「政府はもっと危機感を」専門家は警鐘 高市政権で“ナフサ不足”が深刻化…現場は「価格転嫁は避けられない」と悲鳴
「4カ月分のナフサは確保している」と説明する高市早苗首相(写真:共同通信)
「娘夫婦が家を新築中なんですが、工務店から『“ナフサ不足”の影響でキッチンの入荷時期が未定』『追加の費用が発生する可能性がある』と連絡があったそうです。娘は『これ以上の負担はもう無理』と、途方に暮れていました」
そう明かすのは、大阪府在住の80代の女性。
この女性が言う「ナフサ」とは、原油を蒸留・分離する過程で得られる石油製品のひとつ。これを加熱して生まれるエチレンは、プラスチックの原料となり、暮らしのあらゆる場面で使われている。
ところが今、ナフサが大きな供給不安に直面しているのだ。
「日本は、原油の約9割を、ナフサの約4割を中東から輸入しています。しかし、イスラエルとアメリカが仕掛けたイラン戦争によって、ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に。2カ月間、ほぼ原油やナフサの輸入がストップしています」(全国紙記者)
■「モノが入ってこない」と現場では悲鳴が…
4月中旬には、大手住宅機器メーカーのTOTOやLIXILが、新規受注の停止・供給調整を発表。
小規模の建築業者からも、「モノが入ってこない」といった悲鳴が上がっているのだ。
こうした状況に対して高市早苗首相(65)は、「これまでの輸入分や国内精製分、製品在庫を合わせて少なくとも4カ月分のナフサは確保している」と説明。「必要量は足りている」としたうえで、供給が滞っているのは「一部で流通の偏りや“目詰まり”が起きているため」と繰り返してきた。
「高市首相は、赤澤亮正経済産業大臣に“目詰まり”解消を命じていますが、現場では在庫のひっ迫が深刻化しています」(前出・全国紙記者)
このナフサ不足の影響は、私たちの生活に、より身近なかたちで迫りつつある。
「このままいくと、商品をお届けできなくなる可能性があります。商品を包む資材が不足していて、中身があっても販売できない、という事態が起きつつあるんです」
こう明かすのは、宅配サービス企業の広報担当者・Aさんだ。
「まだ顧客には公表していないので……」と前置きしたうえで、匿名を条件に取材に応じてくれた。
「納豆の容器や、上に貼るフィルムがすでに品薄になっています。
豆腐やマヨネーズ、ドレッシング類の容器もすべてプラスチック製なので、今後、容器が手に入らないといった影響が出てきそうです。
ここにきて立て続けに値上げ要請がきているので、今後は価格への転嫁も避けられません」
そのほか、パッケージに印字するインクもナフサ由来の製品で、そのインク不足も深刻化している。
■袋がないと中身を作れても包装できない
「インクが不足すると、商品名や消費期限といった表示がパッケージに印字できなくなります。そうなると、ほぼすべての商品の出荷に影響が出てしまう。
そのため当社では、代替手段を検討していて、たとえばパンなどの袋にはシールで対応しようとしています。レシートのように熱で発色するタイプのシールを使えば、インクを使わずに済むので」(前出・Aさん)
こうした“パッケージ・ショック”は、Aさんの会社だけではない。無添加ポテトチップスを販売するノースカラーズ(札幌市)は4月中旬、Xのアカウントを更新。
「袋がないと食品の中身を作れても包装ができない。
つまり出荷できない状況です」と投稿。
さらに、「世の中の食品が足りなくなる恐れを感じている」「袋は仕入れられたとしても、大幅な値上げが確定され、経営が非常に圧迫される」と発信して話題になった。
「メーカーの価格転嫁は待ったなし、というのが多くの専門家の見方です。実際に4月から、積水化成品工業は精肉トレイの原料を値上げし、三菱ケミカルも食品ラップや弁当容器などを35%以上値上げしました。クレハも、冷凍保存袋などの家庭用品を6月から値上げする予定です」(前出・全国紙記者)
こうした値上げラッシュを受け、野村総合研究所は、「今後、ナフサ由来の日用品の値上がりによる家計負担(家族4人)は、年間で約2万2,5000~3万5,100にのぼる」と試算している。
では、具体的にどのような商品が値上がりしていくのか。
「プラスチック系の梱包材や容器類を使用している商品は、基本的にすべて値上がりすると思ったほうがいい」と話すのは、石油化学コンサルタントの柳本浩希さん。
そこで本誌は、柳本さんら専門家への取材や報道資料を基に、「ナフサ不足ショックによる値上げリスト」を作成。
5月上旬には、Aさんも述べたように食品の値上げがやってくる。
「卵のパックや総菜のトレイ、肉などを入れる発泡スチロールの容器は、すべてナフサ由来ですから、値上がりは避けられません。ただ、ひとつあたりの材料費はそれほど大きくないので、商品価格としては、数十円程度の値上げ幅ではないでしょうか」(柳本さん)
700円の弁当なら約728~784円に。130円の納豆(3パック入り)なら、約143~169円程度に値上がりする可能性が考えられる。
また、野村総合研究所では、5月下旬から、ごみ袋や食品保存袋などの製品が「30%以上値上げされる」と予測している。
現在、約600円で販売されているごみ袋(45L・50枚入り)なら、少なくとも約780円に。イラン戦争が長引けば、50%値上げの900円超になる可能性も否めない。
さらに、在庫の切り替わり時期にあたる6月以降は、本格的な値上げラッシュが始まるという。
「冷凍食品やレトルト食品は、包装に特殊なプラスチックを使っているので、コストが大きい。洗剤やシャンプー類も、容器・中身ともにナフサ由来なので、値上げは避けられません」(柳本さん)
冷凍パスタ(1人前・トレイ付き)なら、約350円が455~560円に。大容量の詰め替え用シャンプーなら、約1,000円のものが1,050~1,150円程度まで値上がりする。
また、マヨネーズ(450g)は、約500円から最大20%増の600円に。大人用紙パンツ(1袋)も、約1,500円から最大20%増の約1,800円程度まで値上がりが予測される。
一方で疑問なのは、なぜ高市首相が「4カ月分は確保している」と述べているにもかかわらず、現場で品薄になっているのか、という点だ。
この疑問に対し「政府が言う“4カ月分”は理論上の数値にすぎない」と分析するのは、エネルギー問題に詳しいコネクトエネルギー合同会社CEOの境野春彦さんだ。こう続ける。
■もっても2カ月が限界。政府はもっと危機感を
「4カ月分の内訳は、これからの国内精製と中東代替調達の見込みが2カ月分。ナフサからつくられるプラスチック原料など、最終製品になる前の中間製品が2カ月分です。
しかし、前者の在庫の中には、まだ日本に届いてないものも含まれており、実際に使用できるのはごくわずか。また、後者の中間製品は、膨大な種類がありすぎて、どの用途の製品がどれだけあるのか政府も把握しきれていません。包材や溶剤などの不足が起きているのは、そのためでしょう」
中東以外から4月に確保できたナフサは、1カ月必要量の約3分の1(約90万kl)にとどまる。「この状況が続けば、持っても2カ月が限界。政府はもっと危機感を持つべきです」(境野さん)
値上げや品薄として暮らしを直撃する“パッケージ・ショック”。
いま、政府の対応が問われている。
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