「高市の、高市による、高市のための政治」広報費350億円要求の一方で社会保障は負担増…識者が危惧する“メディアへの圧力”
歴代首相より、会見の機会が少ないと批判されている高市首相(撮影:長谷川新)
9月17日、本誌は高市政権が2027年度予算の概算要求で、「内閣広報」に今年度当初予算の約10倍となる約72億円、「政府広報」に前年度当初予算の約3.6倍となる280.5億円を要求し、“広報費”が合わせて約350億円規模にのぼることについて報じた。
記事が配信されると、SNSではこんな声が相次いだ。
《プロパガンダ広報や工作に350億円もの税金使うなら、まず高額療養費の負担増から取消すべき》
《広報費に350億円より、被災地救え!介護福祉に使え!高額療養費制度負担増やすな》
《農業を守り文化芸術を守って人の暮らしと命と尊厳を守ることに使ってほしい。政権の広報費に350億円要求、どうかしている》
高市早苗首相(65)のもと、高額療養費制度の自己負担上限の引き上げや、OTC類似薬をめぐる患者負担増など、社会保障では国民にさらなる負担を求める議論が進んでいる。それなのに、なぜ「広報」に約350億円もの税金を使うのか、という疑問だ。
■「高市の、高市による、高市のための政治」
「もう尋常じゃないですよ。広報費なんて、本来なら真っ先に削れる部分でしょう」
そう語るのは、元経済産業省官僚で政治経済評論家の古賀茂明さん(71)だ。
「会社の経営が危なくなれば、まず『それがなくても何とかなるんじゃないの』という部分から削るでしょう。
政府も同じです。本来なら広報費を削って、社会保障や子育て、教育に回すという話になるはずです。
ところが社会保障では、保険料を上げたりサービスをカットしたりして、それを『改革』と呼ぶ一方、広報費は何倍にも増やす。そこに、この政権が何を優先しているのかが表れていると思います」
さらに古賀さんは、政府広報と首相個人のPRとの境界にも疑問を呈する。
「政府広報は『政府全体』の広報ですが、当然、首相や各大臣のPRにも使える。『これは高市さんの肝煎りです』『私がやりました』という見せ方もできます。
政権の支持率が落ちたときや選挙が近づいたとき、実質的な宣伝に使うこともできる。自分が政権を握り続けるためにお金を使うということになれば、『高市の、高市による、高市のための政治』になってしまいます」
■188億円を「成長戦略」の広報に
なかでも注目されるのが、政府広報費280.5億円のうち188.3億円が、「強く豊かな日本」投資枠に計上されていることだ。
政府は、AI・半導体、造船、量子、創薬・先端医療などの戦略分野を含む日本成長戦略の重要政策について、テレビや新聞、インターネットなど「あらゆる広報媒体」を活用して発信を強化する方針だ。
だが古賀さんは、成長戦略をPRすることと、実際に経済を成長させることは別問題だと指摘する。
「成果が出て、それを普及させるために広報するなら分かります。でも、まだどうなるか分からない段階で、『こんなすごいことが起きます』と夢のような絵を見せても、それで政策が成功するわけではありません。
そもそも成長戦略の成果が出るのは5年、10年先。それなのに毎年のように作られるのは、各省庁が予算を獲得する材料になると同時に、そのときの総理や大臣の実績としてPRできるからです。そういう意味では、成長戦略自体が政権の宣伝という側面を持っているんです」
■政府が巨大スポンサーになれば……
そして、古賀さんがもう一つ問題視するのが、政府広報費と広告会社、メディアとの関係だ。
「自由民主党には政党交付金などの資金が豊富にあり、以前から株式会社電通などの広告会社が広報に関わってきました。
たとえば、『こうすれば高市さんの評判が上がる』『自民党の人気が出る』というふうに企画を提案するわけです。
今回、政府広報費がこれだけ増えれば、自民党のお金に加えて、政府のお金でも大規模なPRができることになります」
さらに、政府が広告会社にとって巨大な顧客となれば、メディアへの影響力が強まる可能性があるという。古賀さんは、テレビ朝日系『報道ステーション』のコメンテーターを務めていた当時をこう振り返る。
「電通が政府や自民党から多額の仕事を受けていれば、政府や自民党が直接言わなくても、広告会社を通じてメディアに影響を与えることができます。
実際、『報道ステーション』でも、選挙前に電通から『これはちょっとまずいんじゃないですか』という話が出ると、それが現場にも伝わり、選挙の政策論議などを扱いにくい雰囲気になる。政府に批判的な立場からモノを言うと『出すな』という圧がかかることもありました。これだけ広報予算が増えれば、そうした影響もさらに大きくなる可能性があります」
高市首相をめぐっては、総裁選や今年の衆院選でSNS動画をめぐる疑惑が報じられ、国会でも取り上げられてきた。
それだけに古賀さんは今回の大幅増額について、「普通だったら、あれだけ批判されれば『少し自粛します』『削ります』という話になるでしょう。
それを堂々と『10倍にします』と。国民をバカにしているとしか思えません」と厳しく批判する。
約350億円は、現段階ではあくまで概算要求だ。
「過去にいくら使ってどんな効果があったのか、一つひとつ国会でしっかり追及し、必要がなければ削るべきです」
社会保障では国民に負担増を求める一方、広報には約350億円を投じようとしている。その必要性と使途について、国会で厳しい検証が求められる。