「穴場を他人に荒らされたくない」クマ被害の7割が“山菜採り”中……それでも山形の地元民が警報発令中も“山に入る”ワケ

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「穴場を他人に荒らされたくない」クマ被害の7割が“山菜採り”中……それでも山形の地元民が警報発令中も“山に入る”ワケ

ツキノワグマ(写真:FURIMAKO/PIXTA)



5月20日、岩手県西和賀町の山林の沢で、損傷の激しい男性の遺体が見つかった。地元の消防や県警北上署は、山菜採りに出かけていた近くに住む男性(85)がクマに襲われた可能性が高いとみて調べを進めている。

こうした、“山菜採り”中にクマに襲われる被害は後を絶たない。 同じ東北地方の山菜王国である山形県によれば、1977年から2025年までの5~7月に県内で起きたクマによる人身事故35件のうち、25件は山菜採り中の事故だったという。じつに7割が山菜採り中の被害ということになる。

5月17日時点での、山形県におけるクマの目撃件数は、過去最多だった昨年同期の約1.6倍にあたる183件に上る。同県は「クマ出没警報」を発令するほか、吉村美栄子知事は13日の定例会見で、「山に入る際には今まで以上に厳重な注意をお願いしたい。趣味や自家消費での山菜採りは、正直に申し上げれば、できるだけ控えていただきたい」と訴えた。


■人馴れしたクマが山にも紛れ込んでいる

「山菜採り中にクマと遭遇するのは当然といえば当然」と語るのは、岩手県北上市稲瀬町にあるキャンプ施設「the campus」で山菜採りのフィールドワークを行っている、山菜採取歴20年超の菅原徹さん。

「山菜というのは、そもそも、クマが住んでいるところに生えているものなんです。そんなクマのテリトリーの中で、夢中で山菜を採っていると、視野が狭くなり、しゃがむことで生い茂った草木にも隠れやすくなる。そんな中クマと思わぬ形で遭遇し、驚いたクマが人を襲うというパターンは、これまでにもありました」(菅原さん、以下同)

5〜7月にかけては山菜採りのベストシーズン。今、山ではワラビ、ゼンマイ、タラノメ、コゴミ、タケノコなどが旬を迎えているが―――。

山菜採り中のクマ被害を懸念し、菅原さんの勤めるキャンプ場では、今年の山菜採りツアーを全て取りやめたという。

「現在、ツアーを含め山への立ち入りを控えている状況です。最近のクマに対してわからないことが多いので、山菜採りを簡単には再開できません。
経営的にも厳しいですが、山菜採りシーズンに山に入れないのは、とてももどかしく辛い状況です。今年は山菜採り中のクマ被害のニュースが多い影響で、私の肌感覚ですが、山菜愛好家の半数くらいは山に入っていないんじゃないでしょうか」

いっぽう、例年と変わらず山菜を採るために山に入り続ける人もいる。

■“山菜を採り続けなければもったいない”という心理

5月5日には、山形県酒田市の山で山菜採りに出かけ、クマに襲われたとみられる78歳の男性が遺体で発見された。この事故の翌日にも関わらず、隣接する鶴岡市の山に山菜採りに出かけた男性に出かける理由を尋ねてみると――。

「俺の山だもん。たくさん税金を払ってんだから、山菜を採るのは勝手だろ。今、採らねば食べごろを過ぎて不味くなんだもの。採らねばもったいねえ。
毎年、友人にタケノコをもらうから、俺は自分の山で採ったワラビをあげるのが恒例なのよ。もう長年続けた風習だからの。それに、俺が採った山菜で家族や友人たちが喜んでくれる姿を見るのが、何よりも嬉しい」(80歳男性)

男性は小学生の頃から山菜を採り続けてきた大ベテラン。所有する私有林には、今、ワラビやコゴミが生えているという。ちょうど良い収穫時期を見逃さないために週に3回は山に入っており、「対策はしているので大丈夫」と話す。

「山入るときは、必ず鈴つけてラジオ流してっから大丈夫だ。あと、ときどき大声出してクマを寄せつけねえようにしてる。ほかの山ではクマの目撃情報があるみたいだけど、俺が入ってる山にはクマは出ね。
それは経験でわかる」(前出・80歳男性)

別の男性は、クマ被害が多発している最中でも山菜採りに出かけずにはいられない“あるある”の理由をこう語る。

「キノコもそうだけど、山菜がよく生えてる穴場ってもんをみんな持ってんのよ。自分だけの秘密の場所。俺が山さ入んねでいるうちに、その場所を他人に荒らされたくねぇのよ」(73歳男性)

厳しい冬を乗り越えたご褒美のように、この時期にだけいただける山の恵み。クマが怖いからといって、みすみすこの山菜シーズンを見逃すわけにはいかないという思いは強い。

「対策をしているから大丈夫という自信や、これまで襲われてこなかった過去の経験が、逆に怖いと思っています。山菜採りに行く際は、音を鳴らすなど基本的な対策は全てやっていますが、去年あたりからはそれが通用しなくなっている印象です」(前出・菅原さん)
さらに菅原さんは、山菜採り愛好家の心理についてもこう付け加える。

「『他人に縄張りを荒らされたくない』『せっかく山菜が食べごろを迎えているのに、採らないのはもったいない』という気持ちは、山菜採りをする者にとってはよくある心理です。
気持ちはよくわかりますが、山菜は採らないでいるとその分、数が増えるんです。個人的には、そう思って我慢しています。今年、山菜採りを控えることで、来年はもっと山菜が増えてるんじゃないかなと期待しています」

山菜採り中のクマ被害について、山形県の担当者は次のように呼びかける。

「そもそも山菜が生えている場所は、クマが生息している場所ですから、そこに人が入っていく以上、遭遇する可能性は高くなってしまいます。今のところ、県として入山規制などの措置を講じる予定はありませんが、山菜採りをする際は細心の注意を払ってほしいです。『一人では行動しない』『音の出るものを携帯する』『遭遇したら背を向けてゆっくり後退する』などの基本的な対策をとっていただくのはもちろん、県では、クマの目撃情報を確認していただけるサイトやアプリ『けものおと2』を導入しています。山菜採りなどでお出かけする際は、それらを活用して事前に目撃情報を確認していただきたいです」(山形県 環境エネルギー部みどり自然課・鳥獣被害対策室 担当者)

山菜を採るために命を落とすのは、あまりにも代償が大きい――。

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