《深夜2時、ひとりで…》「事故物件」専門の調査会社を立ち上げた元エリート不動産マン 全国から依頼が集まる“新ビジネスの舞台裏”

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《深夜2時、ひとりで…》「事故物件」専門の調査会社を立ち上げた元エリート不動産マン 全国から依頼が集まる“新ビジネスの舞台裏”

事故物件を調査する会社「カチモード」を立ち上げた児玉和俊さん



深夜2時。4か月ほど前に孤独死で高齢男性が亡くなった部屋で、電磁波測定器やサーモグラフィーなどの器具に囲まれ、息をひそめる男がいた。株式会社カチモード代表の児玉和俊さん(46)だ。

児玉さんは、人が亡くなった「事故物件」に泊まり込み、映像や音声、電磁波などを測定し、事故物件に異常がないかを確認する調査を行っている。一見、オカルト企画にも見える調査だが、その実態は、不動産オーナーの資産価値を守るための、極めて合理的なビジネスだった。

■事故物件の「当たり前」への違和感

児玉さんは15年間、賃貸不動産管理会社で順調に昇進を重ねてきた。そのキャリアの中で、孤独死や自死が起きた「事故物件」の対応部署の責任者も任されていた。しかしその一方で、業界の常識に縛られ、本当に必要な対応ができないことに葛藤を抱えていた。


「人が亡くなった部屋は、大金をかけて特殊清掃やリフォームを入れ、新築同様にピカピカにします。それでも『過去に人が亡くなった』という事実が、住む人に心理的な抵抗感を与える『心理的瑕疵(かし)』とみなされます。そのため、どんなに新築同然の物件になっても、『事故物件』というだけで家賃を大きく下げなければ借り手がつかない。それが業界の当たり前でした。家賃を下げるのは、本来あらゆる手を尽くした最後の手段なんです。それなのに『それが常識だから』となす術もなく、オーナーさんの大切な資産価値が大幅に削られていく。その姿を見るのが歯がゆかったんです」

不動産の資産価値は家賃額に連動するため、家賃を数万円下げるだけで資産価値が大きく目減りする。苦しむオーナーを前に、児玉さんは一つの考えにたどり着く。


「清掃やリフォーム業者が入れば、部屋は原状回復されます。そこに残るのは、人の『怖い』という気持ちだけなんです。だったら私がその物件に泊まり込んで、映像や音声を調べて、『調査で異常は確認されませんでした』と示せばいい。そうすれば、家賃を大きく下げなくても済むかもしれないと思いました」

超高齢社会を迎え、孤独死などによる事故物件の問題は今後さらに増えていく。事故物件に異常がないことを証明する仕事に、需要があるーーそう確信した児玉さんは不動産管理会社を退職し、「事故物件の調査」をする会社を設立した。調査費用は1回8万円ほど。22時~翌6時までの8時間、夜通しで調査を行い、異常がなければ「調査報告書と異常のないことの証明書」を発行する。オーナーは入居希望者に対し、貸す部屋が事故物件であることとあわせて調査報告書を提示。
「事故物件ではあるが、調査では異常は確認されなかった」と説明する。その結果、必要以上の値下げを避けられ、資産価値を守ることにつながるのだ。

会社設立から約3年。ニッチなサービスながら、不動産オーナーの悩みに応える仕組みが話題を呼び、全国から調査依頼が来るようになった。現在は講演会にも招かれるなど、「事故物件」と資産価値をめぐる新たな選択肢として注目を集めている。

■心霊現象ではなく「愛」が残った部屋

児玉さんがこれまでに調査で関わってきた事故物件は、会社員時代も含めると400室を超える。調査だけでなく、特殊清掃や原状回復にも携わることから、現場では遺族と言葉を交わす機会も少なくない。

そんな中、今も忘れられない現場がある。
大病を患った末に未来に絶望し、自室で自ら命を絶った高齢女性の部屋の調査だ。高齢女性は「家族に迷惑をかけたくない」という思いを抱えていた。

「女性は病に苦しみ命を絶つ選択をした後も、最期の瞬間まで離れて暮らす娘さんのことを気にかけていました。遺書には『変わり果てた姿を見せてしまってごめんなさい。でもこうするしかなかった』という謝罪と、『あなたのことを深く愛している』『残した資産で迷惑をかけてしまった分の支払いを済ませて、残りはあなたの人生のために使ってください』という言葉がつづられていました。事故物件というと、何か恐ろしいものが残っているように思われがちですが、その部屋に残されていたのは苦しい状況の中でも、最後まで家族を思い続けた母親の愛情だったんです」

児玉さんは調査の後、環境データに異常がないことに加え、調査報告書へこう記した。

「健康上の事情を背景としたものであり、遺恨や憎悪などはなく、最後まで残された家族を思っていた様子が書面から読み取れたことから、心理的瑕疵は軽微であると考えられます」

この報告書はオーナーだけでなく、故人の娘さんにも渡すことになった。

「『母の最期の思いを残してくれてありがとうございます』と、涙を流しながらお礼を言ってくださったことが忘れられません」
■事故物件の調査が守るもの

「一見するとオカルト調査のようですよね。
でも実際は、家賃収入が減り、資産価値の低下に苦しむオーナーさんに寄り添い、次に住む入居者さんの不安を取り除く仕事です。ときには遺族の方の心を少しだけ軽くすることもあるかもしれません。調査をすることで、みんなが幸せになる仕事だと思っているんです」

超高齢社会を迎え、孤独死は今後さらに増えていく。事故物件をどう扱い、次の住まい手へつないでいくのか。その答えを探すように、児玉さんは今夜も、誰もいない暗闇の部屋で、静かにカメラを回し、測定器の数値を見つめ続けている。

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