「人を怖がらず、食べることに夢中」なアーバンベアが大量増加中の理由…今後はさらに“危険な状況”に
まるまると太ったニホンツキノワグマ (写真:FURIMAKO / PIXTA)
「9月20日、秋田県能代市でコメ農家を営む実家の農作業用の小屋の脇に仕掛けられた捕獲器にツキノワグマがかかりました。農作業用の小屋があるのは、市街地から車で10分ほどの里山で、昔からクマの目撃情報が多かった地域。車の前を横切ったり、列車にはねられた死体が転がっていたりといった話をよく聞いていました。それでもクマが民家近くには近寄ってくることはなかったみたいなのですが……」
そう語るのは本誌記者。
駆けつけた猟友会の話によれば、捕らえられたクマは体長約1.5m。「丸々と太っている。こんなに大きなのは珍しい」というオスの成獣は、ほどなくして射殺されたという。
死後硬直が始まる前に解体しなければならないということで、農作業用小屋の水道をつかってクマは血抜きや解体処理がされ、一部は食用の肉に。
実家も“分け前”をもらったという。
「この捕まったクマ以外にも、実家付近では2頭の親子連れもいるとのこと。最近は、『クマを殺すなんてかわいそう』という声も耳にしますが、とにかく、家族に人的被害がなかったことがなによりです」(前出・本誌記者)
別の地域住民も、次のように語る。
「今回のようなことがあると、クマが本当に人の生活圏に入ってきているのだと実感します。これまでは基本的には人の声がする場所にクマは近寄ってこず、大音量でラジオを流すなどして対処してきました。ですが、人のいるところにもツキノワグマが出現したり、けがをする人も出ています。ますます身の安全を確保することが難しくなっていますね」(地域住民)
記者の実家がある秋田県だけでなく、全国的に、クマの人里への出没や捕獲数は増加傾向にある。環境省によると、2023年のクマの捕獲数は9,276頭(ヒグマとツキノワグマ)で、人的被害が219人(うち死亡者6人)だった。
この年はとりわけ数が多かったが、今年はそれを上回るペースで被害がある地域も――。
なぜ、これほどまでにクマの被害が出ているのか?クマの研究を50年以上にわたって続けている「日本ツキノワグマ研究所」の米田一彦理事長が語る。
■人里におりているのは、2023年生まれクマの“子グマ”
「今年クマの出没が多いことは、じつは2023年の夏に予測済みでした。
クマの人里への出没は、クマが越冬に備えて採餌する広葉樹の果実が凶作の年に多いんです。2022年は餌資源が豊作となったことで、出産が進み母子グマが増加。その状況でさらに秋に凶作となった2023年は、クマが大出没となった年でした。今年の前半、捕獲や目撃されたクマは、体長1mほどの個体が多い。つまり、大量に出没した2023年に生まれた2歳半のクマであると考えられています」(米田氏、以下同)
さらに、これらのクマが“アーバンベア”であることも、遭遇・目撃の要因だという。
「2023年の晩秋には人の生活圏内で多くの母グマが捕殺されましたが、残された子グマは習性として、山に帰らずに母親を見失った場所の周辺に生息し続ける傾向にあります。その結果、一部は人里近くで越冬し、人や車の生活音なども恐れない『アーバンベア』(都市型クマ)になっていると考えられます。今年よく聞く『家に入り込み人を襲う』『玄関を出た直後に襲う』といった被害は、人の生活圏にアーバンベアが定着している証拠といえます」
山だけでなく、市街地でクマが出没することも珍しくなくなった。10月からはより危険な状況になると米田氏は語る。
「クマは、9月から11月は飽食期といわれ、冬眠前の食いだめのために、食べることに専念します。これからは、従来どおり山で生活していたクマに加え、アーバンベアもいる。それらのクマがいっせいに里に下りてくることが考えられます。山から下りてきたクマは、多少は人を恐れるかもしれませんが、アーバンベアは、人を怖がりません。
食べることに夢中で、何をしでかすかわからないのです」
冒頭のクマが捕獲された場所の近くにも、記者の実家で管理している柿と栗の木があった。「もしかしたら、お腹を空かせてこれを食べに来ていたのかも」と猟友会も語る。
埼玉県は7日、ドングリなどの堅果類豊凶調査の結果について、コナラが凶作、ブナが大凶作であったと公表した。東北地方や新潟県でも同様の結果が出ている。
冬眠前の主要な栄養源であるドングリの不作により、食べ物を求めて町におりてきたクマとの遭遇が増える可能性が、とくに高まっている今年。「自分の地域は大丈夫」と慢心せず、よりいっそうの警戒が必要だ。