2021年4月17日 12:00
隙のない演技でみせる成河(私)×福士誠治(彼) ミュージカル『スリル・ミー』観劇レポート
2003年にニューヨークで産声を上げ、2011年に栗山民也の演出により日本初演されたミュージカル、『スリル・ミー』。その10周年を記念した公演が、4月1日から5月2日まで東京芸術劇場シアターウエストで上演されている。トリプルキャストのうち成河×福士誠治の回を観劇したのだが、座席に着いてまず、久々に味わうこの作品に特有の“静けさ”に圧倒されてしまった。コロナ禍の劇場はどこも静かだが、観客の異常なまでの期待感と集中力から来るこの緊迫感は、それとは一線を画すもの。やがて客電が落ちると、唾を飲み込むことすらためらわれるような空気のなか、“私”と“彼”の物語が始まった。
猟奇的な誘拐殺人を犯した“私”が、収監から34年の時を経て、“彼”とともに起こした事件の真相を語り出す――。本作が10年にわたり観客を虜にし続けている理由は、まずはやはりこのストーリー、そして音楽にあると言っていいだろう。“私”による告白と、“彼”も登場する回想とを行き来しながら進むストーリーは、謎解きミステリーとしても、ふたりの歪んだラブロマンスとしても、また若者の心の闇や司法の限界といった問題を突き付ける社会派ドラマとしても味わえる。