りは瞳孔。
フィルムは網膜。

しかし、そこにはひとつだけ決定的な違いがあります。
人間の眼には、シャッターが存在しないのです。そこで杉本は逆転の発想を試みます。

「ならば、人間の眼にシャッターを取り付けたらどうなるのか」。

《CAMERA MAN》は、その問いから生まれました。

JINSとSigmaだから実現できた
今回のニュースの本質は、単なる企業協賛ではありません。この作品は、JINSとSigmaという二つのメーカーが持つ専門性そのものによって成立しています。

JINSは、顔に装着するプロダクトとしての眼鏡を長年研究してきました。フィッティングやフレーム設計、人と視覚の関係性を考え続けてきたブランドです。


一方のSigmaは、レンズやカメラを手掛ける光学メーカーとして、高度な光学設計と精密加工技術を培ってきました。
眼鏡とカメラ。本来は異なる市場に属する二つのプロダクトですが、どちらも「見るための装置」であることに変わりはありません。《CAMERA MAN》では、その二つの技術が交差することで、人間の眼にシャッターを組み込んだかのような「人間写真機」が実現しています。

3分の闇、1秒の光
《CAMERA MAN》の体験は極めて特殊です。装着者はまず3分間、暗闇の中で過ごします。そして、自らの手でシャッターを切る。すると1秒だけ外界が露光され、その景色は網膜に焼き付けられます。
もちろん実際にフィルムへ記録されるわけではありません。像は記憶の中へ保存され、時間とともに薄れていきます。

ここで杉本は、この1秒を人間の一生に重ね合わせています。平均寿命を85年とすると、露光前の3分間はおよそ1万5000年に相当する。それは、人類が意識を持ち、文明を築いてきた時間とほぼ重なる長さだといいます。

つまり《CAMERA MAN》は、写真機として設計されているのではありません。文明の時間を、人間の身体感覚で体験するための装置なのです。

《CAMERA MAN》は写真機ではなく、時間の装置である
本展「杉本博司 絶滅写真」は、銀塩写真という技術の現在地を見つめ直す展覧会です。
デジタル化が進んだ現代において、銀塩写真は確かに“絶滅が危惧される”存在かもしれません。しかし、《CAMERA MAN》が問いかけているのは、写真技術の未来だけではありません。

人はどのように世界を見るのか。
記憶はどのように保存されるのか。
そして時間とは何なのか。

眼鏡とカメラの境界を曖昧にしながら、この作品は「視覚」という当たり前の行為を根底から揺さぶります。それはアートであり、光学機器であり、哲学でもある。

JINSとSigmaが協力して実現した《CAMERA MAN》は、人間の眼を模した装置ではなく、人間そのものを見つめ直すための装置なのかもしれません。


【INFORMATION】
杉本博司 絶滅写真(HIROSHI SUGIMOTO: EXTINCTION)

会期:2026年6月16日(火)〜9月13日(日)
会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
開館時間:10:00〜17:00(金・土曜日は20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(7月20日を除く)、7月21日(火)

提供:

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