電気グルーヴ35周年ツアー、 圧巻のパフォーマンスで満員のフロアを魅了した、Zepp Haneda追加公演をレポート
Text:伊藤亜希Photo:小境勝巳
電気グルーヴが、9月14日(土)のZepp Osaka Baysideを皮切りに35周年を記念する東名阪ツアー『電気グルーヴ35周年ツアー“3594”』を開催。チケットのソールドアウトを受け『電気グルーヴ35周年ツアー“3594”追加公演』が、10月6日(日)、Zepp Hanedaで行われた。ファンクラブなどでの先行受付後の一般発売は、なんと、当日から約1週間前の9月28日。にもかかわらず、当日は多くの観客が詰めかけフロアは満員だった。
18時。開演を告げるトライバルなトラックが大音量で響き渡ると大歓声が起こる。ステージを覆っていた幕が開いていく。ステージセンターには、拳を頭上に掲げるピエール瀧。
その後方、一段上がった機材を司る台の右側には、右手の人差し指で天を指す石野卓球の姿があった。オープニングを飾ったのは「アルペジ夫とオシ礼太」。2008年に発売されたアルバム『J-POP』の収録曲だ。
電気グルーヴ
原曲はアンビエントにも通ずるエレクトロニカ。開演前にセットリストを一見した際、なんとも渋い選曲での幕開けだと思ったが、そこはさすがの電気グルーヴ、原曲とはガラリと変わったグルーヴのあるトラックで、最初から観客の体のリズムを鷲掴みにしていく。原曲とはまったく違ったトラックとBPM。それが新曲の如く体の中を通っていく。これぞ、電気グルーヴのライブの大きな醍醐味だ。
サポートは、盟友・20 周年を機に卓球と瀧とともにアクリルスタンドにもなった牛尾憲輔(agraph)と、ギターの吉田サトシ。曲の後半、リズムと歪んだギターのサウンドシャワーの中「こんばんは、電気グルーヴでございます」と瀧が挨拶。ステージに設置されたLEDライトがデジタル数字で「3」「5」と赤く点滅する中、お馴染みの<Kiss Kiss Kiss~>のフレーズが流れ「Shangri-La feat. Inga Humpe」へ。卓球が歌うパートをサンプリングしたトラックで、歌がない分、卓球はリズムを加えたり、観客を煽ったりというパフォーマンスをみせる。1997年にヒットした電気グルーヴの代表曲といえる1曲は、彼らのライブとともに進化し続け、この日も最新バージョンで観客を高揚させた。
ノンストップで曲が次々と展開していく。曲間のつなぎの多彩さに脱帽。次の曲を聴覚で探る楽しみ、これも電気グルーヴのライブの特色だ。
あぁ、電気グルーヴしかできないんだよな、このつなぎ方。このつなぎがあるからこそ、グルーヴと集中が途切れないんだよなと脳裏の片隅で思いながら、サウンドだけに集中することができるのも、多彩なつなぎがあってこそ。フレーズのリフレイン、同じリズムでBPMをあげていくパターン、ギターの余韻から雰囲気でつなげるパターン、一転してバッと次の曲が始まるパターン、全曲のサビのフレーズをループしてデクレッシェンドしながら次曲のファクターを出していくパターンなど、テクノというスタイルだからこそ可能なことをいつも鮮やかにやってのける。ニクイぜ。
「Upside Down」のサビでは、瀧がオクターブ下のユニゾンを歌うという声を使った技も見せた。続く「Fallin’ Down」では、卓球が卓前からステージのセンターに走り出してきてボーカルをとった。ノンストップで9曲を披露した後、この日最初のMCへ。瀧が改めて挨拶した後、卓球を紹介すると、卓球は笑顔でカニ歩き。
その様子を受け「真っ直ぐ歩けない人なんですよ」と言い、会場を笑わせた。
ピエール瀧
石野卓球
中盤。電気グルーヴにしか思いつかない、そして普通は絶対にやろうとしないセットリストを披露。「電気グルーヴ10周年の歌 2019」「電気グルーヴ25周年の歌」「電気グルーヴ34周年の歌」「電気グルーヴ35周年の歌」、どの曲もというワンフレーズがパンチラインとなる、電気グルーヴらしい逸品揃い。レコーディングをしながら、ゲラゲラ笑う石野卓球とピエール瀧の姿が浮かんでくる曲だ。「電気グルーヴ34周年の歌」では<便所の窓から覗きこむ>という歌詞の後に、ふたり揃って“うわーっ!”とシャウトしながらポーズをとる場面もあり、心の中で思わず“小学生かよ!”と思ってしまった。
無邪気な狂気で観客を喜ばせる電気技を存分に聴かせた周年歌に続いて演奏されたのは、「マイアミ天国」。1991年にリリースされた彼らのメジャーデビューアルバム『FLASH PAPA』に収録された1曲だ。
マンチェスターでレコーディングされたこの作品は、ハードラップが中心ではあるが、後に彼らの音楽性の主軸となっていくサンプリングやハウスの要素も取り入れられた斬新な作品である。この曲のというリリックは、まさに電気グルーヴそのものを指すフレーズといっていいだろう。35周年ライブで披露されてこそ、説得力が増す。本当に電気グルーヴという音楽の在り方が詰まっていると思う。
電気グルーヴは、日本の音楽シーンにおいて、いつも“先端(旬)のマガイ物でありながら本物”で在り続けた。同様のジャンル、もっと言ってしまえば、電気グルーヴというスタイルのフォロワーが、35周年を迎えた今でも出てこないのがその証拠だろう。さらに『FUJI ROCK FESTIVAL』へ何度も出演や、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』で一晩中テクノミュージックを流し続ける“LOOPA NIGHT”を長い間ルーティンにしていたことに加えて、石野卓球がオーガナイザーを務める国内最大級の屋外テクノイベント『WIRE』を、15年に渡り開催してきた。こうしてしっかり国内のフェスでその存在を認知させ、無二のライブパフォーマンスをしてきたことで、電気グルーヴは音楽ファンを確実に手中にしてきたのだ。
少し前の話になるが、2022年10月15日、横浜・みなとみらいのぴあアリーナMMにて行われた復活ライブ『and the ARENA〜みんなとみらいのYOUとぴあ〜』での幅広い客層に驚いた。そしてこの日も、じつに幅広い年齢の客層がフロアで歓声をあげて自由に踊りまくっていた。ライブのキラーチューンのひとつ「B.B.E.」では小道具“カニばさみ手袋”も登場。卓球は卓の前でニッコニコで横歩きしていた。
ライブは後半へ向け、さらに熱気をあげていく。サイケデリックな映像が視覚から音像へ誘った「Nothing’s Gonna Change」で、瀧はスタンドマイクを客席に向けてレスポンスを乞うポーズ。ブルーに染まったステージから、レーザー光線が空間を切り裂くように踊った「スマイルレス スマイル」。キックの低音もどんどん前面に出てくる。
「N.O.」では、卓球がステージセンターで歌唱。いつもの卓球の位置、卓の前に瀧が移動し、椅子の上にあがり、観客を煽っていく。「Flashback Disco(is Back!)」のエンディングでは、卓球が“ディスコ!フラッシュ!バーック!”と叫んだ直後に、バックトラックの音数が減り、曲の終わりのワンフレーズで瀧が振り返りざまにサングラスをとってポーズを決めた。
演歌とテクノの融合との呼び名も高い「ジャンボタニシ」では、映像にタニシのイラストが躍る。冷静に考えたら映像もカオス! 瀧は朗々と歌いながら、フロア最前列の観客とタッチ。「見てください、聴いてください、電気グルーヴでございます、35年やってます」と卓球が叫ぶ。両手をあげ地鳴りのような大歓声で応えるダンスクラウド。ステージ上のLEDが空間に「1」「9」「9」「7」と時を刻む。「かっこいいジャンパー」の後は、本編ラストの「電気ビリビリ」。カラフルなレーザー光線がZepp Hanedaの空間を彩る。それはまるで祭りを彩る万国旗のようだった。国内外でその名を馳せる石野卓球、電気グルーヴ、そしてケンタウロス、おっと、否、ピエール瀧。レーザー光線の万国旗が世界中から電気グルーヴの35周年をお祝いしているように見えた。
アンコール。「アンコールありがとうございます」と瀧。卓球は本編の「B.B.E.」で登場した“カニばさみ手袋”がいたく気に入った様子で、いきなり「瀧もカニやれば」とひとこと。「俺もカニやる」と受けた瀧。“カニばさみ手袋”をはめようとするも「このカニ(ばさみ手袋)、びっちゃびちゃじゃん。でもお前(=卓球)と俺の中だから許す」と無理矢理“カニばさみ手袋”をはめる。そんな中“カニばさみ手袋”をつけた卓球が、客席に向かい「じゃーんけん、ぽん!」と右手を向ける。即反応してじゃんけんぽんでレスポンスをする観客。ステージも強者揃いなら客席も強者揃いだ。大爆笑しながら「ここで今パーを出してくる人、優しいね」と笑顔を見せる卓球。中盤の“周年の歌の連発”に「前髪とトイレをたくさん聴いたでしょ。これももうないからね」と、この日のライブがいかにレアであることを言葉にした。が直後、“カニばさみ手袋”をズイッと前に出し「クラブミュージック!」と放ち、そこにいる全員を大爆笑させた。
ここからしばらく“カニばさみ手袋”ではしゃぐ卓球の姿があったが、割愛させていただく。手だけカニのまま「電気グルーヴ32周年の歌」をステージ中央でふたりが椅子に座って披露。爽やかな風が一瞬かけぬけた......かもしれないかな? 最後の最後は「人間大統領」。瀧はカニ手で投げキッス、卓球はカニ手でカニ歩きをして、ステージを後にした。石野卓球とピエール瀧のふたりがライブ中、がっしり肩を組んだ瞬間に、あぁ、電気グルーヴはまだまだ続く、そしてもっともっと面白い、ずっとずっとフィジカルで刺激的な“電気で作るグルーヴ”を体感させてくれるだろうと思った。いや、体感させてくれるはず! 石野卓球さん、ピエール瀧さん、これからも最高で変えのきかない電気グルーヴをよろしく!
<公演情報>
『電気グルーヴ35周年ツアー“3594”』
10月6日(日) Zepp Haneda(TOKYO)