「正しく読む必要はない」原作85周年『おさるのジョージ』翻訳家が明かす“愛される続ける理由”と読み聞かせのコツ

女性自身
「正しく読む必要はない」原作85周年『おさるのジョージ』翻訳家が明かす“愛される続ける理由”と読み聞かせのコツ

『おさるのジョージ』が85年続く「3つの理由」とは?(撮影:高野広美)



「あぁ、ジョージだ!」。黄色い表紙に描かれた子ざるに懐かしさがこみ上げる人も多いだろう。M&H.A.レイ夫妻の原作による米国の名作絵本『おさるのジョージ』シリーズ(岩波書店)は、今年、原作絵本刊行85周年を迎えた。

私も幼いころに原作の『ひとまねこざる』を読んで、大好きでした。好奇心旺盛で知りたがりやのおさるのジョージが、大活躍したり騒動を起こしたりしながら、最後には思わぬかたちでうまくいく。クスッと笑える絵本で、子供や孫にも読み聞かせをしてきました」

そう語るのは、『おさるのジョージ』シリーズをはじめ、250冊以上の海外絵本の翻訳を手がけてきた翻訳家の福本友美子さん。

「私が翻訳しているシリーズは、原作を元に別の作者が時代設定を現代に改めて書き継いだものです。ニューヨークの書店で見つけたときは、あとの人が新しく物語を作ることで、原作の魅力を損なうのではないかと思うところもあったんです。


ただ、原作者の思いを受け継ぎ、現代に生かすことで、これからも世界中で読んでもらえると思い直し、それなら日本の子供たちにも読んでもらいたいと、自ら出版社に持ち込み、翻訳が実現しました」

新シリーズは、これまでに34冊が刊行されている。ジョージがチョコレート工場や映画館に行ったり、バスケットボールや投票をしたりと、日常を舞台に繰り広げられる騒動が、最後は必ずハッピーエンドになるのがお決まり。

長年読み継がれる理由の1つ目について、福本さんは次のように話す。

「日本の子供たちはお利口さんが多いけれど、自分たちがやりたくてもできない大胆なことをジョージが代わりにやってくれることで、スカッとしたり、ワクワクしたりできる。子供の『知りたい』『試したい』という気持ちを肯定し、最後には『きいろいぼうしのおじさん』が迎えにきて安心できるところではないでしょうか」

展開の面白さに加えた理由の2つ目が、福本さんが紡ぐ日本語だろう。読み聞かせをするとリズムがよく、子供が驚くほど集中して聞いてくれるのだ。

■実際に声に出す作業を繰り返して翻訳をしている

「絵本の翻訳で大切なのは、まず対象年齢を考えることです。3歳と10歳の子供が読む絵本では、使う語彙も文章のリズムも違います。


たとえば未来形や過去形、『もし~だったら』のような仮定法の表現は、小さい子供にはすぐには伝わりにくいので使えません。その年齢にいちばんふさわしい言葉遣いを選ぶ必要があるんです」

絵本は、声に出して読まれる文章である点も、大人向けの本との大きな違いだ。

「まだ字が読めない子供たちにとって、絵本は誰かに読んでもらう『耳で聞く言葉』です。耳から入った言葉は、聞こえた順番に子供のなかで想像につながります。

ですから、耳に届いた言葉から自然に絵が浮かぶように、『耳で聞いて心地よく、読み手にとって声に出して読みやすい文章』を心がけています」

また、登場人物のキャラクターが自然に伝わるように言葉を選び抜いている。

「たとえば『吾輩は猫である』は英語だと『I am a cat』ですが、日本語では『私は猫です』だけではなく、『わしゃ猫だ』『僕は猫』『拙者は猫でござる』など、性別や年齢、時代、育った環境によって表現が変わります。だからこそ、主人公の『I』をどう訳し、その子らしい口調をどう作るか工夫しています」

福本さんは翻訳に携わる以前、公共図書館に勤務し、児童サービス担当として絵本の選書や、読み聞かせなどをしてきた。図書館職員として、さまざまな年齢の子供たちに読み聞かせをし、どのように本を読むのかをじっくりと観察できた経験が翻訳の仕事に大いに役立っているという。


「絵本というのは、次のページをめくるときの間合いがすごく大事なんです。子供にとって次の場面への想像を広げたり、ワクワクしたりする時間になるからです。そのために、私自身も実際に声に出して読みながら、ページをめくる作業を繰り返して訳しています」

そして3つ目の理由として、福本さんは、『おさるのジョージ』を読んで育った世代が、読み聞かせを受けた経験を持ち、その経験が次の世代への読み聞かせにつながっているとも感じている。

「私が子供のころは、今のように子供向けの絵本が家庭に多くある時代ではありませんでした。そんななかで『おさるのジョージ』が登場し、この絵本で育ったのが、私たちの世代です。

その前の世代である、たとえば私の親の世代は、絵本の読み聞かせは今ほど一般的ではなかったと思います。

でも私は子供のころにこうした絵本を読んで育っているので、自分の子供や孫にも絵本を読んであげることが自然にできるんです。そして、1960年代ごろから多くの絵本が出版され、私の子供の世代は、『ぐりとぐら』(福音館書店)や『ぐるんぱのようちえん』(福音館書店)のような日本の絵本や、翻訳された外国の絵本に触れています。
その世代が今、親になり、自然と読み聞かせが定着してきているように感じています」

そこで、よく質問を受けるのが、読み聞かせのコツだという。

「読み方は自由でいいんです。正しく読む必要はなくて、自分の言葉にしてもいいんですよ。『読んでいる途中に、次のページをめくってしまって困ります』という話もよく聞きますが、めくってしまったら、そのまま進んでもいいんです。また戻って、『このページにはこんな絵があったね』と振り返ってもいい。

次々にめくったり、前のページに戻ったり、子供とのやり取りを楽しみながら、自由に読んでいいものなんです」

つい、絵本を使って言葉を覚えさせよう、せっかくなら役立つ絵本がよさそうだと考えがちだが、読み聞かせで重要なことは、何よりも子や孫と一緒に楽しい時間を過ごすこと。

■一緒に楽しんでくれた経験が思い出として残る

「孫を膝に乗せて、一緒に絵本を開いて『こんな顔してるね』『おもしろい絵だね』と話しながら読む。その時間を楽しむことが大切なんです」

子供や孫にとって絵本は、ストーリーだけではなく、誰が読んでくれたかということもセットで思い出になる。


「小さいころに大人が自分のためだけに時間を作り、一対一で一緒に楽しんでくれたという経験が、絵本の思い出として強く残るんです。それが、絵本の楽しさのいちばん大きなところではないかなと思います。

大きくなったときに、その絵本を見るたびに『おばあちゃんに読んでもらったな』『お父さんと一緒に読んだな』という思い出もよみがえるんだと思います」

【PROFILE】

ふくもと・ゆみこ

日本を代表する翻訳家、児童文学研究者。元公共図書館職員としての経験を生かし,子供の心に寄り添ったリズミカルで親しみやすい翻訳で知られる。

提供元の記事

提供:

女性自身

この記事のキーワード