『佐々木亮介のひとさらい 2025』上野恩賜公園野外ステージ「何でこんな弾き語りでワンマンライブをしてるかって言うと……空いてたんですよ、ここが」
(Photo:オオミヒサト)
Text:ヤコウリュウジPhoto:オオミヒサト
a flood of circleのフロントマン、佐々木亮介の弾き語りワンマンライブ『佐々木亮介のひとさらい 2025』が8月23日、東京・上野恩賜公園野外ステージにて開催された。
猛暑日とも言える気温ではあったが、屋根があり、緑に囲まれた会場に心地よい風も吹き、夏の野外ライブとしては過ごしやすいシチュエーション。何か大きな発表やリリースがあってということではなかったが、600人以上の観客が弾き語りだからこそより際立つ歌を浴びようと集結。そんな観客へ向けて気取らないスタイルで、時折聴こえてくる鳥や車の環境音も味として取り込みながら、予定時間を超える熱演を繰り広げた。
定刻の16時を少し過ぎたところ、簡素な作りのステージへ登場した佐々木は軽くアコギのチューニングをした後、おもむろに「(作家の)中島らもって人が言ってたんですけど、今日の天使っていうのがいる、と。それが人なのか、虫なのか、葉っぱなのかわからないけど」と口を開き、「ってことは、オレの天使のみんな、ようこそ」と観客へ投げかけていく。字面だけを見れば気障な言葉のようにも思えるが、言い方は素朴でラフ。佐々木らしい人間味溢れる口調であり、観客は大きな拍手で応えていた。
そんな話からつなげるように、高らかに歌い出したのが「天使の歌が聴こえる」。アコギを軽く弾くものの、ほぼアカペラでささやくように、叫ぶように、その瞬間の感情をダイレクトに投影していく歌声が会場を飛び越えるように響き渡っていく。導入の1曲目から一気に観客の心を鷲掴みにしていった。
「横になってもいいよ。オレもそうするし(笑)」とおどけながら「ようこそ!」と改めて大きく声を上げ、軽快に歌い上げたのが「スーパーハッピーデイ」。キレの良いストロークと歌だけでド迫力なロックンロールを届けるのはさすが。タイトルコールで歓声も湧いたソロ曲「自由研究」では譜面が風に吹き飛ばされるアクシデントもあったが、観客へクラップを求め、その間に譜面を回収するという機転を利かせる。思わず笑いがこぼれる場面ではあったが、そんな自由なラフさも弾き語りならではだった。
イスの背もたれに寄りかかり、リビングのソファーでくつろいでいるような様子でアコギを軽く鳴らし、その歌の力でグワッと持っていったのが「Eine Kleine Nachtmusik」。伸びやかでしなやか、切り際の消え去りそうなニュアンスもいい色気がある。その繊細な表現に聴き入った観客からは大きな拍手も起こっていた。
猛暑の中、暑さを心配しつつ、「何でこんな弾き語りでワンマンライブをしてるかって言うと……空いてたんですよ、ここが」とこのライブの経緯に触れた後、「だから、このライブはどこにも向かってません。目的地とかみんなを感動させてやろうとか……恥ずかしいけど、普段はちょっとあったりする。今日は一生懸命やりますけど、夏の歌に夏っぽさを感じなくてもいいし、おばあちゃんのことを考えてもいいんです」と語りかける佐々木。無理に意気込まず、飲み物片手に鳴らされる音に身を任せればいい。佐々木らしい誠実さが垣間見えた瞬間でもあった。
会場全体にリラックスしたムードが生まれたことを感じ取ったのであろう。清涼感たっぷりに「Summer Soda」を終えた後、「みんな、夜は予定ある? 9時までやっていい?」とうれしそうに問いかけ、お茶割りのおかわりを買い求めに行く観客を微笑ましく見守ってから始まったのが「ベイビーブルーの星を探して」だった。アコギを止めて入れたフェイク、あえてマイクを遠ざけて生声のように響かせる歌声も惹きつけるポイントになっており、破裂寸前まで張り上げたサビとの対比も素晴らしかった。
「わかりますよ、革ジャン着て来いよ、って気持ちは」と自身の服装にツッコミを入れ、バンドメンバーであるアオキテツとのユニット・SATETSUのナンバーから「スーピー」を届けて、「人生をイメージするじゃないですか、これがいいって。これまでのほとんどの場面でイメージ通りにいかなくて。『ゴールド・ディガーズ』って曲を出したあたりから、こうしようと思ってたことが昨日、ひっくり返ったんですよね(苦笑)。でも、そうじゃなくなった場合にどうするか、っていうのが人生のチャームポイント。楽しませてくれるじゃん、って」と自身のスタンスを柔らかい口調で話していく。
弾き語りでは語りの部分も重要。そのアーティストの胸の内を深く知る機会にもなるのだ。
ここからカバー曲を連投したのだが、敬愛するスピッツの「ナナヘの気持ち」から続いたのが最近ハマっているというJUDY AND MARYの「ラッキープール」という驚きのセレクト。妙な違和感はなく、佐々木の声とメロディーの調和が素晴らしく、見事な1曲であったことは触れておきたい。
そして、お茶割りをグイッと飲んでから、ニヤリとした表情を浮かべながらステージのへりに座り込んで生声で届けてくれたのが「かわかわ」と「ともだちのうた」だった。佐々木は東京・浅草フランス座演芸場東洋館での弾き語りツーマンライブ『雷よ静かに轟け』でもそんな振る舞いを見せるが、この会場は野外でキャパの段違い。完全な路上スタイルではあるが、それでも環境音と馴染みつつ、ガツンと届く歌が凄まじい。「かわかわ」で混ぜたフリースタイルな<クソ暑いのわかってても来てくれる>、<気づいてないのかも、君は天使だよ>、「ともだちのうた」での<僕は君に会いにきてたんだ>という歌詞の沁み渡り方も本当に傑出していたのだ。
また、「これ、家にあるんですけど、その家でも出番がなくて今日かな、と」という話で笑いを誘ったキーボードに向かい、救急車のサイレンに“頑張れ”とエールを送って「人工衛星のブルース」、「白状」と「Wink Song」という3曲をタオルで何度も汗を拭いながら披露。秀逸な抑揚の付け方によって音の隙間をじっくりと味わえる瞬間がいくつもあり、ライブ全体を引き締めるポイントにもなっていたであろう。
「1時間半の予定だったんですけど、もういっか、ってところまでやっていい?」とうれしい呼びかけに観客が大きな拍手で応え、「やりたい曲、いっぱいあったんだよな」とエレキギターをセッティングして「猫がなつかない!」をプレイし、立ち上がって艶やかなアルペジオからマイクから離れた状態で始めたのが「Baby 君のことだよ」。ほぼ生声で、共に鳴るのはエレキギター。そのマッチングで心に響く味わいを生み出し、思いっきり歪ませたエレキギターをかき鳴らしながら「Summertime Blues Ⅱ」を続けた流れもまた良かった。スリリングなラップと歌がガツンとくるギャップにヤラれた観客も多かったはず。
気持ちよく歌いつつも、さすがにな、と時間を気にしながら観客のクラップを誘い、大きなシンガロングにも包まれながら「理由なき反抗 (The Rebel Age) 」、11月9日(日)に新宿KABUKICHO TOWER STAGEにて行われるフリーライブを終えた後は武道館にも辿り着きたいと力強く語ってからパワフルに「うれしいきもち」、本編ラストはアカペラで歌いだしてから改めて「マジ、ありがとう!」と観客へ感謝の気持ちを口にした「Honey Moon Song」だった。ステージの最前に立ち、その場の空気、観客の表情や熱気、環境音も風も全部を受け止めて歌い上げる。
武道館に立つ夜を重ねたくなるような、とても頼もしい姿だった。
ステージを去る佐々木へ贈る拍手がいつまでも鳴り止まず、そんな声に呼び戻されてアンコールとしてシリアスな歌とポエトリーラップが行き来する「KILLER KILLER」を披露し、締めくくりは本公演のタイトルにもなっている「ひとさらい」。素晴らしい一体感を生み出して大団円となった。
a flood of circleは9月から10月にわたって、これまで発表したすべての曲を演奏するツアー『レトロスペクティヴ 2025』を行い、その後は先ほども触れたように、ニュー・アルバムのリリースを記念したフリーライブを結成時から拠点としていた新宿・歌舞伎町にて11月9日(木)に開催。佐々木個人に目を向ければ11月23日(日)に弾き語りツーマン『“雷よ静かに轟け”第十一夜』も予定されている。期待感が高まる要所ばかりだが、熱が高まりまくっている佐々木、a flood of circleの熱のすべてを感じたいと思わせてくれるステージだった。
<公演情報>
『佐々木亮介のひとさらい 2025』
8月23日 東京・上野恩賜公園野外ステージ