被災地で行方不明者を探す警官 捜索中、住民にかけられた『意外な言葉』とは…
「人の役に立ちたい」
筆者の仕事における信念です。その上で今なお心に残っている話があります。
2011年3月11日に発生した、東日本大震災。
全国から多くの警察官が被災地へ派遣され、行方不明者の捜索をはじめとする活動に従事しました。
筆者が警察官だった頃、東日本大震災で福島県へ派遣された上司から、当時の話を聞いたことがあります。
10年以上が経った今でも忘れることのできない話を紹介します。
「自分たちは役に立つのか」派遣へ向かう道中の不安
上司は東日本大震災の発生後、福島県へ派遣され、行方不明者の捜索に従事しました。
被災地へ向かうバスの中では、警察官たちからさまざまな不安の声が上がっていたといいます。
「余震による二次被害は大丈夫だろうか」
「原発事故による影響はないのだろうか」
自分たちの身の安全に対する不安はもちろん、もう1つ、警察官たちが口にしていたことがありました。
「自分たちの活動は、本当に住民の方のためになるのだろうか」
任務は、行方不明者の捜索です。
支援物資を届けるなど、目に見える形で被災者を支援する活動とは異なり、行方不明者を捜索することが、どれほど住民のためになるのか。
それぞれが不安や迷いを抱えながら、被災地へ向かっていたそうです。
※写真はイメージ
そして、現地へ到着。
そこで目にしたのは、想像を絶するほどの被害を受けた街の姿でした。
実際の被災地を目の当たりにし、警察官たちは言葉を失い、絶望にも似た感情を抱いたといいます。
「遠いところから、本当にありがとうございます」
想像を絶する被害を目の当たりにしながら、行方不明者の捜索を始めた警察官たち。
すると、現地で活動する中で、思いもしなかった出来事があったといいます。
被災者と顔を合わせるたびに、こんな声をかけてもらったのです。
「ありがとうございます」
「ご苦労様です」
中には、わざわざ警察官の近くまで来て「どこから来たのですか」と尋ねる人もいました。
所属を伝えると、「そんな遠いところから…本当にありがとうございます」と、涙を浮かべながら感謝を伝えてくれたそうです。
※写真はイメージ
この震災によって、もっともつらく、苦しい思いをしているのは被災者です。
それにもかかわらず、自分たちの不安や苦しみを口にするのではなく、遠くから来た警察官たちを気遣い、ねぎらいの言葉をかけてくれる。
その姿を見て、警察官たちの気持ちは大きく変わりました。
「俺らがしょぼくれた顔をしてどうするんだ!」
「被災した人たちのために、俺らができることをやるぞ!」
それまで不安な表情で活動していた警察官たちの間で、怒号にも近い声が飛び交うようになったといいます。
中には、涙を流しながら捜索を続ける警察官もいました。
「自分たちの活動に意味があるのか」
そんな迷いを抱えながら被災地へ向かった警察官たちにとって、被災者からかけられた言葉は「自分たちにできることをやろう」と奮い立たせる大きな力になったのでしょう。
「お前の助けを待っている人がいる」
この話をしてくれた上司は、当時、警察官になって間もなかった筆者に、こんな言葉をかけてくれました。
「警察をやってみてどうだ。嫌われる仕事だろう。何かあるたびに叩かれて、正しいことをしても罵られる。大変な仕事だよな」
そして、こう続けました。
「でもな、お前が『人を守る』という信念を持って仕事をする姿を、住民の方は待っている。
お前の助けを待っている人が必ずいるんだ」
当時の筆者は、仕事でつらいことが重なっていた時期でもありました。
その言葉と被災地での話が自分自身の状況と重なり、涙が止まらなくなったことを今でも覚えています。
『人の役に立つ』ということ
警察官という仕事では、感謝されることばかりではありません。
時には厳しい言葉を向けられ、自分がやっていることに意味があるのかと悩むこともありました。
それでも、自分の助けを必要としている人がいる。
「人の役に立つ」「人を守る」という信念を持ち、自分にできることを精一杯やる。
筆者は警察官を辞めるまで、この思いを大切にして仕事を続けました。そして警察官ではなくなった今も、その信念は変わっていません。
仕事や防犯に関する活動を続けるうえで、今でも筆者の根幹にあるものです。人の役に立つために、自分には何ができるのか。
東日本大震災で活動した警察官と被災者の話は、そのことを今も筆者に問いかけ続けています。
[文・構成/りょうせい]